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レオン:再会

 

 可愛い。可愛い。とても可愛い。

 長年の計画ではあったが、本当に私の花嫁になったなんて、この喜びをどう伝えればいいんだ、シャルロット。

 嬉しさを噛みしめていたら、シャルロットが不安げに問いかけてきた。


「閣下、今さらながらの質問なのですが、なぜよく知りもしない私に求婚されたのですか?」


 うん。本当に今さらだよな。

 直情型なのは知っているが、冷静になるには少々時間がかかるらしい。

 そういうところも好きだ。


「それならなぜあなたはよく知りもしない私の求婚を受けたのかな?」

「それは……って、話を逸らさないでください。質問したのは私です」

「確かに。だがなぜ私があなたのことをよく知らないと断言できるのか不思議だったんだ」

「え……?」


 うん。驚くよな。

 ここでずっと見張らせていたと打ち明けるのはまずいだろう。

 さすがに引くよな。

 私も他人が同じようなことをしていると知ったら、すぐさま縁を切る。

 ついでにしかるべき機関に訴えるだろう。

 というわけで、正直に打ち明けるのはいつかシャルロットが私を好きになってくれたときまで待つしかない。


 だがあのときのことを覚えていないのは残念だ。

 私の人生観そのものを変えた出来事だったというのに、シャルロットにとっては覚えていないらしい。

 そういえばあのときは名乗ることはしなかったか。

 使用人や多くの者たちが集まり騒ぎ出してそれどころではなかったからな。

 そもそもその前にシャルロットは走って去っていったのだから。


「どうやらあなたはよく知りもしない私と衝動的に結婚してしまったことを後悔しているようだ」

「よく知らないわけではありません。閣下のお噂は我が国まで届いておりましたから」

「それはどんな噂?」

「……まだお若いのにライツェン王国の宰相閣下として、とても有能でいらっしゃる、と」

「他には?」

「それは……」

「よく冷徹だの非道などと言われ、陰では〝冷徹相〟と呼ばれているようだけど、それも知っている?」

「……はい」


 その噂を知っていてなお、あの求婚を受けたのだから無謀としか言いようがない。

 それがまたシャルロットらしくて可笑しくなってくる。

 私の笑みをどう受け取ったのかはわからないが、とりあえず冷静さを装うことにしたようだ。

 反抗心を隠そうとして隠しきれていないところがやはり可愛い。


「閣下は――」

「レオンと呼んでほしい。私たちはもう夫婦なのだから」

「……レオンは国王陛下にそろそろ結婚をして落ち着くようにと命じられたのだと伺いました。それで私との結婚を望まれたのですか?」


 駄目だ。もう我慢できない。

 私が陛下に命じられて結婚したと思い込んでいるなんて。

 それでわざわざ隣国まで花嫁を探しにいったとすれば、いったいシャルロットの中で私はどこまで酷い人間だと思われているのだろう。

 堪えきれず笑ってしまったせいで、シャルロットはわけがわからないって顔になった。

 それにちょっとだけ腹を立てているかな?


 こうして顔を見て話せば、シャルロットは何を考えているのかわかりやすい相手だ。

 単純だと言えばそのとおりだが、社交界の者たちでこれほど考えを顔に出すのも珍しく、新鮮な気持ちになってくる。

 さて、それよりも質問に答えなければ。


「世間ではそのように言われているらしいね。だけど私は適切な時機を待っていて、陛下とはその時機について話をしただけだよ」

「適切な時機? それではその時機にちょうど私の噂をお聞きになって、わざわざ隣国まで求婚されにいらっしゃったのですか?」

「わざわざ、ではないよ。私はあなたを望んだんだ」

「私を……? 今まで十人もの男性に拒まれたのに?」

「――愚かとしか言いようがないな」

「私のことを愚かだと――」

「いや、あなたのことではない。あなたの国の男たちのことだ。まあ、私にとっては幸運だったけどね」

「幸運……?」


 またシャルロットが考えていることがやっぱりわかる。

 ただ問題はその考えから導き出される答えとその後の行動にあるのだ。

 もちろんそれが魅力的なのだが、慎重にしなければまた突拍子もないことをやりかねない。


「そ、そのようなことをおっしゃらなくても、私はきちんと役目を果たしてみせます」

「役目?」

「閣下の――レオンの妻としての役目です」

「……そうか。それは楽しみだな。だけど無理をする必要はないよ。あなたはあなたらしくあればいい。私はそんなあなたが好きなのだから」


 なるほど。

 私が『幸運』だと言ったことに対して、私が〝妻〟を欲していたからだと考えたのか。

 欲しいのは〝妻〟なんてどこにでもいる存在でなく、シャルロット自身だというのに。

 このようにシャルロットの自信を奪ったやつらにはやはり相応の報いが必要だな。

 まあ、あの小僧以外の九人は私が手を回したからでもあるが、それくらいで逃げるようでは最初からシャルロットに近づくべきではなかったのだ。


 少しずつでいい。

 シャルロットが――自分がどれだけ魅力的なのかを理解してもらおう。

 そして、思うままに生きてほしい。


「あり得ません」

「うん?」

「レオンが私をす、好きだなんて、あり得ません」

「そうだな。急にこんなことを言っても信じられないだろうな。だからそれはまあ、おいおい信じてくれればいいよ。ただ、あなたの自尊心をそのように奪ったやつらは殺してやりたいな」

「はい?」

「とはいえ、外交問題に発展すると厄介だから、一人一人生皮を剥ぐように苦しめるだけにしておくよ」


 しまった。

 つい言わなくていいことまで口にしてしまった。

 だが驚くシャルロットも可愛いからよしとしよう。


「えっと……。それでは改めまして、これからよろしくお願いします」

「うん。よろしく、シャルロット」


 そうくるか。

 ここで改めて挨拶とか、可愛すぎだろう。

 先ほどの私の言葉は聞き流すことにしたようだ。

 表情からあれこれと考えているのがわかる。

 まだまだ警戒もしているらしい。

 ちらりと視線を向けてくるシャルロットが可愛くて自然と笑みが浮かぶ。


 慌てて目を逸らすシャルロットも可愛いし、また何か考え悩んでいるのも可愛い。

 眉間にしわが寄っていることには気付いていないようだ。

 それからどんな結論に達したのか、明るい表情になってこちらを向くと、しっかり目を合わせてにっこり笑った。

 ダメだ。可愛すぎて嬉しすぎて私の心臓がもたない。

 警戒する野生動物を手なずけるのはこういう気持ちなのだろうか。


 この十二年間、シャルロットのことを調査させながらも、実際に再会したら落胆するかもしれないことを恐れてもいた。

 だがそれは杞憂に過ぎなかった。

 これからもっとシャルロットに信頼され、好きだと思ってもらえるよう努めよう。

 私にとって努力というものは初体験だが、それもまたシャルロットのおかげだ。

 やはり私はシャルロットに出会えて――結婚できて幸運だ。



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