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03 勘が鈍ったと言われてしまったキース

 キースは途方に暮れていた。

 バウンティハンター・キースと判った上で牢屋に入れられたからだ。

 

 いつものように生き物も入れられるマジックバッグに大量の犯罪者を入れていて、引き取ってもらおうと思ったが、この街は珍しくギルドがない、唯一の街で領主様がすべての権限を持ち、その領主様に雇われている憲兵達が幅を利かせている街だった。


 手配書を見せて、マジックバックから犯罪者を取り出したら、マジックバックを取り上げられて「本当にお前の持ち物なのか?」と絡まれた上に取り上げられそうになった。

 キースは慌てて空間収納に生物を入れられるマジックバックを収納したら、今度は空間収納持ちだとバレて、空間収納をこちらに渡せと兵士に言われて断ったら、檻の中だった。


 領主までが出てきて「たかだかバウンティハンターごときが空間収納を持っているなんて、盗んだものに違いない」と言い張って譲らない。


「この空間魔法は代々バウンティハンターが受け継いできたものだ」

 そう説明しても受け入れてもらえず、冒険者ギルドがないために空間収納がキースのものだと証明して貰うという方法が使えなかった。


 この街は駄目だと見切りをつけて、一緒に放り込まれている人たちをマジックバックに収納して、ここから抜け出す方法を考えることにした。


 今まで通ってきた道を思い出しながら、配置されているのは多分五人、鍵を壊して抜け出すのは簡単だと思える。

 ただし、ここから抜け出した場合犯罪者として登録される可能性がある。


 相手はなんといっても領主様。たかだかバウンティハンターの一人や二人どうとでもできる。

 さて、どうしたものかと空間収納の中から干し肉を取り出してしゃぶりながらキースは弱り果てていた。


 空間収納の中には大量の食料と水や酒も入っているので、三〜四年ここで暮らすことになっても飢えることはないが、勘が鈍ることや体力が落ちることはどうしようもなくなる。

 長引かすことだけは敬遠したい。


 勘が利かなくなったバウンティハンター等、何の役にも立たない。

 そもそもここの街に入る事自体、嫌な感じはしていたんだ。

 だが街自体には嫌なものを感じていなかったから気にせずに憲兵に声を掛けて、その時にマズイ、ヤバイと頭の中で警報が鳴り出した。

 その時にはもう取り囲まれていて、逃げるに逃げられない状況になってしまっていた。


 どうしたものかと頭を悩ませていたら、細身で背が高い男がやってきて「申し訳ないね。領主が強欲なもので憲兵たちまで同じようなものばかりになってしまってね……」そう言いながらキースが入っている牢屋の扉を開けてくれた。


「もしかしてここから出た途端、逃亡者だとか言って捕まって今度は極刑にするつもりだったりするんですかね?」

「はっはははははっ!! まぁ、ちょっと不安になるよね。大丈夫。このまま自由になるから安心して。バウンティハンター・キースってとっても有能なんだってね。ちょっと調べただけで直ぐに情報が集まったよ」


「そうですか……」

「あぁ、そうそう。私はねここの領主の補佐をしているんだ」

「ますます嫌な感じがしてきました」

「なんだい? 出てこないのかい?」

「ええ。出るべきではないと勘が告げていますので……」


「ほう……やっぱり犯罪者をあれだけ捕まえられるっていうのは勘が良くなかったらできないものかね?」

「まぁ、そうですね。でもこの街に入ってしまったのだから俺の勘もまだまだ磨かなきゃいけないってことでしょうね」

「まぁ、残念だけどそういうことだね……」


 牢屋の扉は閉められたが鍵は掛けられないまま、領主の補佐と言う男は牢屋から出ていってしまった。

 いよいよ困った状況になってしまったことにキースは頭を抱える。

 ここから抜け出したら間違いなく犯罪者にされてしまう。

 

