幕間ー冒頭の書ー
きっと私は自分を見つけるだろう
遠く離れた、はるか彼方で
アル・グラフィア
――そして、時代の大きなうねり、歴史の転換期には、常に彼ら存在があった。
それは「物語の民」たりえず、「物語の外」からエルダストリーの大地に降り立った者たちであった。
何かに導かれるように、時代の求めに応じるように、彼らはその大いなる力を手にエルダストリー正史の中へと歩み入ってきた。
根源を自在にあやつり、己の意志を思うがままに発現させる彼らのことを、物語の民たちは絶対者と呼んだ。物語の民たちにとってストレイとは、世界の運命そのものだった。
やがて四人目のストレイがかの地に降り立ち、歩みはじめたそのときこそ。物語の民たちが本当の意味で「あるべき世界」を取り戻したとされる時代の幕開けであった。
激動の時代を懸命に生き抜き、次代を鮮やかに彩った者たちは、今では考えられぬほど途方もなく大きな夢や理想、信念、使命、野望、欲望をその胸にかかげていた。
エルダストリー史上、最大にして最後の英雄列伝と称された時代。なかでも特別な名を冠された英雄たちがいる。彼らは己が運命を受け入れ、あるいは己が運命にあらがい、自らを生きることにより世界を変革し、構築した。彼らが生きた証こそ歴史そのものとなった。
すべての始まりにしてこの世の運命を見出した導き手「“導師”サイオス」。
放浪の民に安住の地を与えたカイオス最後の血「“聖皇女”レナリー」。
すべては弱き者のために。比肩することなき王の中の王「“深淵者”カイン」。
自らの生き様により人の可能性を見出した弱き者「“覚者”ダフ」。
レッドノア最期の末裔にして偉大なる支柱「“至宝”ミュラー」。
世を覆したディスタ革命の寵児「“太陽の娘”グレース」。
ラカクが恐れた唯一の男。イストラの野望を打ち砕いた「“神眼”ルーファス」。
決して忘れてはならぬ。自らの死をもって道を示した「“反逆の祖”エリス」。
西方大陸と東方大陸との間に和平への道を切り開いた「“光の使者”ルーディ」。
憎しみを絆へと変え、東方大陸を再興させるにいたった超戦士「“真実の牙”ラージャ」。
かのカルメ・ストラインをして、アーゼムの最高傑作とまで言わしめた男。史上最強のエーテライザー「“狂才”ホランド」。
そして――はびこる闇を光のもとへとさらけだし、大いなる存在を最後まで守り抜いた聖堂士「“七剣”ナフィリア」。
エルダストリーで容創られた者なれば、誰もが一度は耳にし、憧れたことのある十二人の英雄たち。いくら時が過ぎようと、物語の民たちはそれぞれの英雄の生きざまに自分自身を重ね合わせ、己が生を見つめなおした。彼らの残した世界を生きるに恥じないよう、自らを鑑みた。
子どもたちは、英雄たちの話を聞かせてと夜な夜な親たちにせびり、親たちはかつて自分たちがそうしてもらったように嬉々《きき》としてその物語を語りはじめるのだった。
だが、かの英雄たちでさえ、子どもたちが求める物語の主人公たりえなかった。その栄誉が与えられたのは、たった二人の少年と少女だった。
惜しみない称賛と尊敬、深い情愛と奉謝とによって後世語り継がれるその名こそ、「“約束の子”ラスティア」。そして――「“最後の絶対者”シン」。
永遠なる書、アル・グラフィア。そのなかで燦然と輝き続けるふたりの物語は、このようにしてはじまる。
「少女は『持たざる者』であり、少年は『意志なき者』であった」――と。
ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。第二章は前編、後編となっておりますので、引き続き読み進めていただけたら幸いです。
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