06 一ヶ月雇用を受け入れたキースの働き①
ガウス様に連れられて馬を走らせているのは、ガウス様の話がキースにとっていい話だったからだった。
ガウス様が管理している一番大きな街に強盗と人攫いが度々出るという話だった。
その強盗達は要領よく、富裕層には手を出さずにちょっと裕福かな?というところを何件も狙って襲っているらしい。
見目のいい女を拐かし売り払って金に変えてもいる気配がある。
被害者は何人か見つけられたのだが、既に売られていて、焼き印が押されてしまっていた。
一度売られた女は背中に焼印を入れられてしまうので、その人生全てを亡くしてしまうのと同等だった。
奴隷商をも取り締まったが、攫われてきた女と売られてきた女の区別などいちいち着くはずがなく、奴隷商を罪に問うことはガウス様には出来ずにいた。
犯罪が頻繁に行われているのに捕まらない理由の一つに、
富裕層を狙わないので、憲兵達も大して力を入れて捜査しなかったらしい。
ガウス様が叱り飛ばして重い腰をあげて捜査を開始し始めたところだということだった。
一ヶ月雇用料金を貰え、キースが捕まえたらその権利はキースにくれるというので、ガウス様の話に乗っかることにした。
キースはバリバリ稼ぐぞ〜!!と己に気合を入れた。
宿はガウス様の館で、上げ膳据え膳してくれるというのでこれまたありがたい話だった。
出費なしの収入ばかり。なんていい仕事なんだろう!!
キースはいい人に出会えたものだと浮かれていた。
ガウス様の館に着くと、キースは客人扱いで館への出入りは自由にしていいと言われ、この街での手配書を全て渡された。
お目当ての強盗以外を捕まえても、それなりの金額を払ってくれるということで、キースのことを優秀なバウンティハンターとして憲兵達に紹介してくれた。
ガウス様はキースの捜査の邪魔をするなと厳命してくれた。
動きやすくていいなとキースは感謝した。
キースは憲兵の中の一人を手招いて、その憲兵を捕縛した。
ガウス様と憲兵達が唖然としているとキースは「こいつ、強盗犯の一人ですよ」と直ぐ側にいた憲兵へと渡し「ガウス様、一人目捕まえましたからね」とキースはガウス様ににっこり微笑んだ。
憲兵達の非難を浴びながら、ガウス様から渡された手配書の一枚を渡すと、憲兵達は押し黙った。
事情聴取を隅で聞いていると、憲兵は観念したのか、強盗犯はその憲兵を入れて二十三人程いて、他にも出入りしている人がいるらしいが、そういう人達には会ったことがないと言っていた。
それぞれ得意分野が違うと言って、二十三人の人相と特長が手配書として配られることになった。
その憲兵はまだ下っ端で、アジトは知らないとのことだった。
ガウス様からは早速の働きに「さすが私が見込んだ男!!」と自画自賛して、キースに酒を注いでくれた。
キースは一杯だけいただいて「仕事がありますから」と席を立った。
三日ほど立った日の夜、キースは今日は決行日で犯罪者達が蠢き出すと感が告げるので、気の向くままに闇の街中へと姿を隠した。
彼方此方に働いてしまう勘のおかげで、取り敢えず近場から手当たり次第向かっていった。
憲兵が捕まったことが出回ったら、この街から出ていってしまう可能性があったので、キースは早めに一人でも多く捕まえたかった。
一軒目では殺される瞬間にそっと立ち入り、いつもの如く顎を撫でるようなパンチ一つで沈めてマジックバックへと収納した。
犯人の憲兵から仕入れていた話通り、三人一組で襲っているようで三人を捕まえたら、襲われていた人達に兵士の詰め所へ行くように言い聞かせて「『キースが捕まえた』と言ってくれたら、番所で解るようになっているから」と言い置いて次のところへと向かった。
女を拐かそうとしている奴らには剣の腹で脳天を思いっきり叩いてやった。
子供を親の前で嬲って喜ぶ男達は、転がして急所を思いっきり踏みつけてやった。
不必要に家の中を荒らして回る男には服を薄皮一枚をいっしょにきりきざんでやった。
傷をつけて喜ぶ男は浅く何箇所も刺してやった。
それらを皆マジックバックに入れて、その日は勘が働かなくなってしまったので番所へ行って捕まえた男達を牢屋で取り出した。
十五人か。地下に潜った犯人達をこの先捕まえるのに苦労しそうだなと溜息を一つはいた。
憲兵達に犯人を渡して、キースは早々に風呂に入って眠ることにした。
久しぶりにいい仕事をした。とキースは気持ちよく眠ることが出来た。
。・。♫ 。・。♫ 。・。♫ 。・。♫ 。・。♫ 。・。♫ 。・。♫ 。・。♫
少しだけキースの持つ生物を入れられるマジックバックの話をしておこうか。
手に入れた話はまた別の話になるが、キースの持つ生物も入れられるマジックバックは威勢のいい男達でも中に入ると大人しくなってしまう効果がある。
中に入ったことがある奴に聞いた所、真の闇に何も聞こえない無音。自分が発しているはずの声すら聞こえなくて、耳が聞こえなくなったのか、声が出なくなったのかすら解らなくなるらしい。
上下左右も多分無く、無重力のような空間が広がっているが、息をすることに困ることはないらしい。
どれだけ足を動かしても端にぶつかることもないらしく、時間経過が解からなくなり、どんな豪気な人間でも二度とここから出られなくなるんじゃないかという恐怖に見舞われるのだそうだ。
容量は最大で百人以上入れたことがあるが、それでもまだ余裕があった。
中に入っている間は、腹も減らず喉も渇かないらしい。
ただひたすら孤独に苛まれるのだそうだ。
生きた魚なんかを入れると痩せることなく新鮮なまま保存ができる。
だが豚や牛を入れると、少々心がやられてしまっているように感じる。
鶏なんかも駄目だった。
精神的抑圧を感じるみたいだった。
食べる分には肉質が落ちるとかはないので、何の問題もないのだが、ペットや馬を入れると心を病んでしまうので、使い物にならなくなってしまう代物だ。
次話2/5予定です。
19:00UPから21:00UPに変更します。