01 気がついたら血がついたナイフを握りしめていて、目の前に刺された人がいた。
基本、一話完結型の予定です。
連作もあります。
自分が手にしているナイフに血がついていて、目の前に倒れている人がいる。
俺が刺した覚えなんてないけど、どう見ても俺が刺したように見えるよな?
俺は慌ててナイフを取り落として、倒れている人の所によっていった。
「良かった。まだ息している」
持っていたナイフは小さくて、致命傷にはならなかったのだろう。
この刺されている奴が誰かは解らなかったが俺は声を掛けることにした。
「おい、大丈夫か?」
血が出ている部分を俺は押さえて「誰かいないかっ!!」と声の限り叫んでみた。
街の外壁が見えているが、門は見える範囲にない。
巡回が来てくれるのを望みながら俺は声を上げ続けた。
時間にしたら数分だろうか?それとももっとだっただろうか、やっと数人の足音が聞こえ、人が倒れているのを見てこちらへ向かう足音が大きくなった。
「どうしたんだっ!!」
「解りません?!この人が血を流して倒れていて・・・」
横に落ちているナイフを、駆け寄ってきた一人が拾い上げて「これで刺されたのか?」と仲間内で放っしているようだった。
「お前が刺したのか?」
俺は慌てて首をブルブル横に振ったけれど、疑わしい相手は俺だけなのだから「取り敢えず一緒に来てくれ」と憲兵達の詰め所へと連れて行かれた。
血だらけの手を洗い流したくて「手を洗わせてもらえませんか?」と聞いたがそこにいた全員に無視された。
椅子に座るように言われて、周りをいかつい憲兵達に取り囲まれる。
「あの刺された人、知り合い?」
「いえ、全く知らない人です」
「だったらお金にでも困ってた?」
「そんなことはないと思います」
「あそこに偶然いただけ?」
「それがよく解らないんです……」
「解からないってどういうことかな?」
「あそこにいる前、何をしていたかが思い出せなくて……」
「ええ? なんか怪しいよね?」
「怪しく聞こえるかもしれませんが、思い出そうとしても自分が誰かも解らないんです?」
「そんなこと言って逃げようとしても駄目だよ?」
「逃げるとかそういうことではなくて、本当に記憶がなくて……ここは一体どこですか?」
「ベーレンジュルっていう街だよ」
憲兵の一人が駆け込んできてなにか耳打ちをしているのを見て、ドキドキしてしまった。
「君が助けようとしていた人が目を覚ましたようだよ」
俺はホッとして「良かったです」と無意識に声を出すと、正面にいる憲兵が眉根を寄せた。
「取り敢えず、刺された人に会いに行こうか。そうしたら君が無実かどうか解るだろうしね」
俺は無言で頷いた。
自分で自分が解らないのだ。もしも俺が刺したと証言されたらどうしようかとドキドキしながら、刺された人と再会した。
憲兵達が俺のことを説明して聞かせていて、キオクを失っていることも話していた。
「記憶を失うなんてことが日常で起こるんですね……」
そう言って俺の顔をじっと見ていた。それからおもむろに口を開いて告げたのは、こうだった。
「この人は俺が刺されるところを助けてくれようとした人です」
そう証言されて俺は無罪放免となったが、刺した相手の特長はと兵士が聞いている。
「金を出せとナイフを突きつけられていきなり背後から言われたんです。痛いと思ったら刺されていて、俺が倒れると腰に下げていた金を取られました。走って寄ってきてくれたこの人がが犯人ともみ合って、犯人になにかされたのか、その人まで倒れちゃって、それから私も意識を失って、目が覚めたらここにいました」
「犯人の顔は見てないの?」
「はい。背後からだったので……見てるとしたら、正面にいたこの人の方が見ていると思います」
「それがさーこの人、何があったか全く覚えていないっていうんだよね。お宅を助けたくらいなんだから知り合いじゃないの?」
「いえ、知りません……あっ、もしかしたら頭を殴られたんですかね? それでその人も倒れたんでしょうか?」
「それは解らないけど……お宅名前は?」
「あっ、そうですね。名乗るのを忘れていました。私はカンザスと言います」
「カンザスさん、だね」
「出身は北のコバルト村です」
「知らないな……」
「小さな村なので……」
「ふ〜ん……取り敢えずカンザスさんを助けてくれた人も医者に見てもらうしかないか……」
俺はやっと手を洗うことが出来た。
手に付いた血がが乾いて気持ち悪かったので、俺が指したのではないことなども含めて色々と安堵した。
それから医者に見てもらったら大きなたんこぶが出来ていて、そのせいで一時的に記憶を失っているのかもしれないと言うなんともあやふやな診断だった。
刺された人に「大丈夫ですか? ちゃんと助けられなくてすみません」と謝ると、一瞬驚いた顔をして「いえ、気にしないでください」と薄い笑みを唇に浮かべて「私がこの程度の怪我ですんだのはあなたのおかげですから」と言った。
それからまた憲兵に人に連れて行かれて、持ち物の確認を取ることになった。
「金があるようなら宿屋に泊まることができるし、金がないようなら留置所で泊まることになるぞ」
と脅された。
「もっとこう、一般人を保護する方法とかないのですか?」
「立派に保護しようとしているじゃないか! ただ泊まるところが留置所なだけだ」
少し身分の高い憲兵はふんぞり返って俺にそういった。
ポケットにあるものや、腰に下げた革袋にあるものを出していくと、ろくなものを持っていなかった。
「お前さんも金を盗まれてるみたいだな。もしかしたら荷物も持っていかれてるかもしれないな。金目のものが何もない」
「気を失ったみたいですからね……」
俺は溜息を吐くしかなかった。
本当にその日は留置場に泊まることになり、鍵は閉められずに済んでいるだけで、まるで犯人扱いだと思った。
記憶を失っているんだから病院側に泊めてくれていいのにと不満に思った。
さっき荷物を改めている時、ふと思いだした。空間収納を使えることに。
留置場の中で腰を下ろして空間収納の中に手を入れると、中には色々な物が入っていたのだが、中に入っている現金の金額に以驚いた。
そのうえ野菜や工具、様々な物が入っていた。
使い古した武器に縄なんかも入っていることに気がついて、商人かと思ったがどうやら違うようだ。
俺の職業が一体何なんだろうと頭を傾げた
空間収納の中身を見て俺は商人に思えるのだが、生物を入れられるマジックバックまでもが入っていて、マジックバックの中身を確認すると人間が40人ばかり入っている。
マジックバックの仲の人間たちは何なんだろうか?
