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7話 二人

 その後、彼女の足の怪我の具合を確かめた。


 そのとき足を触って様子を見ていたら、彼女は顔を真っ赤にしていた。


「どうしたんですか?」


「い、いえ。何も問題ないです。足触ってもらえてドキドキなんてしてないです大丈夫です」


「痛かったですか?」


「痛くはないです大丈夫です。大丈夫です……!」


「はあ」


 なぜ二回言った。

 興奮しているのだろうか。

 魔獣に襲われて死にかけたのだから興奮するのも無理はないか。


 隣の女性は「お、お嬢様……?」と驚愕の面持ちで彼女を見ているが、まあそれも気にしないことにした。


「あ、あの。助けて頂いてありがとうございました」


「いえ、いいんですよ。困った時にはお互い様です」


 魔獣を倒した後、彼女の足の怪我を鑑みて少しの間休むことにした。

 今はとりあえず、道端にあった岩に腰かけて、安静にして座っている。


 俺たちはその間に話をする。


「あらためまして、私はユイハです。冒険者をやっています」


「私はノアだ。彼女と同じ冒険者で、チームを組んでいる」


 互いに自己紹介をしたところ、足を怪我している子はユイハ。怪我をしていない子はノアという名前だった。


 二人は共に冒険者であり、主に魔獣退治を行っているらしい。


 ん?

 でも少しおかしいな。


「あれ? でも、ノアさんはさっきユイハさんのことをお嬢様って言っていたような」


 先ほどノアさんは、ユイハさんのことをお嬢様と呼んでいた。


 てっきりなにかしらの高貴な身分なのかと思っていたが、二人とも冒険者だと言うし、違うのだろうか。


あだ名か何かかな?



「…………」

「…………」



 しかし、俺が指摘したら、二人して黙りこんでしまった。


 あれ?

