8話 冒険者ギルド
ユイハさんをおぶりながら、街にまでたどり着いた。
ノアさんとユイハさんから礼を言われて、二人と別れる。
彼女たちは街の入り口で馬車を借り、この街にいる領主のところへと向かった。
俺は冒険者ギルドに行くことにする。
ギルドの場所はノアさんから聞いていた。
俺は冒険者ギルドにたどりつくと、俺は入口から奥にある受付の方へと向かう。
周りの人間は、普段は見かけない俺の姿を品定めするように見てきた。
周りのテーブルにいた者たちから小さくこんな声が聞こえてくる。
「新人か?」
「あんま強そうには見えねえけどな」
「武器も持ってねえし、舐めてんのか?」
「鎧すらねえじゃねえか」
「いや、魔術師なのかもな」
「だとしたら理解できるが……」
うーん。
残念ながら魔術師じゃないんだよなあ。
というか魔力のない落ちこぼれだ。
正反対だ。
ちなみに、これらの言葉は別に彼らが聞こえる声で言っているわけではない。
小声だったが、俺の耳がいいからよく聞こえてしまうのだ。
まあ数キロ先のユイハ達の声が聞こえたほどだからね。
そりゃあ数メートル先なら小声でも聞こえるよ。
師匠の元にいたころは、この耳の良さのおかげで魔獣の位置を把握できていた。
あの頃は便利だと思っていたんだが、こうなるとちょっと不便だな。
でもこのおかげでユイハ達の危機を知ることができたし、一長一短だな。
彼らの声を気にしないようにして、受付まで行く。
「すみません。冒険者の登録をしたいのですが」
「はい。登録は初めてですか?」
「はい」
「では、冒険者ギルドとその登録方法について説明いたします」
そして、受付嬢――エメリーさんというらしい――からギルドと登録方法について説明を受けた。
彼女から聞いたことを簡単にまとめると、次のようになる。
・冒険者に登録するためには試験を受け、合格すれば冒険者に登録することができる。
・合格しても、試験の結果によってランクが付けられる。
・ランクによって受けられる依頼が変わり、低ランクの冒険者は高ランクの依頼を受けることはできない。
・冒険者としての活躍によってランクが上がっていく。
・問題を起こした者は実力があってもランクが下がることもある。
・大きな問題を起こした場合には登録を抹消され、再び冒険者に登録することはできない。
ということらしい。
後半は登録方法というよりも、冒険者ギルドの制度についての説明だった。
ランクは基本としてE~Aまであり、Eが最低、Aが最高ランクらしい。
Aの上にもSランクというのがあるらしいのだが、それはめったになれる人はいない。
さすがにSランクなんていうものを目指すつもりはないから別にいい。
今はとりあえず、目の前のことだ。
冒険者の試験に合格することを目指さなければ。
「まずは、最初の試験です」
そして彼女は隣にある水晶玉のような球をこちらに動かした。
「試験といっても単なる計測です。この結果で不合格になることはないので安心してください。こちらの計測球で魔力量を測ることができるんですよ」
「魔力を……」
驚きと共に見つめる。
「触れた者の魔力を球が読み取って、示してくれるんです。使い方は簡単ですよ。この計測球に手を置くだけです」
エメリーさんが球に触れる。
すると球は黄色い光を放ち始めた。
「魔力量によって光の色が違ってきます、私は赤色、魔力量としては低いですね」
「低いんですね」
「赤が一番低くなっており、黄、緑、青と色が変わるごとに多くの魔力量と計測されます。黒く光ればそれ以上、規格外の魔力量だと判断できますね」
受付嬢が引き継いで説明してくれた。
「すごいですね。俺が子供のころはこんなものはなかったのに」
五年前。
俺がまだ実家を追いだされる前では、魔力の計測はこんなに簡単ではなかった。
もっと複雑な方法を取っていたのだ。
それこそ一回の計測に何時間もかかっていた。
それが数秒でおわるほどに簡単になるなんて。
技術は進歩するものだ。
「魔力量は少なくても、球は反応します。これで合否が決まるわけではないので、安心して下さい」
合否が決まらないのに測定はするのか。
意味はあるのだろうか?
いや、確か合格した後にランク付けも行うらしい。
そのためだろう。
魔力量が少なくても反応する、か。
だがどうだろう。
おれは魔力がない。
この球は少ない魔力量でも反応するらしいが、俺は「少ない」どころの話じゃない。
魔力がないのだ。
ゼロだ。
正確には、魔力が作られる先から身体能力の強化に変化しているらしい。
だが、要は計測される魔力の値が0であることには変わりない。
やる意味はないと思うのだが……。
「一応これも試験の一つですから。お願いします」
しかしエメリーさんにそう言われてしまった。
「まあ、試験の一つなら」
別にここで駄々をこねて断り続けても話は進まない。
俺は素直に従って、計測球に手をおく。
そして数秒たつ。
計測球は俺の魔力を読み取り光を放つ――わけもなく、計測球は光らなかった。
当たり前だ。
俺は超人という魔力が身体能力に置き換わる特異体質。
魔力が作られる先からなくなっていくのだ。
魔力の量を読み取って光る計測球だが、そもそも魔力がないのだから光るわけがない。
「あれ、おかしいですね。何で光らないんでしょう」
数十秒ほど待ち、それでも何も示さない計測球に、エメリーさんが不信感を抱き始めた。
「どうしたんでしょう。いつもならすぐに光るはずなのに」
エメリーさんは他の職員の方を呼んで事情を知らせる。
職員の何人かが試したら、普通に球は光る。
赤色、黄色、青色と綺麗な光を放っている。
しかし俺が触れた時、球は何の反応も示さなかった。
無色透明なままだ。
悲しいくらいに何もない。
「どうしたんだ? さっきは普通に光っていたよな」
「まさか故障しちゃったんですか?」
職員さんたちが困惑しながら計測球を見る。
「ああ、いや。これは壊れてはいませんよ」
「え?」
「壊れていません。そもそも俺は魔力を持っていないので、魔力を測ることができないんです」
「え、えええ!?」
エメリーさんが、大きな声を出して驚く。
「魔力がないって……、どういうことですか? そんな人がいるんですか? 計測球が反応しないほど!?」
「え、ええ。います。ここに」
彼女が驚くのもしょうがない。
子供でも赤ん坊でも、ほとんどの人は魔力を持っている。
計測できる程度には。
本来ならこの計測球は、そんな子供でも魔力を測れる装置なのだろう。
しかし俺は子供ですら反応する装置に、なにも反応を出すことができないのだ。
そりゃ驚くのも無理はない。
「これは驚いたな。そんな人がいたのか」
「まあでも君、気にすることはないよ。別にこれで不合格になるわけじゃないし」
「いや、魔力がないなら魔術が使えないだろ。それは冒険者としてやっていけるのか?」
職員さんたちが話し合う。
「あはは。すみません大きな声を出してしまって。ですが魔力計測は合否に影響しないので、安心してくだ――」
そうエメリーさんがフォローした時。
「なんだあ? 魔力がない無能がギルドに登録しに来たのかあ!?」
ギルドの奥の部屋。
そこから、体格のいい男がそうわめきながら出てきた。