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シャルロット:自信

 

 陛下へのご挨拶が終わり、王宮でのレオンのお部屋に案内してもらって、ほっとひと息。

 ここではジェイがお茶を淹れてくれたからちょっとびっくりしたのよね。

 初めて会ったけれど、本当にジャンとジョンにそっくりだわ。


「ジェイ、ありがとう。とても美味しいわ」

「光栄です、奥様」

「ジェイ、もう下がっていいぞ」

「かしこまりました」


 レオンは素っ気ない言い方だったけど、ジェイはまったく怯えていないわね。

 それどころか楽しそうに微笑んでいるわ。

 レオンが三人を重宝するのもわかる気がする。

 だって、いつも怯えられていてはやりにくいものね。

 レオンは本当は優しいのに、わざと厳しくしているところがあるから。

 その理由も陛下にお会いしてわかった気がするわ。


「どうだったかな? お優しい方だろう?」

「そう、ですね……。緊張してしまって、変なことを言ったりしたりしていないか心配ですが、大丈夫だったでしょうか?」

「もちろん大丈夫だよ。シャルロットは常に最高なのだから、もっと自信を持ってほしい」

「ありがとうございます。レオンにそう言っていただけると、ちょっとだけ自信が持てそうです」


 レオンはやっぱりことあるごとに褒めてくれる。

 きっと10回も婚約破棄された私に自信を持たせようとしてくれているのよ。

 だからそれにちゃんと応えないと。


 自信がないといえば、陛下もそう感じられたわ。

 確かにレオンが言う通り、緊張する私に優しく接してくださったけれど、一国の王としては覇気がないというか貫禄がない感じ。

 私のような田舎者でもそう思ってしまうのだから、社交界の重鎮たちには頼りなく感じてしまうのではないかしら。

 だからレオンが厳しい態度を取ることで、陛下の優柔不断(優し)さを長所として引き立てているのよ。

 それでいつの間にか冷徹相って呼ばれるようになったんだわ。


 要するに〝飴と鞭〟ね。

 会話もレオン主導で、陛下はずっと微笑んでいらっしゃるだけだった。

 ただ、初めて私の顔をご覧になったときに一瞬驚かれたような表情をされたのは、きっと私があまりに平凡すぎるからだわ。

 だってレオンほど素敵な人なら選りどりみどりだったはずだし、王女様とだって(この国にはいないけど)結婚できたはずなのよ。


 だけど、レオンが私を選んだのは私生活でも〝飴と鞭〟が必要だからじゃないかしら。

 きっと小さい頃に会ったとき、レオンの印象に残ることを私はしてしまったんだわ。

 身に覚えがありすぎてどのことなのかはわからないけど。


 それで私を調べて、領民たちと親しくしていることを知ったのよ。

 レオンも本当は領民と親しくしたいけれど、冷徹なイメージを崩さないために我慢しているんだと思う。

 だからレオンが優しいってみんなに伝えようとしたのは間違いだったみたい。

 危うく大失敗するところだったけれど、私も〝飴と鞭作戦〟を手伝えばいいのよね。


「レオン、色々とご苦労が多いのでしょうけど、これからは私がいますからね!」

「……ああ、そうだね。ありがとう、シャルロット」


 レオンは私の言葉にちょっと驚いたみたい。

 ずうずうしい申し出だったかしら?

 私のような田舎娘が傍にいても大した助けにはならないことはわかってる。

 それでも私を選んでくれたからには、しっかり役目は果たすわ。


 王妃様は残念ながら亡くなられてしまって、王子様たちはまだご結婚されていないから最高位の女性はこの国にはいらっしゃらない。

 ということは、公爵夫人として求められることも多いはず。

 そう思うと不安ばかりだけど、できることから少しずつ頑張ろう。


「先に私からご挨拶しておいたほうがよい方はいらっしゃいますか? 社交界の重鎮の方々をお教えいただけるとありがたいです」

「そのように気を回してくれるのは嬉しいが、特にはいないな。社交界でもシャルロットがわざわざ挨拶しておくほどの者はいないよ。シャルロットは私の妻として、好きなようにしていればいい。そのうち向こうから挨拶してくるだろう」

「そうですか……」


 もちろんハルツハイム公爵夫人ならそれも許されるわよね。

 でもやっぱり社交界の皆さんの心証を良くしておきたいと思うのだけれど、レオンの言葉に従うべき?

 まずは相手の出方を窺うべきかしら。


 ずっと二人きりだったからレオンの優しさと領地経営にばかり注目してしまっていたけれど、王都に来て改めて正装した姿を目にしては意識せずにはいれない。

 レオンが絶世の美男子だって。


 公爵様で宰相様でこれだけの美貌なんだから、すごくすごくモテると思うのよね。

 ということは、まだまだ諦めきれないライバルはいるはず。

 レオンが私に自信をつけようと褒めてくれるのも、ライバルたちからのけん制に負けないためというのもあるんじゃないかしら。


 おそらくこれから、今までの私の噂を知った人たちに馬鹿にされるでしょうね。

 だけどそれは事実だから仕方ないわ。

 幸いにして、私もキツノッカ王国の社交界でそれなりに洗礼を受けて多少は慣れているから大丈夫。


 表立って馬鹿にしてくる人たちには絶対に負けるつもりはないわ。

 私を馬鹿にするということは、私を選んだレオンも馬鹿にするということ。

 ただ取っ組み合いのケンカはもちろん、剣での決闘もできないから、淑女らしく勝負しないといけないのよね。

 それはちょっと不安だから、お母様にやられたらやり返す方法を訊いておかないと。


 ひょっとしてレオンは、今までどんなに風当たりが強くてもめげなかった私の根性も買ってくれているのかもしれない。

 それなら任せてほしいわ。


 問題は表向きは味方のふりをしながら近づいてくる人たちよね。

 彼らの目的をよく見定めないといけないもの。

 単にハルツハイム公爵夫人の威光がほしいのか、私をレオンから引き離したいのか、それともレオン自身を陥れたいのか。

 冷徹相と呼ばれるくらいだから、陛下の代わりに恨みを買っている可能性大。


 だけどそれについてはレオンに期待されていない気がするわ。

 だからこその「好きにしていい」発言?

 こちらからの挨拶も必要ないのはそういうこと?

 だとしても、このままレオンに恩返しできないのは申し訳ないし、何よりレオンの役に立ちたい。


「レオン、私は頼りないかもしれないですけど、やっぱりレオンのために頑張りたいんです」

「……私のために?」

「はい。私はレオンの……妻ですから。夫のために頑張るのは当然です!」


 今の言い方だと恩着せがましかった?

 でも、好きだからレオンのために何かしたいって言うほうが引かれるわよね?

 だって、レオンも旅の初日に一度だけ「好き」と言ってくれたきりだもの。

 あれはたぶん私を安心させるために口にしてくれただけよね。


「シャルロット、私のために無理をする必要はないんだからね?」

「ありがとうございます。ですが、私は私の好きにするつもりですから」


 にっこり笑って答えれば、レオンはまたちょっと驚いた顔になって、それから笑ってくれた。

 よかった。気分を害してはいないみたい。

 それならレオンの『飴と鞭作戦』に協力しながら、愛人他ライバルたちを蹴散らしてみせるわ。



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