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レオン:祝福

 

 全人類に幸あれ。

 私は今日、女神から祝福を受けた。そう、シャルロットからの我が儘だ。

 この幸せを皆に分け与えたい。

 まさかシャルロットから、一生一緒に過ごしたい(願望要約)と言われるなんて。

 ひょっとして私はもうすでに死んでいるのでは?

 ここは天国か?

 たとえ死の間際に見ている夢だとしてもかまわない。


 外泊をしないでほしいと言っていたが、私はそれほど仕事熱心ではないので王宮に泊まったりはしないのだが。

 しかし、シャルロットが私のことをそのように思っているなら熱心なふりをするべきか。

 シャルロットに約束したので、私はどこにも行くつもりはないが、仕事はしなければならないだろうな。

 ふむ。どうする?


「おい、ジャン(偽)。シャルロットとずっと一緒にいながら、私が熱心に仕事をするための良案はあるか?」

「分身したらどうっすか?」

「お前は馬鹿か。そんなことをしてもシャルロットに私が仕事熱心だと伝わらないではないか」

「え? 突っ込むとこ、そこっすか?」

「もういい。戻れ」

「へーい」


 たまたま目の前にいたからと、あいつに訊くなんてどうかしていたな。

 だが、シャルロットに関しては藁にすがってでも完璧にしたいのだ。

 とりあえず、あいつからの報告では今晩はもうシャルロットは眠ったらしい。

 やはり馬車での長距離移動で疲れていたのだろう。


 この二日間はまた私にとって至福のひとときだったが、シャルロットに負担をかけるのは本意ではない。

 いっそのこと王都を移動させるか。

 シャルロットは我が領館を気に入ってくれたようだからな。


 そのことも検討事項に入れるとして、まずはシャルロットといかに離れず仕事をするかだ。

 シャルロットに喜んでもらうためにも、各領地の民からの搾取を――徴収率を統一させなければ。

 シャルロットとの(一方的な)約束は必ず果たしてみせる。

 とすれば、やはり王宮へ出向いたほうが簡単だな。


 いっそのことシャルロットも一緒に王宮に連れていけばいいのではないか?

 そうすれば、ずっと一緒に過ごすこともでき、仕事もできる。

 そうだ。公爵夫人としての役目とやらを果たすにも王宮のほうが都合がいいだろう。

 その場合、少々離れてしまうのが悩ましいが。

 社交シーズンの終わった今、王都に残っている貴族たちは王宮に集まることが多いからな。


 正直なところ、私としてはそんな役目はどうでもいいが、それでシャルロットが満足するなら好きにしてもらおう。

 むしろシャルロットが為すことが公爵夫人としての役目になればいいのだ。

 もし公爵夫人の役目とやらが本当にあるのなら、毒蛇酒造りも加えればいい。

 そうすればシャルロットは今まで誰も成り得なかった完璧な公爵夫人になる。


 シャルロットが取り寄せてくれた毒蛇酒はなかなか美味だった。

 あれは私のために取り寄せてくれた酒だからだろうか。

 鼻につんとくる感じがたまらないらしいが、そう言うシャルロットの表情に私はたまらない気分になった。

 まあ、シャルロットについては常にそんな気分だが。

 一年後にはシャルロットが造ってくれた毒蛇酒を飲めるのが楽しみだ。

 酒瓶の中の毒蛇と目が合ったのは気のせいだろう。


 ハチノコはあれだ。うん。

 目を閉じても無駄だったな。

 歯ごたえに問題があったせいだろうが、味は良かった気がする。

 だから、甘くて美味しいと伝えれば、シャルロットはほっとしたように微笑んでくれた。

 それが私にとっての精力剤であり、最高のご褒美だった。


 よし。シャルロットの寝顔を盗み見てこよう。

 かなり罪深い行為ではあるが、きっと許されるだろう。

 なぜなら私はシャルロットの夫なのだから。


 しかも今回はなんと、寝室を繋ぐ扉を使わないとは言っていない。

 正確には、ひと言も触れていないのだかな。

 即ち、使ってもいいということだ。


「いや、何してんすか?」

「静かにしろ」


 二人の寝室の間には浴室がある。

 そこで声をかけてくるなど馬鹿なのか?

 話し声がシャルロットに聞こえるかもしれないだろう。

 シャルロットは一度眠ると朝まで起きないが。


「まあ、止めはしませんが、奥様にも心の準備ってもんが必要なんじゃないすか?」

「ただ寝顔を見つめるだけだ」

「それも普通にヤバいっす」


 私はシャルロットの夫なのに?

 だがしかし、もし万が一ひょっとして偶然にもシャルロットが目を覚ましたらどう思うだろうか。

 前もって寝室は一つにするよう、テイル夫人に伝えておくべきだった。

 そうすれば宿に泊まるときのように一緒に眠れたものを。

 あれ以来、スマイズはいい仕事をしてくれている。

 私とシャルロットの邪魔をいっさいせず、影に徹して宿の手配も完璧だった。

 それに比べてこいつは……。


「閣下がいるんなら俺は外しますよ。早く奥様の夫婦生活の不安が解消されるといいっすね」


 そう言い残してあいつは出ていったが、どんな嫌がらせだ。

 もしシャルロットが起きてしまった場合を考えると、私まで不安になってくる。

 うん。今夜は諦めよう。

 シャルロットによって引き起こされる感情に不安が加わった。

 これはあまり気持ちのいいものではないな。


 だがシャルロットは言ってくれたのだ。――準備万端にしておくと。

 シャルロットは社交シーズンが始まるまでに公爵夫人として準備を整えてくれるつもりなのだろう。

 要するに、あと一年は私と別れるつもりはないということだ。

 よし。社交シーズンを楽しみに待つと言ったシャルロットのためにも、不安解消のために紳士的に過ごすことにしよう。



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