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2話 出会い



 突然の人の登場に、俺はぼうっとしていた。


「どうした、君。立てる? 話せる? 怪我はないように見えるけど、頭でも打ったの?」


「あ、はい。立てます。話せます」


 言いながら、ひょいと立ち上がる。


「よかった。ちゃんと立てるみたいで。怪我はある?」

「ないです」


 首を振って否定する。


 眠る前に兄から魔法をくらっていたが、今は痛くない。

 寝ている間に回復したのだろう。


 それ以外に寝ている間に怪我をした可能性もあるが、体のどこかに痛みがあるわけじゃないから大丈夫だろう。


「心配してくれてありがとうございます」

「それはどういたしまして」


 ローブを着た金髪の女の人は優しく笑いながら言う。


「それで、えーと、君は迷子?」


 再度こちら質問してきた。

 そして腕を組んで頭をかしげる。


「うーん。普通は来れないんだけどなあ。子供一人で、こんなところまで」

「迷子、とは少し違います」

「ん?」


 質問に答えながら、俺はうつむいて下を向いた。


 思い出す。ここにいる理由を。

 思い出す。これまでの日々を。

 父からの叱責。兄からの嘲笑。そして自分の無力さ。

 それらを思い出してしまう。


「俺は、家を追いだされてきたんです」


 うつむいたまま俺は告げる。


「家を追い出されて、魔術で眠らされて、気が付いたらここにいました」


「……少し詳しく話を聞かなきゃいけないようだね」


 俺からの言葉を聞いて、険しい声になった彼女は身をひるがえした。


「こんなところで見の上話もなんだし、一緒に来て。少し歩いた先に私の家があるから。そこでお茶でも飲みながら話をしよう」


 そう言って歩き始める。


「あ、はい」


 彼女に導かれるように、俺もなんとなくその後姿を追って歩き始めた瞬間――。





『グオオオオオオオ!!!!!!』





 突如、災害かと思うような大きな咆哮が聞こえてきた。


 生まれて初めて聞くすさまじい音であったが、何がこの音を出しているのかは簡単に想像がついた。

 魔獣だ。


「!」


 俺たちの横手。

 ちょうど右のあたりから、咆哮が響いていた。

 驚いてそちらを見ると、そこには大きな獅子の魔獣がいた。


 魔獣は3メートルほどの高さを持ち、四つの足は大木のように太い。

 表面は金の体毛でおおわれ、その爪は家にいた騎士の持っていた剣よりもずっと鋭かった。

 狂暴そうな顔は、こちらに向いている。



「あ……」



 そのとき、俺の体を支配したのは恐怖だ。


 思わず身をすくませて、動けなくなってしまう。


 足が動かない。

 声も出せない。

 ただ体を震わせるだけだ。


 だめだ。

 あれは、駄目だ。


 生物としての格が違う。


 たった十年とはいえ、俺は貴族の家で様々な武芸者や魔術師を見てきた。

 中には国でも有数の魔術師や強者と接し、時には指導してもらうこともあった。


 あの魔獣は、そんな魔術師たちすらも凌駕している。

 彼らでも、この魔獣には勝つことはできない。

 そう思わせるだけの威圧が、そう思わせるだけの狂暴性が、この魔獣から発せられている。


「に……」


 逃げましょう、という言葉すら出てこない。

 完全に恐怖で固まってしまっていた。


 そしてそんな風に委縮してしまっている俺と比較して。

 ローブの女性は違った。


「なんだ、こいつか」


 ちらりと横目でその姿を見た後、はあとため息をつく。


「全く。うちを離れるとすぐこれだ。……まあそういう森なんだけどね」


 彼女は腕を魔獣の方へとのばし、その手を魔獣へと向けた。


「君、安心していいよ。こいつ程度なら――」


 そのまま手の先に光でできた矢が形成される。



「すぐに殺せる」



 矢が飛んだ。


 激しい音はしない。

 しかしそれは速かった。


 飛んだ矢が目に移らないほどの速度だ。

 さっきまで手の先にあった光の矢が、一瞬でなくなり、気づくと魔獣が死んでいた。


 恐らく、目に止まらないほどの速さで敵へと迫り、そのまま獅子の魔獣を貫いたのだ。


『ぐ、ぐがぁ……』


 矢は顔だけでなく、体まで貫通していた。

 こちらからは見えないが、おそらく彼女の方から見れば魔獣の体には綺麗に穴が開いていることだろう。


 貫かれた魔獣は倒れる。

 先ほどまで凶悪な威圧を発していたはずの魔獣は、小さな声をあげてあっさりと死んだ。


「さあ、行くよ。あの程度ならここにはたくさんいる。いちいち相手するのも面倒だからね」


 魔獣に目をくれることもなく、彼女は歩き出した。


 その姿を、俺はただ茫然と見つめていた。


「……うん?」


 彼女はそのままスタスタ歩いていたが、途中で俺がついてきていないことを悟ると、振り返った。


「えっと……」


「おーい。そんなところにいたら置いていくよ。一人になったらいつ魔獣の餌になるかわからないけど、いいの?」

「す、すぐ行きます!」


 魔獣の餌になるという脅しに負けて、俺はローブの人の元へと走って行った。



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