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第21話「名乗りを上げる」

一瞬の間のあと。

シンのまわりに詰め寄るようにしていたエーテライザーたちが一斉に声を張り上げだした。


「一か月後に、闘技大会だと!?」

「しかもその優勝者ではなく優秀な結果を残した者のうち複数と言ったな!?」

「いやこれはそう簡単な話ではないぞ、パレスガードたるに相応しい人格とは――王女はいったいどのような基準でそのような者を選ばれるのだ」


何かが爆発したかのような喧騒の中、シンはひたすら周囲に響き渡る声に耳を傾けた。


「皆、待ってくれ――待てというのに!」

年長者のレイが落ち着けと言わんばかりに大きく広げた両手を上下させる。

「このようなことは過去に例がない。王宮からの使者よ、今言われたことはすべて真のことなのだな?」


「もちろんでございます」入口に立つ使者が上ずった声で答える。「今申し上げたことは、一言一句、間違いなくラスティア王女の御言葉であり、この書簡スクロールも王女の後見人となられたアルゴード侯直々にお渡しいただいたものでございます!」


「とすれば、これは……とんでもないことになるぞ」


「まさにね。素性はおろかギルドの階級も人数も問わないとは――いやはや恐れ入ったよ」

驚愕の表情を浮かべるレイの横で、イーリスが豊満な胸を揺らしながら腕を組み、怪しい笑みを浮かべながらうなずいてみせる。


「笑いごとではないぞイーリス」

アインズ・ギルド最大級のパーティ『水月の守護者』、その長であるニコラスは険しい表情のまま首を振った。

「ラスティア王女だけのことならいざしらず、このような方法でパレスガードを複数任命などと……他の方々が黙っていないだろう。ただでさえ王位継承者争いで揺れているというのに、火に油を注ぐ事態になりかねんぞ」


「すでにそうなっているだろうな」

『百足』の長、ルーベンが今まで以上に鋭い目つきをニコラスに向ける。

「パレスガードは我が国のみならず他国にとっても力の象徴だ。例え実際に衝突することはなくとも、より強力なエーテライザーを従える王族はそれだけで強大な権力を持つに値する。他の王子王女が黙って眺めているとは到底思えん」


「今回のことは――無礼な言い方をさせてもらえば――あまりにも短絡すぎると言わざるをえない」

ニコラスが首を振りながら続ける。

「ラスティア王女は王妹フィリー様のお子、いくら王位継承権があるとはいえ、その序列は最も下であり、次期国王になる目はない。パレスガードを複数、しかも闘技大会という公の場で決定するなどと……いずれ王となられる他の王子王女から反感を買うだけだ。まだ王室に入られたばかりのラスティア王女にとっては何の益にもならない」


「なにズレたこと言ってんだい」

イーリスは小ばかにするような態度を隠そうともしなかった。

「ラスティア王女は今回のことで後継者争いに名乗りを上げたのさ。それも誰よりも大々的に、華々しくね! 闘技大会で強力な力を見せつけたエーテライザーたちを次々と自身のパレスガードとして任命していく世にも美しき王女……この街どころかアインズ全土から集まった人々の熱狂が今にも聞こえてくるようじゃないか」


熱に浮かされたようなイーリスの言葉が、周囲の喧騒を一斉に沈黙させた。

その誰もが、今話された言葉を頭の中で思い浮かべていることは容易に想像できた。

そしてそれはシンも、まったく同じだった。


「……フェイル」

気づけば、小声でそう呼びかけていた。

「もし、ラスティアのパレスガードになるのに何の資格も、条件も必要ないのなら……俺も、挑戦してみようと思うんだけど、どうかな」


正直、自分がラスティアのパレスガードに、などということは一度たりとも考えたことがなかった。以前、アルゴード城の聖堂でラスティアの姿を遠く目にしたときに感じた距離感や周囲の反応によって、身分や立場といった違いをまざまざと見せつけられた気がしていたし、なによりパレスガードになるための資格や条件が自分にあるとはまったく思えなかったからだ。だが――


