13話 ゴブリン退治
俺が受けた依頼はゴブリン退治。
それは街の近くの森の中にいるゴブリンを五体退治する依頼だ。
冒険者の報酬は二つ。
依頼報酬と素材報酬だ。
依頼報酬とは、ギルドの依頼を達成したときにもらえる報酬。
今回で言えば、ゴブリンを五体退治した時にもらうことができる報酬だな。
素材報酬とは、魔獣の素材から得られる報酬だ。
倒した魔獣の体の一部は素材としてギルドに収めることで金がもらえる。
倒すゴブリンの数は五体。
別に六体以上倒してもいいけど、五体を超えてしまえば何体倒しても依頼報酬は増えるわけではない。
依頼に書かれている退治するゴブリンの数は五体だ。
それ以上のゴブリンをどれだけ倒しても、依頼報酬は固定のままだ。
しかし素材報酬は倒した分だけもらうことはできる。
六体倒せば六体分の報酬が。
十体倒せば十体分の報酬がもらえる。
倒した分だけ儲けることが可能だ。
ただしゴブリンの素材報酬は高くない。
五体どころか十体分の素材報酬を受け取ったとしても、基本報酬の半分ももらえない。
ゴブリンだけでは、労力に見合っただけの額はもらえないのだ。
もっと金を稼ぎたいなら、他の魔獣を倒せばいい。
報酬は安い。しかしその分、弱いから倒しやすい。
要は初心者向けの魔獣ということだな。
俺は冒険者として初心者だから、ゴブリン討伐の依頼を請け負ったことは間違いではないだろう。
街の近くの森にやってくると、ゴブリンを探す。
やたらめったら歩き回って探し回ってもいいが、それではきりがない。
俺は耳を澄ませてゴブリンの居場所を探す。
耳がいいから、魔獣が立てる音がわかるのだ。
ゴブリン以外の魔獣の音も拾ってしまうが、しかしそれは無視してゴブリンを探す。
ゴブリンは二足歩行で体が小さい。
しかも群れている。
彼らのたてる音には独特な特徴があるのだ。
他の魔獣は、体が大きかったり、四足・六足だったりするからな。
もしくは群れずに個体で生息しているか。
そのため二足歩行・小さい・群れているという三つの特徴を持つ音を探していけばいい。
こういった方法で獲物を探すのはよくやってきた。
慣れたものだ。
少しのあいだ周囲の音を拾って探したところ――。
「見つけた」
いくつか大きい体格の魔獣が近くにいるが、その付近にはゴブリンの音。
さすがに正確な数はわからないが、何体か群れでいることがわかる。
五体以上はいるだろう。
そう期待して俺はゴブリンたちのいる方向へと向かった。
少し走り、ゴブリンたちがいるところにたどり着く。
奴らはかなりの数がいた。
五体どころか二十体以上はいる。
あとはあのゴブリンたちを殺して、依頼達成の証拠として素材を持ち帰ればそれで済む。
俺は一体のゴブリンに素早く近づき、拳で顔を殴る。
すると。
グシャ、という音がしてゴブリンの体がバラバラにちぎれ飛んだ。
あ、しまった。
力加減を間違えてしまったか。
これじゃあ素材どころのさわぎじゃない。
もっと弱く、素材が残る程度に倒さなければ。
こちらを警戒して睨むゴブリンに近づき、殴り飛ばす。
今度はバラバラにちぎれ飛ぶことはなく、原型を保ったまま吹き飛んで木に当たった。
「よし。これくらいか」
次のゴブリンをどんどん倒していく。
五体まで倒したところで倒すのを止めた。
依頼達成だ。
他のゴブリンたちは最初は戦おうと意気込んでいた。
手に持った小さいこん棒でこちらに向かって来た。
しかし仲間が瞬殺されていくにつれ、自分たちでは勝てないことを悟って逃げていった。
仲間がやられていてもすぐに実力を悟って逃げることを選択するとはな。
その姿勢は薄情かもしれないが、しかし案外生き残るのはああいう判断の早いタイプなのだろう。
逃げる者は放っておいた。
ゴブリンの素材は五体分あれば十分なのだから。
俺はゴブリンの死体から素材を取る。
素材はゴブリンの耳だ。
一体につき耳は二つあるから、五体分で合計十個の耳を取る。
抜いた耳を袋に入れて、帰ろうとしたとき。
そのときだった。
悲鳴が聞こえた。
人の悲鳴ではない。
ゴブリンの悲鳴だ。
これは悲鳴というよりも、鳴き声といった方がいいのか?
複数のゴブリンの甲高い声が聞こえてきた。
恐らく先ほど見逃したゴブリンたちだろう。
そのすぐ後に、ゴブリンではない魔獣の大きな鳴き声が聞こえてくる。
ゴブリンが食べられたのだろう。
彼らが去ってからそんなに時間は経っていない。
近いな。
想像通り、件の魔物はかなり近くにいた。
なぜわかったのかというと、魔物が俺の元へとやって来たからだ。
巨体を揺らして来る。
先ほど食べたであろうゴブリンを咀嚼しながら近づいてくる。口元はゴブリンの血で汚れていた。
そしてそれは一体じゃない。
そこかしこに気配を感じる。
色々な魔物がいるな。
ぞろぞろとでてくる巨大な魔物たち。
見れば、漆黒の森で見たことがあるのもちらほらいるな。
もちろん見たことがないものもいる。
どれもこれもゴブリンとは比べ物にならない強さをもった奴らだ。
これは依頼にはいなかった魔獣たちだ。
だから別に俺が退治する必要もないんだが。
「せっかくだから倒していくか」
こいつらを倒しても依頼報酬にはならない。
だがしかし、こいつらの素材を持って帰れば素材報酬には加算されるはずだ。
ならば、倒す価値はある。
数は二十ほど。
俺は奴らを殲滅するために、駆けだした。




