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9話 ジード




「てめえか? 魔力もねえ無能は」


 そういって奥からやって来たのは、剣を腰に付けた大柄な男だった。


「おいおい、そんな奴が冒険者になって何をやろうってんだ。お遊戯か?」


「ジードさん!」


 エメリーさんがその男に向かって言う。

 ジードというのが彼の名前か。


「そんなことを言っては失礼ですよ!」


「でも事実じゃねえか」


 ジードはフッと鼻で笑った後、小馬鹿にした目でこちらを見る。


「計測球なんてガキでも光らせることができるぜ。それすらできないレベルの奴は、ガキ以下の魔力量の無能なゴミじゃねえか」


 ジードは俺の目の前に来て告げる。


「てめえなんざゴブリンに殺されるのがオチだ。さっさと帰れ。目障りだ」


「いや、まだ帰るわけにはいきません。試験の途中です」


「そうか。ならいいこと教えてやるぜ。俺が冒険者試験の試験官だ」


「ジードさんが、実技試験の試験官なんです」


 エメリーさんが捕捉してくれる。


「元冒険者ですが、今はギルドの職員として冒険者の方の試験官を行ってもらっています」


「そういうことだ。つまり俺が試験官として判断した結果は、お前は不合格だ。これでわかったか、ガキ」


「ですが」


 ジードの言葉に引っかかりを覚えた俺は言う。


「ですが俺はまだ実技試験を行っていません。実技の試験官ならば、実技試験の結果から合格か不合格かを判断するべきだと思いますが」


「……んだと、こらてめえ」


 ジードが俺の言葉を聞いて、不愉快そうに顔を歪めた。


「実技がどうのなんて知らねえよ。試験官の言うことが聞けないっていうのか? それとも俺に口答えすんのかよ、魔力無しの無能のガキがよ」


「あの、ジードさん」


 エメリーさんがジードのおずおずと話しかけた。


「ジードさんは落とすと言っていますが、規則では合格の可否を決めるのは実技試験で、計測試験で冒険者を不合格にすることはしないと決めてあります。いくら試験官のジードさんでも、この場で不合格にすることはできません」


「うるせえんだよ、クソが!」


 自分の言葉に反論されて腹を立てたのか、ジードが大声でわめき始めた。


「規則なんざ知らねえよ! 試験官である俺が落とすって言ってんだ! ならこいつは不合格なんだよ! それが全てだ!」


「ジードさん……」


 その幼稚な様子に、エメリーさんが呆れたように嘆息する。


「別にいいだろ、やってみても」

「せっかく来たんだし、見るだけ見てみれば?」


 他の職員も、ジードにそう言い始めた。


 しかし。


「こいつの実力? そんなの見なくても決まってらあ! 何にも出来ねえ雑魚なんだよ!」


 ジードはそんな言葉に対して理性的な対応はしなかった。


「どうせ大した力もねえ雑魚なんだよ! こんなやつの試験をやるなんて時間の無駄だ。俺は忙しいんだ、時間を無駄にさせるんじゃねえ!」


「……なんでこんなに頑なに試験をしたくないの、この人」

「す、すみません。頑固な人なので」


 呆れて出てしまった俺の言葉にエメリーさんが応える。


 ああなるほど。

 いるよなあ。そういう人。


 何でも自分の思い通りにいかないと気が済まないタイプ。

 それでちょっと気に障ることがあると不満を述べ始めるのだ。


 俺の父や兄がそうだった。


 まあ、今は彼らのことはいいか。


「あの、ジードさん」


 あまりの様子に、さすがに気がとがめたのか、エメリーさんが言う。


「皆さんたちの言う通り、一応試験は行うべきかと。こんなことは言いたくありませんが、ジードさんはここ最近、規則を破ったり軽視する行動が見受けられます。そのことをギルド長から注意を受けたばかりじゃないですか」


「――っ、だから何だってんだ」


 ギルド長の名を出したエメリーさんの言葉にジードはたじろぐ。

 どうやらギルド長には弱いらしい。


「今回のことも、ギルド長に報告いたしますよ」


 そしてエメリーさんのその言葉が効いたのだろう。

ジードはチッと舌打ちをして、渋々頷いた。


「わかった。わかったよやりゃあいいんだろ。ったく」


 ジードは元居た奥の部屋に行くために背を向けた。

 そこで実技試験の準備をするのだろう。


「おい無能。外に出て修練場に行け。そこでボコしてやるからよ」


「わかりました」


 俺の返事を無視して、彼は歩いていく。


「これでいいんだろ、クソが」


 そしてすれ違いざまにエメリーさんに悪態をつく。


 ジードが引っ込むと、俺はぽつりと感想を漏らす。


「やばいですねあれ。かなり問題あると思うのですが」


「すみません。何度か注意をしているのですが……」


「あ、いえ、謝らないで下さい。エメリーさんが悪いわけじゃないので」


 手を振って否定する。


 エメリーさんが悪いわけではない。

 ジードの態度に問題があるだけだ。

 彼女はそれをはっきりと注意してくれたのだから、むしろ褒められるべきだろう。



 修練場までは、エメリーさんが案内してくれることになった。


 俺たちは、外に出て、修練場に向かった。




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