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美しい国

作者: 落光ふたつ
掲載日:2022/01/26

 そこはとても美しい国でした。


 人々は国のため。

 国は人々のため。

 国はいつでも明るく正しく在り、人々はいつでも裏表なく朗らかでした。


 ある日、女の子が生まれました。


 とても愛らしく、周りからも等しく可愛がられた女の子です。

 けれど彼女は、段々と醜くなっていくのです。


 光を疎み、闇に隠れようとしました。

 正義を疑い、法に背きました。

 人の目に怯え、秘め事を作りました。

 無償の愛に嫌気が差し、怒りをぶつけました。


 女の子が少女へと成長した頃には、彼女はすっかり国の中では異端でした。


 それでも人々は、美しく在りました。


 醜い少女と向き合い、彼女と共に過ごせるよう、道を説きます。

 誰一人、彼女を見放すことはしません。文句を言うこともありません。

 人々は、自らが道しるべとなり、少女に示しました。


 しかし、少女は醜いままでした。


 国を、人々を嫌い、ついには国の外へと逃げ出してしまうのです。

 人々は嘆きます。


 少女を正してやれなかったと。

 少女を救ってやれなかったと。


 醜い少女を不幸に思いながら、いつもの日常へと戻っていきます。

 もちろん、少女を追いかけはしません。

 国の外に出ることは許されていないからです。

 規律を乱すことは、とても醜いことです。

 人々は、規則正しく、決められた日々を送ります。

 今日も美しく在るために、与えられたままに生きていくのです。




 初めは小さな疑問だった。

 今では思い出せないくらいに些細な違和感。

 けれどそれが次第に膨らんで、木々が枝を伸ばすように増えていった。


 ——なぜ国は、こんなに明るいのだろう。

 国の中ではどこも光で照らされて、隠すことは禁忌だった。


 ——なぜ国は、全てのことが決められているのだろう。

 行い全てを法律で縛り付けられ、それから背くことはあり得なかった。


 ——なぜ人々は、何もかもを晒して生きているのだろう。

 光で照らされた人々も例外なく秘め事を許されず、けれどそれを受け入れていた。


 ——なぜ人々は、誰もが同じ表情を見せるのだろう。

 どこを見渡しても同じ顔、同じ笑みを浮かべる人々を、たまらず不気味に感じた。


 だから、醜いと言われた。

 提示された美しさを享受することが出来なかった。

 しかし、異端扱いだったにも関わらず、迫害されることはなかった。


 より正しい方へ、と。


 己の美しさを信じる者達は、悪意なく道を説いた。

 醜いと定義された価値観を捨てろとせがまれ。

 溢れた美的感覚を植え付けされようとした。


 だから逃げ出した。


 何もかも受け入れられなかった。

 けれど、行く当てはどこにもない。


 疲れや渇きを覚え、足を止めた。

 ふと顔を上げれば、夕焼けが空を赤く染めていた。

 すると途端に、涙がこぼれた。


 この光景こそが、美しいんだ。


 規則正しさではなく、言葉に出来ない興奮こそが、胸を満たしてくれる。


 この感情だけは、否定されたくなかった。



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