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シャルロット:問題

 

 夕食の席ではレオンは終始にこやかで、私も楽しくなってきて食事も美味しくいただくことができたのよね。

 最初は緊張しながらもどうにかドレスや宝石のお礼を口にした。

 だって、私の部屋の衣裳部屋には流行のドレスや靴がいっぱい用意されていてびっくりしたんだから。

 その後、アリーナから宝石類も見せられてさすがにぽかんとしてしまったのは仕方ないと思うの。


 あまりにもすごすぎて申し訳なくて、レオンにその気持ちも伝えると、結婚の贈り物だから気にしないでほしいって。

 宝石は王都にもいくつかあるからって気軽に言っていたけれど、そこで私はどれだけすごい人と結婚してしまったのか改めて気付いたのよね。

 レオンはこの大国ライツェン王国の由緒正しきハルツハイム公爵で宰相様。

 すごくないわけがなかったわ。


 ただ給仕をしてくれている人は一人だけだった。

 まあ、一人で十分なんだけど、その若い男性以外はアリーナもメイドもどこか緊張しているみたい。

 そんなに私のことが不安?

 うーん。


 そうだわ。

 レオンは私に好きにすればいいと言ってくれたのだから、ここの女主人として家政婦のアリーナとなるべく早く親しくなろう。

 それで色々と教えてもらいたいわ。

 領地もしっかり見て回りたいけれど、まずはこのお屋敷のことを把握するべきよね。


 お茶の用意に来てくれたときには、私も柄にもなく緊張してしまって話しかけられなかったけれど、明日からはしっかり話をしてみよう。

 それに侍女やメイド、みんなの紹介をしてもらって、名前を覚えないとね。

 まずはそれからだわ。


 すぐそこには、レオンの部屋と繋がる扉があるけれど気にしてはダメ。

 昨日までは同じベッドで寝ていたのに、お屋敷に戻ったらこんなに距離ができるなんて。

 別に寂しくなんてないわ。

 これで心置きなくゆっくり眠れるし、色々と冷静になれるもの。


 急な結婚から今までずっと一緒だったから、レオンについて落ち着いて考えることができなかったのよ。

 冷徹相と呼ばれているレオンの噂は聞いていたのに、この旅の間はあまり感じることはなかった。

 だけど、このお屋敷に着いてからはどこか冷たいようで、それでも私には笑顔を向けてくれる。

 それとも無理をしているのかしら。


 たとえそうだとしても、希望はあるわよね。

 だって、私のことを「好き」だって言ってくれたもの。

 たった一度だけで、信じることができない私はひねくれているのかもしれない。

 でも嘘だったとしても、私と良好な関係を築いていくための嘘なんだから先行きは明るいわ。

 そう思うと安心して、だんだん眠くなってきた。

 大丈夫。

 また明日から頑張ろう。


 * * *


 鳥の鳴き声とともに、かすかな物音が聞こえる。

 もう朝? ひょっとして寝坊してしまった?

 こんなにしっかり寝てしまっては、もしレオンがやってきていても気付かなかったわね。

 それって、妻としては失格な気がするので結果よかったのよ。うん。


 自分を納得させてベッドから出ると、カーテンを開けた。

 よかった。まだそこまで遅い時間ではないわ。

 あまり早く起きても、ここの人たちはびっくりするだろうしね。

 私の生活習慣に慣れてくれたらいいけど、それまではあまり早起きするのは迷惑でしょうから気をつけないと。


 そういえば、朝食はどうするのかしら。

 ここまでの旅では毎朝レオンと一緒に食べていたけれど、やっぱり別々?

 どうしようと考えていたら、そっと居間側の扉が静かに開かれた。


「も、申し訳ございません! まさか奥様がお目覚めになっていらっしゃるとは思わず……」

「気にしないでいいのよ。それより……テッサだったかしら?」

「はい!」


 扉から顔を出したのは私付きのメイドだと昨日紹介された子。

 名前はテッサで合っていたみたいね。

 あのときは色々と考えてしまっていてぼんやりしていたから、失礼だったわよね。


 テッサは女主人が――私がこんなに早く起きているとは思わなかったみたい。

 おそらく物音がしたので覗いてくれたんだわ。

 恐縮しているらしいテッサに、できるだけ親しみやすい笑みを浮かべてみせる。


「その、レオ……公爵様はもう起きていらっしゃるかしら?」

「はい。先ほど、執務室に土地管理人の方が呼ばれていたようですから、お話をされているのかと思います」

「そう……。それでは、朝食もすませていらっしゃるわよね……」


 さすがに、もう待っていてはくれないわよね?

 そもそも私と一緒に食べている時間さえもったいないんじゃないかしら。

 噂はともかく、宰相の位に就かれている方だもの。

 この領地でのお仕事を早く終わらせて、王都に帰らないといけないんだわ。


「確認してまいります! あ、お仕度をされますか?」

「先に確認をお願い。私の支度はそれからで大丈夫よ」

「かしこまりました!」


 レオンは道中も私より遅く寝て、早く起きていたのよね。

 要するに私がぐうすか寝ている間も、お仕事をしていたってこと。

 若くして宰相になったのも当然だわ。

 今まで出会ったどの貴族よりも身分は高いのに、すごく働いているもの。


 冷徹相でも何でも、この国に入ってから民が苦しんでいる様子は見られなかった。

 このお屋敷でも、みんなはレオンのことを畏れてはいるようだけれど、不遇されていないことはすぐにわかったわ。


 よし。

 言われたとおり、レオンのやり方に口を挟むつもりはないけど、好きにしていいなら、レオンが怖い人ではないってことを知ってもらおう。

 余計なお世話だと怒られるかしら?


 だけど、恐怖で支配しているわけではないんだもの。

 もっと尊敬されていいはずよ。

 たとえ愛人がいたとしても、それは私の問題でみんなには迷惑をかけていないんだから。


 ええ、本当に私の問題だわ。

 このままどうでもいいふりをしていればいいのかもしれない。

 それでも私はレオンにちゃんと好きになってもらって、幸せな家庭を築きたい。

 だからまずはレオンの好みを知るべきね。

 好きな色から食べ物、趣味、そして女性のタイプ。

 レオンの評判もきちんと知りたいし、これからやるべきことは情報収集ね。



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