04 争いが起こっていたらどちらが善人かわからない。
奴隷商人を見つけられないまま、キースは東へと進んでいた。
分かれ道に出てそのまま東へ向かうか、北へ向かうか、ちょっと考えて鳥が北へ向かっていったので、北を選んだ。
この先には確か中規模の村があったはずだ。
商人としての仕入れはたっぷりとしてあったので、そこで小銭を稼ぐのもいいかと思ったのだ。
歩を進めながら分かれ道には何らかの印があると便利だよな〜などとつまらないことを考えながら歩いていると、人の叫び声と、砂埃が立っているのが見えた。
あ・・・誰か襲われているんだなぁ〜とのんきに考えていた。
慌てるわけでなく、急ぎもしない。歩調を変えることなく進んでいく。
ついに戦闘が起こっている所についてしまって仕方なく声を掛けた。
「あのーー!!」
一瞬皆の動きが止まった。
「すいません。どちらがどちらの状態なのか解らなくて、私が加勢するなら一体どっちなんでしょうね?」
三秒ほどの間があって、一斉に皆が喋りだした。
皆が一斉に喋るので何を言っているのか解らなかったので、周りを見回していると、怪我人は双方に出ているようで、怪我人の中から手配犯の一人を見つけた。
「すいませんね。どちらがどちらなのか解からないんですが、私が加勢すべき相手が解ったので、加勢させてもらいますね」
怪我で倒れている手配犯を生き物を入れられるマジックバックに入れて、手配犯の仲間と思われる方を殴ったり、剣の腹で脳天を叩いてみたり、死なない程度に怪我をさせてはマジックバックへ入れていった。
残り一人になった時、逃げ出したので仕方なく投げナイフで脳天を突き刺してしまった。
足を狙ったのに手が滑ってしまった。失敗した。
「いやぁ〜残りの方々が善か悪か知りませんが・・・」
話している途中を遮られて「ありがとうございます」と礼を言われた。
言い分を聞くと盗賊に襲われていたということだった。
「まぁ、そうでしょうね。手配犯だったので・・・」
一人が俺と喋っている間に他の人達が怪我人の手当をしていた。
怪我人を馬車に乗せて「よかったら馬が余りますから、馬に乗って村までご一緒されますか?」と言われて「では遠慮なく」と馬に跨って中規模の村へと向かった。
「この村には最近ギルドが出来たんですよ」
「へぇーーそうなんですか?」
「ええ。小さいですけどね。村の規模が少し大きくなってきて、少数の冒険者が在中していても食べていける程度には稼げるようになったらしく、引退間際の冒険者の方が一五〜六人居られますよ」
「ああ、なるほど」
ちょっと怪しい話だなと思ったが、引退間際がのんびりとこなす程度のギルドなら理解できなくはないかなと思った。
遠目に見えてきた村には腰より少し高いかな?と思える防壁が作られている途中だった。前はこんなのなかった筈だとキースは記憶を掘り返していた。
「前には防壁はなかったですよね?」
「最近野生動物が畑を荒らすんです。子供達と、仕事にあぶれた者が小遣い欲しさにちょっとづつ積んでいるんです。いつになったら完成するのか解りませんけどね」
「なるほどね・・・その野生動物を冒険者達が狩って、肉と毛皮を売るんですね」
「その通りです。冒険者さん達には感謝しかありません」
出入り口には若い男が二人槍を持って立っていた。
「ちょっと来ない間に随分変わりましたね〜」
「今までに来られたことがあるんですか?」
「ええ。生活必需品なんかをちょっと売ったりしてまして」
「そうですか!!それは助かります!!」
出入り口で俺と話していた人の姿を見て、何も言わずに通された。
「私まで通ちゃってよかったんですかね?」
「大丈夫です。・・・えぇっと、変なことしませんよね?」
大丈夫と言ってから急に心配になったのだろう、自信なさげに聞いてきたので「何もしませんよ」と笑って伝えた。
お礼がしたいから、是非我が家に泊まってくれと言われて「では遠慮なく」と泊めてもらうことにした。
家の場所は解ったので俺は「ちょっと冒険者ギルドに行ってきます」と伝えて場所を聞いて冒険者ギルドへ向かった。
今までに見たこともないほど、のほほんとした冒険者ギルドで、仕事内容は常時依頼だけで野生動物の討伐と防壁の岩積みが張り出されているだけだった。
それでも一応、最新版の手配書が置いてあり、持っていない手配書を貰っていくことにした。
「ここのギルドで盗賊とか預けても大丈夫なのかな?」
受付のお婆ちゃんに言うと「無理に決まってるだろ。馬鹿だな」と言われてしまった。
まぁ、そうだろうと思っていたので「解ったよ。それと、日用品なんかを持ってきているんだけど、売ってもいいかい?」
「それはありがたいね。中央で好きに店を開いていいよ」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。で、中央ってどこ?」
「ここに来るまでに円形に道の分かれ目があっただろう?」
「ああ。あったね」
「そこのことだよ」
「ありがとう。時間も時間だけど、ちょっとだけ売っていくかな」
ギルドを出ると、受付のお婆ちゃんも付いて来た。
「受付放っといていいの?」
「誰も困りゃぁしないよ」
俺はちょっとおかしく思って「何が欲しいの?」と聞いたら「野菜を持っていないか?」と聞かれた。
「カブ、ナンキン、芋、ほうれん草、玉ねぎくらいしか持っていなかったかな?」
「ああ、それでいいよ。一つずつおくれ」
俺は一人目の客を掴まえてからというもの、ひっきりなしに客が来て、いろんな物を欲しがった。
小銭を稼ぐどころか、結構な儲けになった。
日が暮れてきたので「明日もここで朝から店、開くからまた明日な」と言って、今日泊めてくれるといった家へと向かった。
「おかえりなさい」
四十代半ばくらいの女性が俺に向けて笑顔で迎えられて、少し戸惑った。
「あなたのおかげでうちの子達が誰も死ななかったよ。ありがとうね」
ああ。と少し納得した。
「旅の汚れを落としておいで」
木の樽に湯が張られていて「その湯全部使っていいからゆっくり浸かりな」と言われて、ここでは最高のもてなしだろうと思った。
ありがたく頭と体を洗って、木樽の中に体を浸けた。
狭いけど、体を湯に浸せる幸せを感じていた。
脱いだ服がなくなっていて、脱いだ服を置いていた所に替えの服が置かれていた。
「これ着てもいいってことかな?」
「はい。着て居られた服は今洗濯していますから!!」
そう返事が来て「うわぁ〜汚いでしょう?!すいません。なんか恥ずかしいです!!」
「気にしなくていいんですよ。うちの息子が助けてもらいましたから!!」
「いえ、ただ通りかかっただけなんで、気にしないでください!!」
そんな調子で美味しい食事に、柔らかい布団まで用意してもらって、夜は更けた。
俺の服はまだ乾いていないらしくて、昨日風呂上がりに着た衣装のまま中央で店を開くことになった。
そこには板野台が置かれていてギルドのお婆ちゃんが商品をそこに出せと言い、商品を出していくと次から次へと売れていった。
持ってるもの全部売れそうな勢いだなと感じながらその日で店じまいとした。
「また来るからさ」と本当か嘘か解からないようなことを言って客をあしらった。
その日、もう一泊お世話になり翌朝、別れの挨拶をしようとして、その家の主に世話になったと挨拶をしようとしたら、奴隷商を見つけてしまった。
キースは大きく息を吐き出した。
次話1/14予定です。