12話 依頼
剣でジードを攻撃すると、彼は壁まで吹っ飛び動かなくなった。
ちなみに、彼の剣は壁にぶつかった際に折れてしまっていた。
意図せず壊してしまった形となる。
そういえば、彼の物を壊した際の責任についてははっきりさせていなかったな。
どうなるんだろう。
弁償は、やだなあ。
「というか、ジードは大丈夫か?」
さっきから起き上がる気配もない。
寝たまんまだ。
たぶん気絶しているのだろう。
「私が見てきます」
エメリーさんがジードの元まで行き、彼を起こしに行く。
「ダメです。完全に気絶してます。息はあるので命に別状はないようですが」
やっぱり気絶していた。
一瞬で終わってしまったな。
冒険者の魔術を見ようと思ったのになあ……。
なんだか釈然としない。
「あー。そうなんですか。えっと、これ、どうなるんですか?」
試験官が気絶してしまった。
この後どうするんだろう?
「え、えーと、他の職員に相談してきますので、ギルド内に戻っていてください」
「あ、はい」
そして、あっけない形でジードが気絶し、釈然としない気持ちのままで俺の冒険者試験は終わった。
ギルドで試験を受けた後、試験官のジードが気絶してしまったので、合格結果の発表が行えなくなってしまった。
ジードが目覚めるのを待っているが、一向に起きない。
ギルド長も今はいないから、他に判断を行える人もいないらしい。
ジードがいつ起きるのかもわからないし、ギルド長が帰ってくるのは明日。
今日はもう結果判断ができないのだとか。
「すみません。結果は明日お伝えします」
エメリーさんにそう言われて、俺は結果を明日まで待つことにした。
その日、俺はエメリーさんに教えてもらった宿に泊まった。
ちなみに金はない。
漆黒の森の中で金など使うはずもなく、この五年間触れてすらいなかった。
そのため俺は金をもっていなかった。
だから、泊まるための対価として宿の手伝いの作業を行った。
力仕事だったから、体力も筋力もある俺にはちょうどいい。
スムーズに力仕事を行ったため、宿屋のおじさんからは「向いてるな、兄ちゃん」と誉め言葉すら貰ったほどだ。
そして数時間作業を行って、その日は宿屋の余っていた一室で眠った。
その翌朝。
目が覚めた俺は宿屋の受付に行く。
「おう、兄ちゃん! 昨日はありがとよ。助かったぜ!」
俺を見つけた宿屋のおじさんに、そう話しかけられた。
「こちらこそ。泊めていただいてありがとうございました」
「いいってことよ! むしろこっちが助かったくらいだぜ。兄ちゃん力持ちなんだな」
「ええ、そこは少し自信あるんですよ」
「ハハッ、若いのに頼もしいことだ。それで、今日はどうするんだ? また泊まるのか?」
「お願いします」
「わかった。今日使った部屋は残しておくからな、また使いな」
「あ、じゃあ後で手伝いを――」
「いやいい。昨日手伝ってもらった分で、今日の宿代もチャラにしてやるよ。で、兄ちゃんはこれからギルドに行くのか?」
「はい。俺はこれから冒険者ギルドに行って試験の結果を確かめに行きます。
おじさんには俺の事情を説明してある。
冒険者ギルドの試験結果を待っている状態だということを。
「おう。試験に落ちていくとこなかったら声かけてくれ! うちで雇ってやるよ!」
「はは。ありがとうございます」
軽口を言い合いながら、俺は宿屋を出た。
冒険者ギルドに行って、エメリーさんのところに行く。
「おめでとうございます。カリムさんは試験に合格です」
そうエメリーさんから結果を告げられた。
「そして、カリムさんの冒険者ランクなのですが」
遠慮がちにエメリーさんが言ってくる。
「Eランクです」
Eランクか。
確かそれは一番低いランクだったな。
「申し訳ございません」
「なんでエメリーさんが謝るんですか?」
「いえ、私の力が及ばず、カリムさんに不当なランクとなってしまいまして……」
「えーと、どういうことですか?」
「カリムさんは元Bランクのジードさんを一撃で倒したんです。本当ならAランク、最低でもBランクをつけられるべきなのに、このような低いランクになってしまって」
ああ、そういうことか。
どうやらEランクという結果に対して、エメリーさんは思うところがあるらしい。
「別に問題はないですよ。試験には受かったわけですし」
エメリーさんは思うところがあるかもしれないが、俺はこの結果に対して別に異論はない。
別にEランクでもいいのだ。
そもそも俺のような魔力のない人間が、試験に合格できただけでもよかった方だ。
今は冒険者になれたことに満足している。
それに、最初から高ランクを目指すつもりはない。
今はランクが低くても、このあとがんばって高ランクを目指せばいいのだ。
高ランクの冒険者になるためにギルドに登録したわけじゃない。
しかしせっかくだから、しばらくはランクを上げることを目標にしてみよう。
依頼を達成して、ランクを上げる。
そうしていけば、自然と強力な魔獣と戦う機会も増え、俺自身も鍛えられるはずだ。
そうして俺は新たな目標を設定したところで、依頼を受けようと思う。
「Eランクの俺が受けられる依頼ってどれですか?」
エメリーさんに尋ねる。
「はい。こちらとこちらと……」
エメリーさんが示してくれた依頼はいくつかある。
ゴブリン退治、コボルド退治、商人の護衛の同行、街の清掃や荷物持ちの手伝いなど。
魔獣の討伐の仕事は、ゴブリンやコボルドなどの低級の弱いものたちばかりだ。
Eランクは最低ランクなのだから、しょうがないともいえる。
商人の護衛は、これは恐らく数合わせだろう。
人が多ければ魔獣も盗賊もおいそれとは襲ってこない。
それを期待してのEランク冒険者への依頼だ。
もちろんそれでも襲ってくる魔獣や盗賊はいるだろうから、とうぜん戦うこともある。
街の清掃や荷物持ちは、人手が足りない公共事業の手伝いだ。
報酬は低いが、危険もなく安全に稼げる。
こういった手伝いを中心に行っている冒険者もいるらしい。
俺が受けるとしたら、ゴブリン退治かな。
魔獣の討伐は漆黒の森にいた時に何度もやっていたから慣れている。
ゴブリンやコボルド程度なら、簡単に倒せるだろう。
護衛はやってもいいが、こういったものは街から街まで護衛するという関係上、長期で拘束される依頼だ。
日時を詳しくは決めていないが、ユイハさんたちと今度また会うという約束はしているから、この依頼はやめておこう。
公共事業の手伝い。
これに関しては、別に今やる必要はない。
最初から手伝いをするために冒険者をやり始めたわけでもない。やらなくてもいいだろう。
いつか怪我でもして、戦えなくなってからやる類の依頼だ。
実際、そういった人たちがよく受けているものだという。
この依頼の中だと、やはりゴブリン退治がちょうどいい。
冒険者の仕事がどういったものなのかを知るためにも、ちょうどいい依頼だろう。
俺は、ゴブリン退治の依頼を受けることにした。




