14話 魔獣たち
周りにいる魔獣たち。
なかなか体が大きいし、そのぶん力もある。
何体かは漆黒の森にもいた奴だ。
魔獣でありながら特殊な魔術を使うやつもいる。
しかし倒すだけなら一瞬で済む。
「ゴアアアアアアア、アブッ!」
魔獣たちを軽く殴ればはじけ飛ぶからだ。
いま殴った奴も、顔どころか上半身がはじけ飛んでしまった。
ええと確か、ミノタウロスという魔獣だったな。
まあ大したことはない魔獣だ。
しかしこれではだめだ。
原型が残っていなければ、倒した証明にはならない。
弾き飛ばさないためには、ゴブリンを倒した時のように力を抜いて手加減をしてもいいの。
しかし俺はそれとは少し方法を変えてみることにした。
「ふっ」
俺は魔獣に拳を叩き入れる。
今度は衝撃で全身を弾き飛ばすことはせず、内側のみにダメージを与えるように殴った。
魔獣は悲鳴を上げながら絶命する。
死んだ魔獣の姿は綺麗なままだった。
外見では魔獣は傷一つついていないように見えるが、しかし中身はぐちゃぐちゃになっている。
この殴り方は、確か師匠は鎧通しと言っていた。
本来は鎧を貫通させて敵の生身の肉体に衝撃を与えるという武術の技らしい。
魔獣は鎧なんて着ていない。
だから今回の場合は、皮膚を貫通して中身の骨や内臓に衝撃を与える技になっているな。
鎧通しならぬ皮膚通しか。
俺が殴った衝撃が、皮膚を貫通して魔獣の肉体の中身を破壊する。
この方法によって外側を傷つけないで魔獣を倒すことができていた。
これならば、一応は原型を保ったまま殺せる。
俺は続々と出てくる魔獣たちを原型を保ったまま殺し続けた。
拳で殴る。
足で蹴る。
基本的にはその二つで事足りる。
ミノタウロス。
ガーゴイル。
ベヒーモス。
ケルベロス。
グリフォン。
アラクネ。
その他、名前のわからない異形たちも。
その全てを一撃の下、殺していく。
殺して。
壊して。
殺戮して。
破壊して。
「ふう。これで全員かな」
そしていくらか時間が経ったころ。
俺は全ての魔獣を殺しつくした。
いい運動になったな。
見渡せば、一面魔獣の死体だらけ。
少し倒しすぎたか。
最初にいた奴らだけじゃなく、途中から出てくるやつを片っ端から倒していったからなあ。
最初は20体ほどだったが、最終的にはその数倍ほどの魔獣を倒していた。
まあ、大したことではない。
漆黒の森ではいつものことだった。
さて、問題はこいつらをどうやって持って帰るか、だな。
うーん。
持って帰る、か。
重さ的には別に問題はないんだが。
問題なのは大きさだ。
魔獣の中には人間より少し大きい程度の大きさのものもいるが、人間の数十倍の大きさのものもいる。
一体か二体なら構わないだろうが、数十体を全部持って帰るのは不可能だ。
そもそも街の門でひっかかる。
それにギルド内にも入れることができないだろう。
バラバラに分解すれば持って帰れるだろうが、それでは意味がないからな。
素材として成り立たなくなる可能性がある。
これらの魔獣が、どの部分が素材になるのか俺は知らない。
しょうがない。
大きいのは放っておいて、小さいのものを何体かそのまま持って帰ることにしよう。
ギルドに帰ったあとで、こいつらを倒したことをギルドに報告すればいい。
そうすれば、後でギルドの人がこいつらを回収するだろう。
そう判断した俺は、何体かのそれほど大きくない魔獣を肩に担いで帰ることにした。
魔獣をもって、森から街へと帰って来てギルドに着いた。
「なんですか、これは……?」
ちょうど受付をしていたエメリーさんに魔獣の死体を見せてみると、目を丸くして驚いていた。
「え、さあ。良く知らないんですよね。とりあえずいたから倒したんですけど」
「は、はあ」
持ってきた魔獣は、残念ながら俺の知らない魔獣だった。
こんなやつは漆黒の森にもいなかったからな。
あの森は、別にこの世の全ての魔獣がいるというわけでもない。
あそこでみたことのない魔獣がいてもおかしくはない。
それでも問題はない。
きっとギルドに行けば誰か知っているだろうと思って持って帰って来た。
「ええと……」
エメリーさんが困惑で声を震わせながらも言う。
「そもそも、カリムさんの依頼って、ゴブリン退治じゃありませんでしたっけ?」
「あ、ゴブリンの素材もありますよ」
俺はゴブリンの耳を袋から取り出して見せる。
「は、はい。とりあえず、ゴブリン退治の依頼の達成を確認します」
エメリーさんはそれをトレイの上に乗せ、それを奥に持っていき、他の職員に渡した。
あの人が素材の鑑定をするのだろう。
エメリーさんが渡した素材をそのまま後ろに持っていき、そしてすぐに手でオッケーのサインをしていた。
「確認できました」
エメリーさんが受付に戻ってきて、報酬を机におく。
「ありがとうございます」
俺はそれを受けとり、袋の中に入れる。
もちろん。ゴブリンの素材が入っていたのとは別の袋だ。
「それで、次はこれなんですけど」
「あ、はい。そうですよね……」
エメリーさんは眉を引くつかせながら、俺の持ってきた魔獣を見る。
「どうした?」
俺たちの様子に不信感を抱いたのか、他の職員が来る。
「あの、これ、カリムさんが狩ってきた魔獣なんですが。わかります?」
他の職員がエメリーさんの指さす。
その方向にあった魔獣を見て、一瞬ぎょっとして固まる。
「なんだこれ」
そう小さくつぶやくのが聞こえた。
「わかりますか?」
「いや、わからん。こんなやつは見たことない。ベテランの職員か冒険者を呼んでみてもらわなきゃわかんないだろう」
そして、彼は後ろの部屋に引っ込んでいった。
ストックが切れたので週一投稿にします
次回投稿は28日(月)の21時です