 もしかして、なにかいけないことをきいてしまったのだろうか。



「すまない。カリム君。命の恩人にこんなことを言うのもなんだが、その、きかないでくれないだろうか」


「きかないでって」


「ここまで聞いて、不自然なものも感じたのかもしれない。でも、冒険者なのは、本当なんだ。冒険者ギルドで登録もしている」


 そこまで説明したところで、「ただ、な」と、ノアさんは、言葉を濁す。


「冒険者である前に、彼女はそこそこ身分のある人なんだ」


 身分のある人、ねえ。


「貴族ですか?」


「――! 直球だな。まあ、それに近い身分の人だと考えてほしい」


「今はお忍びで移動しているということですか」


「ああ」


「では、冒険者というのは――」


「身分は隠しているから、他に用意しなければいけなかったんだ。」


「私たちの目的地はこの先にあるヒューガという街です。そこの知り合いの方に会いに行く予定だったのですが」


 ノアさんに続いて、ユイハさんが語る。


「しかし、さすがに二人で移動というのはどうかと思いますけど」


 ユイハさんがいいところのお嬢さんならなおさらだ。


「……本当は、他にも三人いたんだんだがな」


 ノアさんが説明するには、初めは護衛として仲間が他に三人ほどいた。


 しかし道中、魔獣や盗賊との戦闘が何度もあったらしい。


 戦闘があれば、危険はある。

 とうぜん怪我もすることもあるだろう。


 そうして怪我をして戦線を離脱する者もいれば。

 戦いの果てに死亡してしまう者もいたのだとか。

 一人、また一人といなくなってしまい、最後にはノアさんとユイハさんだけになってしまった。


 いよいよ二人になってしまったのだが、場所はヒューガからほど近い街だったらしい。

 一気に駆け抜ければいいと判断して強行したのだ。しかし見通しは甘く、今回のように襲われてしまった。


「お嬢様の安全も考えず、急ぐことを優先してしまった私の不覚……!」

「そんな、ノアは悪くないわ。元々急いでいたのは私なのだし」


「ていうか、結構説明してもらったんですけど、それはいいんですか?」


 さっききかないで、って言ったのに。

 いや、止めなかった俺も悪いけど。


「…………」

「…………」


 再び沈黙が支配する。


 あ、だめだったのか。

 その場の空気から察せられた。


 どうやら、隠し事が苦手な二人の様だ。

 この感じでよく今まで平気だったな。

 抜けた仲間というのがよほど有能だったんだろうか。


「は、話を変えますか」


 俺は空気を払拭すべく、話題を変える。


「さっき二人は冒険者って言ってましたけど、あの冒険者ですよね?」


 俺は、冒険者というものを見たことがある。

 実家にいた頃、父の領地内にも冒険者がいた。


 冒険者とは、魔獣を倒したり盗賊を倒すなどの依頼をこなすことで金を得ている人たちだ。


「ええ、そうですけど、カリムさんもそうなんじゃないんですか?」


「え? 俺が?」


「そうですよ。あんな強い魔獣を一瞬で倒してしまうだなんて。きっとすごい冒険者なんですね」


「ああ。まさかこんな強い人がたまたま通りかかるとは。本当に幸運だった」


「あはは、そんな強いだなんて……」


 二人からの言葉に照れてしまう。


「私は冒険者としてBランク程度の腕は持っているし、お嬢様も私と同じくらいには強い。それでもあの魔獣には全く歯が立たなかったのに、それを一瞬で吹き飛ばすなんてな」


「カリムさんはやはりAランクなのですか? いいえ、それともそれ以上の――」


「いえ、俺は冒険者じゃないですよ」


「「え!?」」


 俺の言葉に、二人は驚く。


「まあそれはそうか。強いからといって冒険者というわけでもないよな」


「それでは貴族か教会に使える凄腕の騎士様とかですか?」


「あり得ますね。いやむしろそうに違いない。これほどの強さを持つ者が在野にあふれているはずが――」


「いえ、騎士でもないです」


 なんだか勘違いされていたので指摘する。


「……まあ、在野にあふれていることもあるだろう。誰だって最初は何物でもない」


 ノアさんがばつが悪そうに、自分の言葉を訂正した。


 そしてユイハさんが、ハッと気づく。


「とすると、まさか……神様の使い?」


「お、お嬢様、さすがにそんなわけは」


「えーっ! でもでも、そうじゃなきゃありえないですよ。あんなピンチの状況で、かっこよく助けに来てくれたんですもん。しかもすごく強いですし」


「だからといってどうして神様の使いになるんですか」


「あの時の私の祈りが通じたのかなあと」


 あの時、というのはユイハが魔物に殺されかかっていたときか。


「俺はただの一般人ですよ」


 まあ体質は普通と異なるかもしれないが、肩書き的には何でもないただの一般人だ。

 五年前に貴族の家も追い出された。

 身分としては一般人で間違ってないだろう。


 すると、二人は唖然とした顔でこちらを見た。


「ええと、どうしたの?」


「いっぱんじん……?」

「あんなに強い奴が、一般人?」


 なんだろう、この反応は?


「で、では、カリムさんはどのような仕事を?」


「仕事はありません。実は僕は数年前から森の中で育っていまして、今日出てきたばかりなんですよ。ちょうど街に行って冒険者にでもなろうかなあ、と考えていたところです」


「そうか。じゃあ私たちが冒険者のことについて説明しよう」


 その後、二人から冒険者について色々なことを聞いた。







 ユイハさんの足の痛みが引いたあと、ヒューガの街まで行くことにした。


 ユイハさんはなんとか立ち上がることはできたが、しかし歩くごとにまだ痛みがおそってくるようだ。

 まだ街まで遠い。

 このままではたどり着くことはできないだろう。


「街まで遠いですからね、おぶりますよ」


「え、えええ!?」


 再度、ユイハさんの顔が真っ赤になる。


「痛くて歩けないでしょう。おぶっていくのがいいと思いますけど」


「そ、それはそうですけど、でも」


 ちらり、と助けを求めるようにユイハさんはノアさんを見る。


「お嬢様。私はカリム君に同意します」


「ノア!?」


「カリム君ならば、道中また魔獣が現れた時にも素早く動くことができるでしょう。彼のそばにいた方が最も安全です」


「そ、それはそうだけどぉ」


 ユイハさんは渋っていたけれど、少しして観念したのか俺に背負われることを決めた。

 俺の背中にユイハさんが乗る。


「ふえあああ、こ、こんな……」


「すみません。恥ずかしいかもしれないですけど、まあ他に見ている人もいないんで、我慢してください」


「そ、それは、いいんですけど。顔が近くて」


「顔?」


 後ろを振り向く。


 すると、先ほどよりもさらに真っ赤な顔でこちらを見るユイハさんが見えた。


「どうしたんですか?」


「ど、どうもしてないです。大丈夫です」


 そう俺に言ったあと、ユイハさんは小声で


「でも。ううぅ。ドキドキする……」


 と呟いた。


「お嬢様、まさか」


「ち、違うんです、ノア。私はまだ……」


「あー、なんだか知りませんけど、もう行きますよ?」


 このまま待っているわけにもいかない。


 俺は街に向けて歩き始めた。



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