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シャルロット:お願い

 

「レオン、お願いがあるのですが――」

「もちろんかまわないよ。シャルロットの好きにすればいい」

「……まだ、内容を言っておりません」


 レオンはとても忙しいのにいつも朝夕の食事を一緒にとってくれる。

 だから会話もたくさんできて、お互い色々なことを知ることができたと思うのよね。

 それに毎日の予定を夫婦で把握しているなんて素敵な関係だわ。

 とはいえ、このお願いは先ほど届いたばかりの急な誘いだから、レオンがどう思うかわからない。


「実は急なのですが、ピクニックに誘われたので、今日は出かけたいと思っております」

「うん。いいんじゃないかな? 主催者は誰だい?」

「アレッシ伯爵夫人です。昨晩の晩餐会で話が出たらしく、これからの予定も考えて急きょ開催することにしたようです」

「そうか。場所はモレット平原かな?」

「はい。ご存じでしたか?」

「いや、王都から日帰りで行ける場所は限られているからね。ただあそこは茂み深い場所もあるから、くれぐれも気をつけるんだよ?」

「ありがとうございます! では、護身用にナイフを持っていきます!」

「……うん。無茶はしないようにね」


 この季節だもの。緑が生い茂ってるのは当然よね。

 その分、虫も動物も多くいるはず。

 社交界の女性たちがピクニックに行く場所だから危険はないでしょうけど、場所によっては不意に現れるかもしれないもの。

 しかも、アレッシ伯爵夫人のお嬢様であるルニア様に、先日ケンカを売ったばかりだものね。

 本来ならお断りするところだけど、ピクニックに惹かれてしまったのよ。

 自然が恋しいんだもの。


「……ピクニックも楽しそうですけど、やっぱり領地に帰るのが楽しみです」


 その頃には発情シーズン。

 領館近辺はしっかり整備されているけれど、王都よりは自然が多いものね。

 自然に囲まれればきっとレオンも触発されるんじゃないかしら。

 もちろん私はいつでも大丈夫よ。


「もうすぐ仕事も片付くから……今日のピクニックに、私も途中から合流しても大丈夫かな?」

「ええ、ぜひ! アレッシ伯爵夫人もきっと喜ばれます!」


 何より私が大喜び。

 楽しみだったピクニックがより楽しみになったわ。

 レオンがこういう行事に参加するのがとても珍しいのは聞いている。

 だからみんな興奮するでしょうね。

 同時に、これがチャンスとばかりにレオンを狙う女性たちもいるはず。

 ルニア様を含めてね。

 だとすれば、戦うのみ!


