Act0 プロローグ
いつも通りの退屈な勤務時間、変わる事のないルーチンワーク。
「横浜港湾署」の名物コンビ、坂下捜査一係長と神岡刑事は、あても無くみなとみらい地区をパトカーで流していた。
「いいんですか?勤務時間にこんな事してて。しかも勝手に警ら課のパトカー持ち出しちゃって…」
「いいじゃないか、少しくらい。サボってる訳でも無し。こうして街の平和を守るために働くのも、我々の勤めじゃ無いか」
どう見ても趣味としか思えないいつも通りの行動、二回り近い年の差、もうそろそろ50に手が届くという年にもかかわらず、まるでらしく無い行動。
やれやれ、と肩をすくめ少しでも仕事をするか、と思い直した神岡刑事の横をもうスピードで走り抜けていく一台の黒いスポーツカー。
「お、パトカーを追い抜きスピード違反とは、いい度胸してるね」
ステアリングを握り楽しげに笑う坂下。その隣でため息をつく神岡。
「また、いつもの癖が始まった…」
「はい、前の車。左に寄せて止まりなさい」
一応形式通りに声をかける坂下。だが、彼を支配する感情はただひとつ。
「…絶対に止まるなよ」
坂下の思いを知ってか知らずか、止まる気配のない車。それどころか、さらにスピードを上げてパトカーを振り切ろうとする。
「オラァッ、止まれって言ってるんだこの野郎!」
アクセルを踏み込み、暴走者の進路を遮るように割り込もうとする坂下。その目は心なしか輝いて見える。
ステアリングを切り込んだその瞬間、足回りに感じる違和感。そして回転する景色。
車は横転。そのまま道路をしばらく滑り、横浜美術館裏手あたりで停止する。
人通りの少ない通りが幸いし、彼ら以外の被害はない。
黒いスポーツカーは、そのままパシフィコ方面に消えていった。
暫くして、車の下から這い出してくるボロボロになった二人組。
「あぁ、市民の血税が…」
やれやれと言った感じの坂下と、「なんでいつもこうなるの?」と諦め顔の神岡。
港湾署の「迷物コンビ」は今日も健在。
どうやら、今日は課長自ら始末書を書かなければならないようだ。