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密偵:休憩中

 

 うわー。なんかイチャイチャしてるんすけど。

 二人とも気付いていないけど、お互い好き合ってんだよな。

 これが両片想いってやつか。

 面白いから公爵には内緒にしとこ。


 てか、公爵がキモい。

 普段の態度を知っているやつ(奥様以外全員だけど)が見たら絶対に引く。

 引きすぎて月が落ちてくるかもしれねえ。

 要するに世界が終わる。


 まあ、それはどうでもいいんで、ちょっとばかり休憩するか。

 また公爵に覗きだ何だとイチャモンつけられても最悪だしな。

 公爵の間抜け面でも思い出して楽しもう。

 国王に挨拶に行く日の朝飯のときとか、最高だったな。

 まさか公爵が言葉を失うとか。


 領館のやつらが公爵と奥様が一緒にいるところを見て不自然には思わなかったのは、ここ十年ほど公爵が領地に帰っていなかったからだ。

 要するに昔の公爵と流れてきた噂で怯えてたってことだけど、それでもあんだけ怯えるとかって、どんな子供時代だったんだよ。

 あとは公爵が何を言ってんのか聞こえてなかったってのもあるか。


 俺もスマイズもみんなに同情されてたもんなあ。

 いや、スマイズの苦労なんて屁でもねえだろ。朝と夜にちょっとばかり世話するくれえなんだから。

 大変なのは俺。可哀想なのは俺。死ねばいいのは公爵。

 あー、マジで早く暗殺されねえかな。


「――おい」

「何すか?」

「うるさいぞ」

「え? 声に出てた? どこから?」

「私が死ねばいいあたりからだ」

「そっすか。よかった~」


 両片想いってのは、どんな拷問を受けても内緒にしとかねえとな。

 あ、やっぱなし。

 拷問されそうになったら、すぐにゲロっちゃう。

 自分大事。


 自分を大事にできないやつは他人も大事にできないとかって聞いたことある。

 他人はどうでもいいけど。死ぬほどどうでもいいけど。

 なので奥様には悪いけど、どうぞ両片想いしていてください。

 そのうち目も覚めるんじゃないっすかね。


 追い詰められるとどうしても手を差し伸べてくれた人間に縋りつきたくなるもんだからなあ。

 それがたとえ元凶相手でもそうなるんだから、婚約破棄された原因が公爵だって知らない奥様の場合かなり危険。

 ああ、でもたとえ目が覚めたとしても、公爵は奥様を逃しはしないよな。

 そういや……。


「奥様が閣下のことを好きになったらどうするんすか?」

「どうするも何も嬉しさの余り抱きしめずっと傍に置いて離さず、私以外との接触をさせず、外出も私が同伴しなければ許さないくらいかな」

「想像以上にヤバかった」


 さすが十二年もストーカーしてるだけあるな。

 思考がナチュラルに犯罪者だったよ。

 って、俺が実行犯だけどな。


「まあ、それは私の希望ではあるが、今のところは耐えるつもりだ」


 今のところって、いつかするかもなんだな?

 怖えよ。いつ爆発するかわからねえって、どんな罠だ。

 永遠に耐えてろ。

 とはいえ……。


「もし、飽きたらどうするんすか?」

「そのときは世界が終わるな」


 え? やだ、怖い。

 あり得そうなところが本気で怖いんすけど。


「それで、お前はシャルロットを十二年間見守っていて飽きたか?」

「……飽きないっすね」

「そういうことだ」


 あー、なるほど。

 確かに面倒ではあったけど、飽きたって感じたことは一度もないな。

 むしろハラハラしたことのが多い。


「このひと月だけでも、予想外のことばかりだ。好きにしてくれとは伝えたが、まさかあのように……」

「ハチノコは美味しかったっすか?」

「お前も食べるか?」

「遠慮しときます」

「当たり前だ、馬鹿。シャルロットが私のために取り寄せてくれたのだからな」


 いや、そんなドヤ顔で言われてもいらねえし。

 そもそも、なぜ訊いた?

 え? 自慢? 自慢したかっただけ?

 引くわー。超引くわー。


「ってか、ここで何してんすか?」


 ここ、俺の休憩場所兼仕事場所。

 要するに、奥様の部屋の隣にある秘密の小部屋。

 何代か前の公爵が造らせたっぽいんだけど、当時からハルツハイム公爵の敵は多かったみたいだな。

 領館よりもこの屋敷のほうが抜け道とか多いもんな。

 俺にとっては便利だけど、こういうのって表裏一体。

 まあ、公爵がそんなミスをするわけねえか。

 それに比べて王宮はガバガバなんだよなあ。


「シャルロットを見守ってるに決まっているだろう」

「ここ、気配しか感じられませんけどね」

「気配しか? お前は何という贅沢者なんだ。十分すぎるだろう」

「そっすね」


 ここの壁は厚いので声は聞こえない。

 通常なら気配もわからないだろうが(本来は避難場所だからな)、俺は小さい頃からクソみたいな生活で鍛えられたからな。

 じゃあ、なんで公爵はわかるんだ?


「……閣下が初めて命を狙われたのっていつっすか?」

「さあな。七、八歳くらいか?」

「まだガキっすね。やっぱ生意気なクソガキだったから?」

「直系の子どもは私だけだったからな。親戚連中にとって私は邪魔だったんだろう」

「そういや、ハルツハイム公爵家の親戚ってあまり聞かないっすね。今回の結婚にも何も言ってこなかったんすか?」

「何か言わせるわけないだろう。そもそも私に意見を言えるだけの力を持った者は()()いない」


 え? 発言が意味深すぎて怖いんすけど。

 まさかの暗殺とかしちゃったわけ?


「……返り討ちとかしたんすか?」

「なぜ私がわざわざ手を汚さなければならないんだ。馬鹿らしい。皆、自滅していっただけだ」

「蠱毒みたいっすね」

()()()()は無害な者ばかりだ」


 ほーらー。絶対裏で手を引いてたよな?

 それ、何歳のときっすか?

 もう突っ込むのもアホらしい。


「あんまり数がいないと跡継ぎ問題で奥様がプレッシャー感じますよ」

「公爵家がどうなろうとどうでもいいが、一応は二人ほど候補を残してある」

「そっすか」


 何を言っても無駄なことはわかった。

 だから頼む。

 俺、休憩中なんでいい加減に出ていってくれ。



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