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シャルロット:発作

 

「――奥様、お代わりはいかがですか?」

「ありがとう、ジャン」


 今日はいよいよ陛下へご挨拶させていただくのだから、しっかり食べておかないと。

 元気の源は朝食から。

 力が出なくて国王陛下の前で何か失敗してしまうことだけは避けたいもの。

 レオンに恥をかかせてしまっては大変だわ。


「シャルロット、今朝はいつも以上に輝いているね。やはり王宮に行くのが楽しみなのかな?」

「そうですね。ようやく陛下にご挨拶できるので、緊張はしていますが、楽しみでもあります」


 レオンは息をするように自然に褒め言葉を口にするから最初は慣れなかったのよね。

 でも今はどうにか軽く流せるようになったわ。

 お世辞を本気にして照れていては、きっとこの国の王宮ではやっていけないと思うの。

 ただこんなに優しいレオンが冷徹だと言われるなんて、ちょっと信じられないのよね。

 ライツェン王国の人たちはもっともっと優しいのかしら。


「シャルロットはいつも通りにしてくれていいんだよ?」

「ありがとうございます。では、レオンとの結婚を認めてもらえるよう頑張ります!」

「いや……」


 え? 嫌なの? 認められなくてもいいってこと?

 レオンは考え込むように俯いてしまったけれど、何か気に障ることを言ってしまった?


「あの――」


 何がダメなのか訊こうとしたとき、ジャンが激しく咳き込み出した。

 かなりつらそうだけど、大丈夫かしら?


「ジャン、大丈夫? もし体調が悪いのなら休んだほうがいいわ」

「い、いえっ、だっいじょうぶっす! すみま、せんっ」


 本当に大丈夫かしら?

 背中をさすったほうがいいかもと思ったら、レオンが立ち上がってジャンへと近づいた。

 それから背中をさすって……いえ、叩いているわね。

 ひょっとして何か喉に詰まってしまってたの?

 え? そんなに強く? 拳で?


「レオン、あの、それ以上は……」


 ジャンに新たな苦しみを生んでませんか?

 まさかの暴行? いえ、そんなはずないわ。

 ジャンの持病か何かで特別な処置なのかも。


「さあ、ジャン。もうここはいいから、休んでくるといい」

「……かし、こまりました」


 ほら、やっぱりレオンは優しいんだわ。

 給仕の途中で抜けて休んでいいなんて、厳しい人たちは言ったりしないもの。


「ジャン、お薬があるならちゃんと飲んでね。もし咳が続くようなら、お医者様に診てもらいましょう」

「お気遣いいただき、ありがとうございます。たまに発作が出るのですが、旦那様によくしていただいてますから、今も落ち着きました」

「なら、よかったわ」

「ジャン、とにかく休め」

「失礼します」


 咳もようやく落ち着いたみたいね。

 それにしても発作だなんて、大変でしょうに。


「ジャンはよく発作を起こすのですか?」

「めったにないよ」

「そうですか。先ほどはかなり苦しそうでしたから、少しだけ安心しました」


 ジョンとジェイは大丈夫なのかしら。

 三人とも持病があるのだとしたら、心配が三倍でしょうね。

 それでもレオンはジャンたちを雇っているんだわ。


「レオンは本当に優しい人ですね。持病のあるジャンを雇うばかりか、発作が起きたときに助けてあげるなんて」

「ジャンとは長い付き合いだからね。なぜ発作を起こしたかよくわかっているんだ。だから当然のことだよ」

「いいえ。前から思っていましたが、レオンは謙遜しすぎです」

「優しいのはシャルロットだよ。私との結婚を陛下に認めてもらえるよう頑張るだなんて。あまりに嬉しくて、すぐには言葉が出なかったよ」


 そっか。よかった。

 嫌なわけではなかったのね。


「では、そろそろ支度をしなければなりませんので、失礼します」

「ああ、そうだね。シャルロット、また後で」

「はい」


 ああ、ダメだわ。

 勝手に顔がほころんでしまう。

 レオンが好きすぎてつらい。

 これが恋というものなのね。


 まだ出会ってから(私的には)ひと月も経ってないのに、こんなに好きになるなんて。

 だって信じられないほど優しいんだもの。

 それに神々しいほどにかっこよくて、心臓に負担がかかりすぎてると思う。


 きっとレオンは真面目すぎて、今までお仕事ばかりだったから、冷徹相なんて呼ばれていたんじゃないかしら。

 あれほど整った顔立ちだと、畏怖すら感じてしまうものね。

 だから愛人だけでなくライバルは多いはず。

 そんな女性たちをはね除けるためにも、陛下からのお許しは絶対に必要なのよ。

 レオンの妻という確固たる立場がね。


 腕っぷしにはそれなりに自信があるけれど、ライバルの女性たちと決闘するわけにはいかないもの。

 神にも陛下にも認められたという立場があれば、堂々とレオンの妻でいられるから。

 要するに、私に必要なのは腕っぷしではなく自信。


 レオンにちゃんと愛されるためには、素敵な女性にならなければ。

 ああ、お母様に何度も何度も言われていたときに、しっかり聞いておけばよかった。

 剣を振りまわさない、日に焼けない、使用人を手伝わない、馬を全速力で駆けさせない……ええっと、あとは何だったかしら?

 とにかく、今は大丈夫なはず。


 剣は手入れして持ち歩いていただけだし、帽子はちゃんと被っていたし、使用人には話しかけたけど手を貸してはいないし、馬も全速力で走らせてはいないわ。うん。大丈夫ね。

 そもそもレオンには見られていないもの。

 でも王都ではどこで誰が何を見ているかわからないから気を付けないと。

 社交界は足の引っ張り合い。


 ヘイクから婚約破棄されても、これみよがしに意地悪されても平気だったけど、レオンに同じことをされたら耐えられそうにない。

 恋って本当に胸が苦しくなるものなのね。

 はあ、つらい。でも楽しい。


 どうかレオンの完全な妻となれますように。

 そのためにも邪魔者とは徹底的に闘うわ。

 いざ出陣よ!



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[一言] ꉂл̵ʱªʱªʱª(ᕑᗢᓫ∗)˒˒ꉂл̵ʱªʱªʱª(ᕑᗢᓫ∗)˒˒ꉂл̵ʱªʱªʱª(ᕑᗢᓫ∗)˒˒ 二人してから回ってるよ。 面白すぎる。両思いなのに両片思いみたい。
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