商人は生物が入れられるマジックバックなんか持っていないよな?
そして、空間収納の中から一枚のカードを見つけて、自分の名前と立場を知ることが出来た。
その夜、狭いベッドの上で寝返りをしてベッドから転げ落ちてしまい、また頭を打ってしまった。
翌朝、入院している男に「傷の具合はどうですか? 俺は留置所に泊まりましたよ……」
情けなく話すと大笑いされ、傷に響いたのか「いててててぇ」と痛みにこらえるような笑いを漏らしていた。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。私こそ失礼しました。せっかく助けてもらったのに笑ったりなんかして。あなたこそ記憶が戻らないんですか?」
「ええ、さっぱり。医者の言うこともいい加減な感じでしたし、これからどうすればいいのやらさっぱりです。この街に見覚えがないので、ここの人間なのかすら解りませんし、二〜三日の間に身の振り方をよく考えろと言われてしまいましたよ。当分留置所暮らしになりそうです」
「それは難儀ですね」
俺は情けなさを全快にして見せて「本当に困ってるんですよ」と言った。
「あなたこそ傷は浅かったらしいですが、元々ご自分で持っていたナイフで刺されたのだとか?」
「そうなんですよ。腰元に挿していたナイフで刺されてしまって、せめてナイフを腰袋に入れていればよかったと思いました」
「刺されても仕方ないことをしたんだから仕方ないですよね? ……あれ? 俺、なんでこんな事を言ったんだろう?」
ベッドで寝ている男を押さえつけて手首と足をくくりつけて、逃げられないようにベッドにもくくりつけた。
「あんた! 何をするんだっ!!」
「いえ、昨夜なんですけどね。寝ていたらベッドから落ちたんですよ。その時頭を打ってしまってね。色々思い出したんですよ」
「なっ!!」
「お前がジュードって言う名前で、サイワス村で女子供を合計五人殺した賞金首で、俺はそいつを追い掛けていて、やっと見つけた時に抵抗されたってね。とんだ不覚を取りましたよ。今回のことは人生で恥ずかしい話として五番目くらいには入りそうですよ」
「それはあなたの思い違いですよ!!」
「それはまぁ、ここで色々調べてもらってください。あなたこそが留置所で泊まるべき人なんだから」
私達の騒ぎを聞きつけたのか医者と憲兵がやってきて、憲兵が「な、何をやっているんだ?!」と聞かれたので、冒険者カードと手配書を憲兵に見せ「その事件の犯人がこいつなんですよ」と言った。
それからは憲兵が走り回って、ベッドで縄で括られた男が犯人だと確認が取れ、俺は仕事終了のサインを貰うことが出来た。
昨日俺に留置所に泊まるしかないよと言った、ちょっとえらい憲兵が出てきて俺の肩を叩きながら「よくやった」と偉そうに言っていた。
俺はこの街の冒険者ギルドへ行き、冒険者カードを提出して、依頼を完了した料金を受け取って、空間収納へと収納した。
新たな手配書が数枚出ていたので、それらを受け取って、俺はこの街で美味しい食事ができる場所を聞いて、腹いっぱい食った。
俺の名前はキース、残念ながら一人モンだ。バンティーハンターというヤクザな家業では当然だろう。
親兄弟は俺がまだ小さい時に強盗が家に入ってきて俺の目の前で殺されたんだ。
兄弟が殺されている間に俺だけが命からがら逃げ延びたんだ。
俺は「強盗だ!!」と叫びながら村中を走り、村長に助けられた。
まだ夜が更けた暗闇だったけど、犯人の顔を忘れることはない。
俺は親兄弟を殺した犯人を捕まえるためにバウンティハンターになった。
新しい手配書を見ながら、今度は盗賊が村を襲って女を誘拐したのか。
村の若い女全員連れて行かれたなからかなり大きな盗賊だな。
必要な物と必要とされるだろう商品を買いながら、盗賊たちのアジトは村からそう遠くないところにあるだろうと当たりをつけた。
俺はアジトがありそうなところに向かって進むことにした。
しかし、今までに色々経験したけど、記憶喪失は初めてだなと苦笑いをした。
作品タイトルでバウンティハンターだってバレちゃうのは痛い話でしたwww。
5日まで毎日UPします。