18話 ノアさんと再会
ひと悶着の後、ようやくギルドを出ることができた。
さて、この後の予定だけど。
少しばかりお金ができたことだし、街をぶらつくことにしよう。
俺はこの街に昨日来たばかりだから、どこに何があるのか未だわからない状況だ。
それに、市場の値段をしらなきゃいけないし。
この五年間、まともに金など使っていなかったせいで、市場での物の価値基準がわからなくなっている。
家を追いだされる前も基本的に屋敷の中ですごしていたから、ただでさえまともな金銭感覚がないというのに。
これから街で買い物をしていくためにも、慣れなければいけない。
まずは街の中心に行きそこから街を探索してみるかと考え、歩き始める。
「お、カリム君!」
すると横から声をかけけられる。
振り向けば、そこにいたのは昨日街で分かれたノアさんだった。
「昨日ぶりだな、カリム君」
「ノアさんも。ご無沙汰しております」
「はは、ご無沙汰だなんてよしてくれ。私には堅苦しくしないでもいいよ」
ノアさんは苦笑する。
「それより、昨日はギルドに行って冒険者になると言っていたが、どうだった?」
「はい。おかげさまで冒険者になることができました」
そして俺は報酬の入った袋を取り出して見せる。
「それに、既に一つ依頼をこなしてきたところです」
「昨日の今日でもう依頼を達成するとは。さすがカリム君だな」
まあ依頼とは言っても、ゴブリン退治の依頼だけど。
それで、とノアさんは続ける。
「今日はまだ時間がある。また別の依頼に行くのか?」
「いえ、今日はこれくらいでやめにして、あとは街をぶらつく予定です」
「そうか。なら都合がいいな」
「都合?」
「ああ。空いているなら、私と一緒にお嬢様のところに来てくれないか? 昨日からずっと会いたがっていてな」
ノアさんが提案したのは、ユイハさんのところへのお誘いだ。
「いいですよ」
断る理由はない。
街の散策はいつでもできるからな。
後回しにしてもかまわない。
俺はノアさんについて行き、ユイハさんと会うことにした。
そして彼女について行った先あったのは、街の中心にある大きなお屋敷だった。
というか、これ貴族の屋敷だ。
「あの、ノアさん。もしかしてここって――」
「ん? ここはこの地方の領主殿の屋敷だよ」
領主。
ノアさんの言葉に絶句する。
ちょっとついてきてと言われてついていったら、領主の屋敷に案内されたんだが。
ああでも、ちょっと納得だ。
昨日話したところ、ユイハさんはやんごとない身分らしいと感じられたからな。
領主の関係者と言われれば納得だ。
さすがに領主ではないだろう。
なら、その娘さんとかかな?
「ユイハさんって、ここの領主の親族か何かですか?」
ノアさんに尋ねる。
「いや、親族ではないぞ。ただの知り合いだ」
おや、違ったようだ。
ただの知り合いか。
じゃあ何かしらの用事で領主のところに身を寄せているのか。
「お帰りなさいませ、ノア様。そちらの方は――」
「ああ、私の知り合いだから。通してやってくれ」
「はっ! かしこまりました!」
「すまないな。ご苦労」
ノアさんは門番の兵士と会話をして、俺を入れてくれた。
俺たちは門を通り抜けて、屋敷の本邸へと向かう。
すごいな。
顔パスだったぞ、今。
仮にも領主の屋敷なんだから、普通は取り調べなどあると思うんだが。
それすらなく普通に通り過ぎていった。
それにノアさんだけならともかく、その知り合いというだけの俺すら取り調べがないとは。
ここの警備が杜撰というわけでないのならば、ノアさんがそれほど信頼されているということか。
ひょっとすると、ノアさんが位の高い人物だったということかもしれない。
あるいはノアさんじゃなくて、ユイハさんがそうなのか。
「ユイハと会う前に、領主殿と会ってほしい」
屋敷に着く前に、ノアさんが言う。
「領主さんですか。いいですけど、どうしてですか?」
「実は昨日のことをお嬢様が領主殿に話したら、カリム君に興味を持ってしまってな。ぜひお礼がしたいそうだ」
「はあ」
ドアの付近には使用人が立っていた。
彼がドアを開けて、屋敷の中に入る。
中に入ると、すぐ前に執事服を着た男性が立っていた。
「お帰りなさいませ、ノア様。このお方がカリム様でいらっしゃいますか?」
「ああ。これから領主殿のところへ向かう」
「かしこまりました。私がご案内致します」
「そうしてくれ。私はお嬢様にカリム君が来たことを知らせに行くから」
「かしこまりました」
執事さんが一礼をする。
「カリム君」
ノアさんが告げる。
「そういうわけで、私はお嬢様を呼んでくる。君は領主殿のところへ行っていてくれ。すぐに私たちも向かうから」
「わかりました」
それじゃあ、と言い残してノアさんは向かって左の方へと進んでいった。
「それではカリム様。私についてきてください」
執事さんが先導して屋敷を進み、俺は彼について行く。
そして屋敷の奥へと向かい、たどり着いた先。
「こちらがご当主様のお部屋です」
領主さんの部屋の前に案内された。
「まず私が入るので、カリム様は私について義入室ください」
「わかりました」
俺が頷くと、執事さんがノックをする。
「ご当主様。カリム様をお連れしました」
執事さんが声をかけると、そのすぐ後に
「入ってくれ」
と返事が返って来た。
「失礼いたします」
執事さんがドアを開けて部屋に入る。
彼に続いて、俺も同じように部屋に入った。
「やあ! 君がカリム君か! 話はユイハ様から聞いているぞ! 命の恩人だそうじゃないか!」
大柄で筋骨隆々な領主さんが、大声で俺を歓迎してくれた。
次回は3/28(月)の21時です