 暫く休養していなかったから、骨休めの期間だと思うしかないとキースは諦めた。

 牢屋の前に憲兵はいないので、空間収納から鍋や食材を出して料理をしてしっかり食べた。


 憲兵達が時折来ていい匂いがしているがなんだ?と言いながら巡回して鍵のかかっていない牢屋に鍵をかけずに去っていく。

 二週間ほど経った時、領主と補佐ともう一人好々爺然(こうこうやぜん)とした見知った顔が現れた。


「ギルマス……」

 キースはどこの冒険者ギルドのギルマスだったか忘れたが、ギルマスだということだけは覚えていた。

「キース、勘が鈍ったか?」

「いえ、街自体には何も感じなくて憲兵に声を掛けた途端にマズイと思った時には取り囲まれていてこの中に入れられてました」


冒険者ギルド(うち)のエースを出してもらおうか」

 ギルマスが低い声で領主たちに伝えると「元々開いている」と不機嫌そうな声で言った。

「へぇ……それで出なかったのか?キース」

「ええ。出たら逃亡犯にされそうな気がしましたので」


「最低限の勘は残っていたんだな」

「はい、なんとか」

「出てよし」

 ギルマスが言うので今度はキースも素直に出た。

「ここの牢屋どうだった?」

「一度も食事が出ませんでした」

「ほぉ〜……」


「ところでどうして俺がここに入れられていることが解ったんですか?」

「この街の人間がキースのことをやたらと調べていると報告が上がってきたんだ。で、お前の足取りを追うとこの周辺で所在が解らなくなったんだ。で、黒い噂ばかりのこの領主をこれ(さいわ)いと調べることにしたんだ」


「なるほど……。って、ことは俺が捕まってよかったということでは?」

「ふっん!! 言ってろ。ドジ踏んだことには変わりないんだからな」

「……まぁ、すいません。助かりました」

「よし! ではギルドの立ち上げを手伝え!!」

「えぇ……」


 領主と補佐は真っ青になって脂汗をかいている。

「上の人間は全員入れ替え決定だ」

「ぜひそうしていただきたいと思いますよ。一つの街にギルドと領主が存在して睨み合っていないと、腐っていくもんなんですねぇ・・・」


「安心しろ、陛下からのご命令でこの街にも冒険者ギルドができることになった。領主、側近は全員入れ替えること決められた」

 あぁ、そうだ! このギルマス、王都のギルマスだ……。

 冒険者ギルドのトップだ。


「王に睨まれるほど目立って悪いことしていたんですか?」

「ああ。上に立つ者としては最低だな。街の人達からの訴えで調べたら出るわ出るわ」

 キースはその内容は聞きたくないと思った。


 キースは冒険者ギルドとなる場所に連れて行かれて、風呂に入ってこいと言われて、さっぱりしてきた。

 ギルドの立ち上げを手伝わされて、この街からさっさと逃げ出したいのに、三ヶ月もこの街に滞在することになってしまった。


 ギルマスはキースに権力を持っていた人との面談をさせて、白、黒、グレーの人間に分けさせた。

 正直言って黒しか出なかったと言っても過言ではない状況だった。

 暇にしていたら町の入口に立たされて犯罪者の選別をさせられ、冒険者ギルドの建物に行ったら領主の館から押さえた書類の選別をさせられた。


 キースは何事にしても黒いものを見つけるのがうまいので、書類でも黒いものは次々と見つけていった。

「キース、次はグレーな者を出してくれ」


 キースは牢屋から出してもらったけれど「俺の拘束長すぎませんかね?」と文句を言ったが「鈍った勘を研ぎ澄まさせてやっているんだからありがたく思え」とギルマスに言われてしまった。


 キースは二度と自分の勘を疑ったりしないと決心して、書類と格闘した。


 ちなみに黒と判定された領主やその側近達は王都へ俺が連れて行くことになってしまった。


「はぁ〜〜〜…………。まだまだ王都のギルマスには敵わない」

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