使者が伝えてきた今回の内容が、まるでラスティアが自分に向けて発してくれたメッセージのように思えた。


いや、もしかしたらそう信じたかったのかもしれない。オルタナに到着して以来、ラスティアとは口を交わすどころか、その姿すら見ることができていなかった。

なに不自由のない生活を与えてもらいながら、ひどく胸がざわつき、夜はロクに寝付くこともできず、いつもラスティアのことを考えていた。それがどういう感情からくるものなのか、シンはずっと考え続けていた。


自分とラスティアとの間には特別な絆みたいなものがあり、エルダストリーにやってきたのもそのことが関係しているのではないか。たとえ勝手な思い込みだったとしても構わない、ただひとつの繋がりを手放したくはなかった。

もし、この繋がりさえ信じることさえできなくなってしまったら、今の居場所どころか自分の存在意義さえ消えてなくなってしまいそうな気がした。


「そういうことは俺じゃなく、直接本人に言ってやれよ」

フェイルは口の端を吊り上げるように、しかしどこか満足げな顔で笑ってみせた。

「きっと喜ぶぜ、ラスティア」


「あ、いやでも、闘技大会って、ここにいるような人たちとその……戦うってことだよね? 俺なんかが出場したら場違い過ぎるかもしれないし、やっぱりよく考えてからにするよ。ラスティアやレリウスには言わないでおいてくれる?」

いくらエーテルの力を扱えるようになったとはいえ、ヘルミットやベイルと争った時のことを思い出すと今も胃の底が締め付けられてしまう。


「おまえ、この期に及んでまだそんなこと言ってんのかよ……」

一転して呆れ顔のフェイルがため息交じりに言った。


「闘技大会に関する詳細については、近日中にギルドへ知らされる予定です!」

皆が押し黙った隙を突く形で使者が叫ぶ。

「エーテライザーであれば、いかなる者も挑戦可能であることを改めてお伝えさせていただきます!」


そこまで言い終えると、使者はお役目御免とばかりにくるりと向きを変え、飛び出すように外へと出ていってしまった。


「シン、すっかりあんたのことが後回しになっちまったが、私はわすれちゃいないからね」

突然イーリスが肩に手を回してきたので、シンは小さな悲鳴を上げた。


「おお、そうだった! 最高の素質をもつエーテライザーをどのパーティに迎え入れるか、その相談だったな」

レイが髭を撫でながらうなずいてみせる。


「まて、王女のパレスガードの件はどうするつもりだ? これから大騒ぎになるぞ」

ニコラスの言葉にイーリスは肩をすくめる。


「どうするもなにも、闘技大会の詳細は追って知らされるって言われただろ。今のところ何もしようがないじゃないか。全員に参加する資格があるってことさえわかれば十分だよ。他のエーテライザーたちにはギルドから通達があるだろうから、わざわざこの場に居合わせただけの私たちが動く必要なんてないし、パーティの長としてすべきこともなにもないだろう?」


「それは――そうかもしれないが」


「少なくとも今はシンのことの方が重要さ、正直私は何としてもこの子が欲しい。ラスティア王女のことは確かに驚いたけど、あんたらがそっちに集中したいってんなら早々に言っておくれよ。私が言い出した手前、抜け駆けすることもできないからね」


「確かに、今はアーゼムに匹敵しかねない少年の行く末の方が大事だ。これほどの器の持ち主なら所属試験などあってないようなものだろうしな」

ルーベンが深くうなずいてみせると、周囲のエーテライザーたちは一斉に同調しだした。


「よーし、そうと決まればさっそく順を決めて発表してもらおうじゃないか、自分の率いるパーティの素晴らしさってやつをさ! シン、勝手に決めてしまったけど、ちょっと付き合ってくれるかい? あんたにとって決して悪い話じゃないからさ」


イーリスの迫力ある笑顔と豊満な胸に押し切られる形で頷いてしまったシンは、慌ててフェイルの方を見た。


「ま、いいんじゃね? 面白そうじゃん。せいぜい俺たちにとって良さげなパーティってものを見定めさせてもらおうぜ」

フェイルはシンの耳元で囁き、笑ってみせた。


「よーし、さっそくはじめよう! 正直こんな機会滅多にないからさ、私自身楽しみなんだよねー!」

イーリスは場をしきり出しながら、まるで少女のような歓声を上げた。


たったいまワルツに連れられてきたギルド長らしき老齢の男が、いったい何が起こったのかと言わんばかりの表情で周囲の光景を見渡していた。


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