「あ、でもご無理はなさらないでくださいね?」

「ありがとう、シャルロット」


 無理をしてほしくないのは本音。

 だけどもう一つの本音は、あまり皆さんにプライベートなレオンを見せたくないから。

 だってキリッとしたレオンもすごくかっこいいけど、今のリラックスしたレオンもすごくかっこいいんだもの。

 独り占めしたいと思うのは当然よね。

 いっそのこと閉じ込めて私一人で鑑賞していたいくらい。


「どうかした?」

「いえ、レオンが素敵なので見惚れていました」

「面白いことを言うね?」


 本気なのに。

 きっとレオンは言われ慣れているのでしょうね。

 どうすれば私の言葉に喜んでくれるのかしら。

 私がレオンの特別になれたら? たぶん、そうでしょうね。


「……ジャン、大丈夫?」

「はい……。もう、ずいぶん慣れましたから」

「慣れたからって、無理をしてはダメよ。治ったわけではないんだから」

「ありがとうございます、奥様」


 ジャンが咳き込み始めたけれど、今回はすぐに治まったみたい。

 でもまだちょっと震えているように見えるわ。


「シャルロット、ピクニックに行くのならもう準備をしたほうがいいんじゃないかな?」

「え? あ! もうこんな時間! ありがとうございます、レオン。それではお先に失礼しますね」

「うん。私もできるだけ行けるようにするよ」


 優しい言葉に笑顔で応えることしかできなかったのは仕方ないわよね。

 本当なら、来てくれるのを楽しみにしてるとか言うべきだったのかもだけど。

 さっきはレオンが参加してくれることが楽しみだったのに、独占欲がむくむくと湧いてきてしまうなんて。

 この気持ちもレオンの心を独占できたら抑えられるのかしら。

 恋って難しいわ。


 やっぱり発情期は関係なくレオンに好きになってもらいたい。

 そのためにはまずレオンの好きなタイプを知るべきよね。

 今さらそんなことに気付くなんて遅すぎるけど。

 だからといって、本人に直接訊くわけにはいかないわ。


 うーん。

 ジャンかジョンなら知っているかしら。

 主従関係にはあっても、私が知る限りで一番レオンと親しそうだもの。

 ジェイはなかなか会えないから、ひとまず除外。

 ちょうど今はジョンに付き添ってもらっているし、いい機会かも。


「ねえ、ジョン」

「はい、奥様。何でございましょう?」

「あのね――」

「ハルツハイム公爵夫人! そんな隅にいらっしゃらないで、こちらにいらして!」

「え、ええ……。ごめんなさい、ジョン。後で訊きたいことがあるの」

「かしこまりました」


 アレッシ伯爵夫人の主催するピクニックに来たものの、私の知っているものと少し違ったわ。

 せっかく自然の多い場所に来たのだから、もっとこう……魚釣りや薬草摘みや兔追いなどをするのかと思っていたんだけど。

 ただ敷布を引いてその上に座り、料理人が調理したものを食べるなんて。

 お弁当でも現地調達でもないのね。


 皆さんたちから離れてうろうろしていたのは、兔の巣穴を探していたから。

 ちょっと退屈してしまっていたのは隠さないと。


「今度は何かされるのですか?」

「お食事も十分召し上がっていただきましたし、次はデザートですわ!」

「……それは素敵ですね」


 残すのが申し訳なくて、たくさん食べすぎたけれどお腹に入るかしら。

 いいえ。入るかじゃなくて、入れるのよ。

 覚悟を決めてプディングを食べる。

 あら? 昼食のときよりもデザートはなくなっていくのがはやいわ。

 なるほど。皆さん、甘いものは別腹。というより、デザートを見越して昼食を控えていたのね。


 私はそれほど甘いものは好きではないのよね。

 本当は一日の終わりにハチノコと蒸留酒をいただくのが一番のご褒美。

 それなのに、お母様に結婚するからにはそれは一生封印って命じられてしまったのよ。

 きっと旦那様は嫌がるからって。

 でも、レオンなら笑って許してくれるんじゃないかしら。

 ひょっとして一緒に楽しんでくれるかも?

 もう少し、レオンと親密になれたら誘ってみるのもいいわね。


「――夫人? ハルツハイム公爵夫人?」

「え? あ、ルニア様。何かしら?」

「あまり進んでいないようですけど、お口に合うものはありませんでした?」

「いいえ。とても美味しいわ。ただお食事をいただきすぎたみたい」

「確かにびっくりするくらい召し上がっていらっしゃったものね」

「……ええ」

「もうデザートに飽きたのなら、少し散策しませんか?」

「散策?」


 わざわざケンカを売りに話しかけてきたのかと思ったら、意外なお誘いだったわ。

 このあたりはあまり知らないし、興味はとてもあるのよね。


「もう少し先に森が広がっていて、そこには珍しい鳥もいるんですよ?」

「森? それはさすがに二人だけでは危ないんじゃないかしら」


 装備もないし。

 森に入るからには、もっとしっかりした服装に剣もあったほうがいいわ。


「森の中に入るわけではありませんわ。その手前でも十分楽しめますから」

「では誰か付き添いをお願いしましょうか」

「まあ、大げさな。ひょっとして怖いんですか? 森には獰猛な獣もいますものね」

「おっしゃるとおりですわ。とても怖い場所ですから、やはり付き添いは必要です」

「わかりました。お好きになさってください」


 とても魅力的なケンカではあるけれど、一時の感情に流されてはダメ。

 森は危険だもの。

 だけど、散策はすごく行きたいから、付き添いはジョンに頼みましょう。

 念のためにナイフを持ってきていてよかったわ。



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