17話 絡まれる
「今のはなんだ? この卑怯もんがよお」
そして俺がギルドを出ようとしたところ、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのはジード。
昨日、俺の冒険者の実技試験を担当した男である。
試験の時は剣でジードを攻撃した後、彼が気絶してしまった。
試験官が気絶してしまったのでどうすることもできなくなり、それで解散となってしまった。
会うのはそれ以来だな。
そういえば。俺が合格になったということは、試験官の彼が合格を言い渡してくれたのだろうか。
いや、それにしては俺に対して敵対的だが。
俺を睨みながら立つ姿や先ほどの言葉からも、俺に悪感情を抱いていることがわかる。
ジードが自分の感情と合否とを分けて考えるタイプならば、別にそんなことも気にならないのだが。
だけどどう考えてもジードは混同するタイプだからなあ。
疑問が残る。
まあそれはいいか。
それで、今はいったいどんな用事なのだろう。
試験に合格したことを祝ってくれるような雰囲気ではないことだけは確かだ。
「さっきのやり取りは全部見てたぜ」
「やり取り?」
それはエメリーさんとのやり取りだろう。
「ああ。なんだ、さっきの魔獣はよ?」
「なんだ、って。たしかジャバウォックという魔獣だと聞いたが」
「そんなことを言ってんじゃねえよ!」
ジードがわめき散らす。
「あの魔獣が、お前の作った偽物だって言ってんだ!」
「偽物?」
彼の言葉を聞き返す。
偽物って。
つまりはあれがジャバウォックの偽物であると言いたいのか?
ジャバウォックではなく他の魔獣だと。
……確かにその可能性を否定することはできない。
俺はあの魔獣の名前すら知らなかったほどで、魔獣の名前やその希少性は全て鑑定士から伝えられた情報だ。
だから、鑑定士が間違っている場合には、偽物であるということが否定はできない。
だが、それを言いたいという雰囲気でもない。
あれがジャバウォックではないと言うなら、俺よりもむしろ鑑定士に対して言った方がいいからな。
「ああ。偽物だ」
ニヤニヤと笑いながら、ジードは続ける。
「そのお前が作った、ジャバなんたらいう魔獣の死体の偽物」
「はあ?」
何を言っているのか、と言い返す前に。
「みんな聞いてくれ! ここにいるカリムってやつは偽物の魔獣の死体を作り上げて、それで大金を得ようとしたクズ野郎だ!」
ジードはギルドにいた面々に対して大声でそう告げた。
「いや、何を言っているんだ」
意味が分からない。
あれが偽物の魔獣ではないことはきちんと確認されている。
ギルドの鑑定士が見たうえで言っているのだ。
別に疑う要素はないと思うのだが。
「なんだてめえ反抗する気か?」
「反抗ではないが、なんで俺が狩った魔獣が偽物だと思うんだ?」
「そんなの決まってるだろ。お前みたいな魔力がゼロの雑魚が、強力な魔獣を倒せるわけがねえからだ」
「魔力がゼロ?」
「どういうことだ?」
「そんなやついるのか?」
ジードの言葉に、周りがざわつく。
「しかもジャバウォックだと? 金貨500枚? そんな化け物みたいな魔獣を雑魚のお前が倒せるわけねえだろうが。おおかたどっかでジャバウォックのことを知って、それっぽいのを作り上げたんだろうよ」
「でもジード。お前はそこのカリムに倒されたって聞いたぞ」
さっき鑑定をしてくれた人、確か名前はブリックといったな。
彼がジードにそう指摘する。
「元Bランクのジードを?」
「すごいな」
「かなりの腕じゃないのか?」
ブリックの指摘に、さらに周りがざわめく。
しかし。
「ああ、それに関しても裏があるんだ」
ジードは周囲の冒険者たちに対して告げた。
「それも不正なんだよ。この野郎が俺を罠にはめたんだ。こいつの実力じゃねえ。同じように、今度は不正な手段で鑑定士も罠にはめようとしてやがる」
「あー、なんだ、証拠はあるのか?」
「はあ?」
「いや、俺があの魔獣を作り上げた証拠だよ。この際お前を罠にはめた云々はいいけど」
「そんなもんなくとも明らかだろうが! 冒険者になって一日のお前が、これまで一体しか発見されていないジャバウォックを見つけて、それを倒すだあ!? 見つけるだけでもありえねえってのに、魔力もない雑魚が倒しちまうなんてもはや意味が分からねえ!」
「しかもこの俺様を倒すだなんて、ありえねえんだよ! 俺がテメエなんざに負けるか!」
「死ねやこのクズ野郎!」
興奮したジードが、拳を握りしめて襲い掛かって来た。
しかし昨日と同じく、大したスピードじゃない。
「よっと」
パシッと掌で彼の拳を受け止めた。
そしてそのまま、少し握る。
すると――。
「痛ててててて!」
「すみません俺が嘘ついてました! ほんとは不正とかでっちあげなんですぅ!」
「すみません放してくださいごめんなさいいいいい!」
「ええ……?」
さっきまでの威勢はどこへやら。
俺に拳を握られただけでジードは痛がり、許しを請うている。
ちょっと涙も流していた。
あまりの醜態と態度の変化に、周りの者は絶句していた。
放してほしいといっているし、さすがに可哀そうになってきたから放してやる。
「クソ! 覚えてやがれ」
俺から手を放されるや、捨て台詞を吐いてそそくさとジードは出ていった。
「……なんだったんだ、いったい」
ちょっと意味が分からなかったな、さっきの奴の行動。
まあ、なにかしら俺にいちゃもんをつけたかったけど、失敗したとかその程度のことだろう。
気にすることはない。
俺はさっさと帰ることにして、今度こそギルドを出ていった。
次回は3/21(月)です




