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シャルロット:誘惑

 

 今まで夜会やお茶会で一生懸命に耳を澄まして、気配を探ってみたけれど、結局わからずじまいだわ。

 レオンに愛人がいるのかどうか。

 やっぱり私に小細工は無理。

 一昨日のお茶会でやったように、ここは正面からぶつかるべきね。


「――レオン、質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんだよ、シャルロット。何かな?」

「レオンに愛人はいらっしゃいますか?」


 最初はこの結婚の裏には何かあると疑っていたのよね。

 レオンの呼び名〝冷徹相〟のせいで結婚相手が見つからず、陛下に結婚を促されて隣国まで花嫁探しにやってきたのではないかと。

 それで私の悪評……あの馬鹿馬鹿しい〝狂犬令嬢〟なんて噂を聞いてプロポーズしてきたのかと思ったのよ。

 しかも10回も婚約破棄された私なら、乱暴に冷徹に扱っても耐えると思われているのではないかとも考えたわ。


 でもそれは違った。

 レオンはびっくりするくらい優しい。

 だから愛人がいるのではないかと、愛人の存在を隠すために優しいのかと疑っていたのだけど。


 まさかいつもスマートでかっこいいレオンがむせるなんて。

 どうにも収まらないのか咳込み始めたので慌てて立ち上がったら、私よりも先にジャンがレオンの背中をさする。


「お、奥様……大丈夫、ですよ……」


 ジャンはそう言ってくれたので腰を下ろしたけれど、本当に?

 だって、ジャンも咳込んでいるように思えるのだけど。

 それに何ていうか、強くない? というより、思いっきり叩いているわよね?

 それがこの国の咳込んだときの対処法なの?


「……で、ええっと……どういうことかな、シャルロット?」

「あの、ええっと、恋人です。私以外に誰かいらっしゃるのかな? と思いまして」

「……なぜ?」

「それは、その……何となく、です」


 どうにか落ち着いたらしいレオンから問い返されてしまったのは仕方ないことよね。

 夕食の席で何の前触れもなくいきなり質問してしまったんだもの。

 とはいえ、わからないわ。

 今までにない反応だったのは、予想外の質問だったから?

 愛人なんて考えもしたことなかった? それとも疚しいことがある?


「シャルロット……。私はそんな質問をさせてしまったことが情けないよ」

「ご、ごめんなさい」

「いや、謝らなくていいんだ。全て私の言動が原因なのだろうからね」

「そんなことはありません! 私が馬鹿な質問をしたばかりにレオンを困らせてしまって――」

「いいんだ、シャルロット。疑問に思ったことは何でも訊いてくれてかまわないよ。ただ……どうしてそう思ったのかな? 誰かに何か言われた? それとも本で読んだりしたとか?」

「い、いいえ。その、世間ではよくあることですから、愚かにも質問してしまいました」


 やっぱりこの質問は失敗だったわ。

 レオンが何て答えようと、私には嘘かどうかわからないもの。

 それなのにただレオンを不快にさせてしまっただけ。

 本当に馬鹿ね。


「……そうか。確かに世間ではよくあることかもしれないな。既婚女性が愛人を持つことも」

「まさか、そんな!」

「すまない、シャルロット。私はあなたに好きなようにすればいいと言ったけれど、愛人を持つことだけは許せない」

「もちろんです! レオンを裏切るなんて絶対にしません!」

「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」


 そうよね。

 この馬鹿な質問はそんなふうに思われることもあったんだわ。

 私が愛人を持ちたいから、レオンにもいるか確認しているなんてことはあり得ないのに。

 だけどレオンには知りようがないものね。


 レオンは「嬉しい」と言って微笑みながらも、どこか表情が硬いわ。

 ジャンもどこか動きがぎこちない。

 それは後ろめたいことがあるから? ジャンも知っているの?

 結局、はっきり愛人なんていないとは答えてもらってないのはそういうこと?

 ああ、ダメ。疑い始めたらキリがないわ。


 恋をするって本当に大変。

 自分が何をやっているのかさえわからなくなって冷静な判断ができなくなってしまうんだもの。

 落ち着いて。自分の決めたことを全うするべきよ。

 たとえレオンに愛人がいてもいなくても、私を好きにさせてみせるって!


 あの恋愛小説を読んでもよくわからなかったけれど、女性からキスしてもかまわないみたいだったわ。

 他には夜の営みが男性を惹きつけるってこともね。

 発情期については書いてなかったけれど。

 要するに、キスを私からして、いつでも準備はできていることを知らせればいいのよ。


 ちょうど食事も終わったので席を立つ。

 このままいつもはお茶を飲むことはせず、部屋に戻るからレオンは扉の前まで送ってくれる。

 それならやるべきことは一つ。


「――今夜はこのまま寝てしまうのかな?」

「いいえ。本を読んでから寝ようと思います」

「……そうか」


 よし、今よ!

 私と話すために俯いているレオンの首に腕を回して、えいっとキスをする。

 きゃああ! やったわ!

 心臓はばくばくしているけれど、達成感がすごい!

 恥ずかしいけれどレオンをちらりと見ると、目を丸くしていた。

 私から唇にキスするなんて、やっぱり大胆すぎた?

 でも、始めたんだから最後までやり通すわ。


「私……発情期を楽しみにしていますから! おやすみなさい!」

「…………は?」


 言ってしまったわ! 楽しみにしている、なんて!

 あの恋愛小説でさえも、主人公はそんなことは言わなかったのに!

 はしたない? 嫌われた?


 ああ、わからない。

 逃げるように部屋に入らず、ちゃんとレオンの顔を見ればよかった。

 だけどもうやってしまったんだから、後悔してはダメ。前進あるのみ!

 これからはレオンを発情期までに誘惑してみせるんだから!



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