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シャルロット:領館

 

「――以上がこのハルツハイム城のお部屋の全てでございます」

「屋根裏部屋がまだだわ」

「ご覧になるのですか? ただの物置と使用人たちの部屋があるだけでございますよ?」

「中まではいいの。でもどんな様子かは見ておきたくて。みんな不満などはないかしら? 改善点があれば、応えられるといいんだけど……」


 アリーナが案内は終わったとばかりに告げたのは、三階の子供部屋でのこと。

 確かに一階から二階、三階と案内は部屋の中までしてもらったわ。

 レオンが仕事をしているであろう書斎は当然入らなかったけどね。


 だけど使用人のみんなの部屋がまだ残っているわよ。

 たぶん屋根裏部屋だろうから案内してほしいと頼むと、アリーナは驚いたように目を丸くした。

 そんなに変なことを言ったかしら?


「先ほど無理を言って、調理場や洗濯場も見せてもらったけれど、みんな仕事には不満はないように見えたわ。道具もしっかりしていたし、最新式のものだってあった。わかってはいたけれど、旦那様があなたたちの仕事をしやすいものにするよう手配されているのね。でもほら、男性って細かいところまでは気が回らないでしょう? そのあたりは大丈夫かしら?」


 親しみやすい笑顔を心がけて問いかけると、アリーナはしっかり頷いた。

 やっぱりね。

 レオンは領地をあれだけ豊かにしているんだもの。お屋敷の人たちが蔑ろにされているわけがないのよ。


 屋根裏部屋は普通に最終確認がしたいだけ。

 アリーナがしっかりしているから大丈夫でしょうけど、女同士でしかわからないことってあると思うのよね。……ん? ちょっと待って。

 レオンは領地に入る前に、レオンのやり方を変えることは不可能だから我慢してほしいって言っていたわよね?

 それって、てっきり愛人がいることだと思っていたけれど、ひょっとして領地やお屋敷の管理の仕方のことだったとか?


 社交界の人たちの中にはお父様やお母様にもっと領民を締め付けるべきだって余計なことを言う人が意外に多くいたのよね。

 まさか私もそんな人たちと同じように思われているのかも。

 それは大きな誤解だわ。

 どうにかしてレオンの誤解を解かないと!


「――様? ……奥様?」

「え? あ、何かしら?」

「いえ、こちらからは狭くなっておりますので、お足元にお気をつけくださいませ」

「ええ、ありがとう」


 いけない、いけない。

 今はアリーナに無理を言って屋根裏部屋まで案内してもらっているところだったのに、考え事に夢中になってぼうっとするなんて。

 これで怪我でもしたら、申し訳ないわ。

 そうよ。お母様にもよく注意されていたのよ。

 ――あなたは思い込みが激しいところがあるんだから、もう少しよく考えてから行動しなさい。って。


 そうね。今晩の夕食の席ではこのお屋敷のみんなのことを褒めて感謝しよう。

 それからレオンのやり方に賛成していることも、それとなく伝えないと。

 これは全部本音で、社交界でよく言わなければいけなかったお世辞でもないから言いやすいわ。

 うん。夕食が今まで以上に楽しみになってきた。


 アリーナとは屋根裏部屋を見た後に別れたけれど、それなりに打ち解けられたと思う。

 一気に仲良くなるのは無理でしょうから、少しずつ親しくなれたらいいな。


 さてと。そろそろ夕食のための支度に気合を入れないと。

 湯浴みをするのはちょっとはりきりすぎ?

 だけどその分、夕食後に湯浴みはしないから、みんなには迷惑ではないわよね?


 昨日のように緊張もしていないから顔色もよくて、我ながら綺麗に装えたと思う。

 レオンがプレゼントしてくれたドレスはちゃんと採寸したかのようにぴったりだったし、宝石も代々受け継がれているものだからというわりにはすごく新しく見えた。


 とにかく、レオンは褒めてくれるかしら?

 きっと褒めてくれるわね。

 だって、どんな酷い寝起きの顔だって、いつも恥ずかしくなるくらい褒めてくれるから。

 さすがにお世辞だってわかるけど、それって私にすごく気を遣っているってことよね?


 このままではレオンは気疲れしてしまうんじゃないかしら?

 それで私のことが嫌になって、離縁まっしぐら……って、そんなのは駄目よ!


 そもそも私は今までレオンに何かしてあげることができた?

 答えはノーよ。


 あの惨めな状況から救い出すようにプロポーズしてくれて、結婚式の手配もしてくれて、本当に結婚してくれて、旅の間も私がくつろげるように気配ってくれて、素敵な領地を案内しながら快適な旅を続けてくれて、お屋敷では自由に過ごせばいいと言ってくれてる。

 何よりとても忙しいはずなのに、お互いしっかりわかりあえるようにか私が寂しくないようにか、朝夕の食事をいつも一緒にとってくれる。


 それなのに私がしたことといえば、ヘイクをぎゃふんと言わせるためにプロポーズを受けて、ぼうっと結婚式が行われるまま過ごして、旅が始まってからはレオンを疑って、さらには武器になるものを用意して、ベッドではスヤスヤ眠るだけ眠って、領地ではあれこれ質問攻めにして、お屋敷についてからは愛人の存在を疑うなんて……って、そうよ。それに関してはまだはっきりしたわけではないけど、当分は目をつぶろう。


 とにかく、何か私がレオンにできることを考えないと。

 この国の宰相であるレオンが忙しくないわけないのに、こんなに私のために時間を取ってくれているのよね。

 きっと王都に戻ればもっと忙しくなるんだわ。

 それを王都にいるかもしれない愛人に癒してもらうのかも。

 愛人がどんなことをしてレオンを癒してあげるのかはわからないけれど、私だって負けていられない。


 そうだわ!

 私にしかできないこと。それもこの領地ならではのことをすればいいのよ!


 忙しいレオンは間違いなく疲れているはず。

 それを癒すことはできないかもだけど、元気づけることはできる。

 疲れを取るにはアレが一番。

 明日はさっそく毒蛇(マブラ)探しに行くわ!




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