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レオン:警告

 

 しまった。どさくさに紛れて抱きついてしまった。

 だが、シャルロットに嫌がっている様子はない。

 それどころか私と一緒に笑ってくれている。

 最高だ。


 こんなに気分が高揚したのは、シャルロットにプロポーズを了承してもらえたとき以来だ。

 初めての高揚はシャルロットに噴水に突き落とされた理由がわかったときだが。


 あの会場にいる者たちとは会話する気にもならず、義理で出席してもいつも退屈でしかなかった。

 それがシャルロットがいるだけで、こんなに楽しくなるなんて。

 やはりシャルロットは私の女神だ。

 私の人生に彩りを加え、喜びを生み出してくれるのだから。


 シャルロットに会場で男どもと話してろ(しばらく離れてほしい)と言われたときには絶望したが、邪魔が入った(伯爵夫人が割り込んだ)おかげで好転した。

 本来なら早急に排除するところだが、少しばかり減刑してもいいだろう。

 しかし昨日のことといい、先ほどシャルロットを貶めようとしていたことといい、許せるものではない。

 天使なシャルロットがあの者たちの悪意に気付かなかったことだけが幸いだった。


「シャルロット、よければそろそろ帰らないか?」

「は、はい。そうですね」


 名残惜しいが(非常に残念だが)、シャルロットを腕の中から解放する。

 シャルロットが帰宅に賛成してくれてよかった。

 早く(自分のテリトリーで)二人きりになりたいからな。

 だがその前にやらなければならないことがある。


「シャルロット、私は一度会場に戻るが、すぐに帰ってくるので、ここで待っていてくれるかい?」

「ご挨拶でしたら、私もご一緒します」

「いや、別件だよ。この時間なら特に挨拶せず帰っても誰も何も思わないが、気になるなら明日またお礼の手紙を書けばいいんじゃないかな?」

「……わかりました。それでは、ここで待っていますね」

「うん。ありがとう、シャルロット。私がここを出たら、ちゃんと鍵をかけるんだよ? 不埒者が入ってきては困るからね?」

「ええ、私たちみたいに勝手に入ってしまう人たちのことですね?」

「――ああ」


 どうしよう。シャルロットが尊すぎて死ぬ。悪戯っぽい笑顔が胸に刺さる。

 そんなに信頼しきった目で見ないでくれ。

 私の心は邪な思いでいっぱいなんだ。一番の不埒者は私だろう。

 ああ、このまま閉じ込めてしまいたい。縛り付けたい。監禁したい。


 自分でもわかっていた。

 思考が怪しい方向へ進んでいることくらい。

 しかし今、扉の外で小さな物音を立てたあいつには腹が立つ。

 邪魔をするな。催促するな。任務外だ。

 とはいえ、仕方ない。


「それじゃ、すぐだから待っていてくれ」

「ええ、いってらっしゃい」


 またそのはにかんだ笑み。

 胸が苦しい。まずい。このままでは早死にしてしまうかもしれない。

 どうにかシャルロットの笑顔を見ても冷静でいられるように修行をするべきだろう。

 その前に片付けるべきことをやるか。


「――マキウス侯爵夫人」

「ま、まあ! ハルツハイム公爵……。今朝はその、素敵な茶器のセットをありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ妻が蜂の捕獲に使用したティーカップを譲ってくださり、感謝しております。妻はとても楽しかったようですよ。途中までは」

「はい!? え、ええ。も、申し訳ございません! まさか蜂がサンルームに入ってくるなど、私どもの注意が足りず――」

「そのことではありません」

「で、では、いったい……?」

「妻は慣れないこの国で初めて茶会に出席したのです。早くこの国に馴染みたいと……健気だと思いませんか?」

「さ、さようでございますね。奥様はとても可愛らしい方で、本当に私は歓迎しておりますの。心から!」

「それは心強いお言葉ですね。妻も喜びます。もちろん、妻は昨日の茶会について不満や不安を申したわけではありません。ただ、別の者から報告を受けたのですよ」

「な、何を……?」

「ずうずうしくも妻に付き纏い、陰で妻のことを笑い、妻を危険にさらしたばかりか、救われたというのに非難したとか。許しがたいことです」

「そ、そのようなことが私の茶会で起きてしまったなんて……申し訳ございませんでした」

「私ではなく妻に謝罪してほしいところですが、私と違って妻はとても優しい心の持ち主ですからね。謝罪の必要はありません。ただこれからはくれぐれも、妻のことをよろしくお願いします」

「も、もちろんです! どうぞお任せください!」

「マキウス侯爵夫人は私の期待を裏切らない方だと思っておりますよ」


 これだけ釘を刺せば十分だろう。

 侯爵夫人は社交界の重鎮とされる人物であり、周囲の者たちもしっかり聞いていたようだからな。

 少し離れた場所に立つウォレス母娘をちらりと見れば、母親のほうは気を失った。

 急に倒れるなど迷惑なことだ。

 娘は見苦しくも泣き出している。


 不快でしかないこの場からさっさと去ろう。

 私にはあの部屋で天使が待っているのだ。

 そう思うだけでいつもより足取りが軽くなる。

 今日はシャルロットとの仲も(抱擁できて)進展したし、夜はこれからだし、なんと良き日かな。



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