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見守る苦しさ

 翌日。昨日のように俺たちは駅に集まり、アップをしている。しかし場の空気がいつもより重く、昨日まであった活発さが見事になくなっている。もちろん。俺も例外ではない。

 昨日はメンバー全員がいい結果にならず、一番良くて近藤のベスト6だった。みんな、確実にレベルアップした己自身を信じ臨んだものの、あっさりと負けてしまったことを根に持っているのだろう。

 それはやはり俺も同じ。大会が終わり良くない雰囲気で解散した後、俺はそのまま帰ってから一人でずっと力不足を嘆いた。それを今も引きずっている。

 一年二人はたまにこちらの様子を伺ってくるあたり、心配しているようだ。二人はいつもと変わらない結果のため、そこまで落ち込んでいるわけではないのだろう。

 後輩に心配されているという情けなさを感じながらアップを続けていると、宮本先生がこちらにやってきた。

 「みんな、おはよう」

 「「……おはようございます」」

 いつも通りの挨拶。それに違和感をもったのか、先生が心配そうに声をかける。

 「……どうしたのみんな?元気がなさそうだけど」

 「あー先生。ほら、先輩たちの昨日結果が……」

 「そっか、なるほど」

 宮崎が事情を説明すると宮本先生は納得のいった表情になり、そして俺たちのほうに近づいてきた。

 「みんなー!集合してー!」

 「「はい」」

 アップを止め、俺たちは先生の周りに集まった。

 「みんな、今日は団体戦だね!昨日はうまくいかなかったかもしれないけど、いったんリセットして楽しもう!」

 「……あの」

 励ましの言葉をかける宮本先生。そこに清水が入る。

 「今のこの空気、分かりませんか?楽しみましょうなんて言われて楽しめる空気じゃないんですよ。みんな必死に練習して、その時のために頑張ってきたのにそれが一切通用せずにあっさりと負けた、それを後悔せずに切り替えできるはずがな――――――」

 「清水君」

 激情に駆られ、大声で声を上げる清水を宮本先生は冷静に鎮める。

 「……私だって何も感じていないわけじゃないよ」

 今日の宮本先生はいつもと違う。俺は集合してからの先生の言動に違和感を持ってから、ずっとそう感じた。

 先生はいつも、ミーティングなどの真面目にする時間の時は必ず丁寧語を用いて喋っている。しかし、今日はそれをしていない。ということは本当に何も感じていないということだ。

 清水は俺と同じことを感じたのか、驚いたような顔をした。普段のあいつは冷静で周りのことをよく見ていた。いつもならすぐにおかしいと思って、何かあると確信している。しかし、昨日の悔しい結果によって思わず感情的になってしまったのだろう。気づくのが遅くなっていたのだ。

 そして、先生の話は続く。

 「みんなが今まで必死に努力を重ねて、勝つんだっていう気持ちは普段の練習を見てて凄く伝わってくる。そして、昨日は結果は残念だったかもしれない。もちろん悔しいと思う。私だって、今までみんなの中で一番見守ってきて、積み重ねてきたものが報われなかったのを見て悔しいよ」

 先生の表情が今まで見たことのないくらい悲しそうにしていた。

 「けどね」

 だがその中でも必死に笑顔を作り、俺たちに語りかけた。

 「最後はみんなが、楽しかったって、そう感じてくれたらいいんだ。勝っても負けてもいいから、楽しかったって。思ってくれれば……!」

 いつの間にか先生の目には涙が浮かび上がっていた。

 「もう……嫌な思いをして、部活を去って行って欲しく、ないから」

 次第に先生の表情は崩れ泣いてしまった。清水は驚きながらどうすればいいかパニックになっている。

 ………今までおそらく、大会に負け苦しい思いをしながら去っていく部員たちを見てきたのだろう。いままでの部活動が楽しいと思ってもらえない。そのことに悩まされてきたのだろう。これはあくまで推測。だがもしかしたら、だからこその涙なのかもしれない。

 「せ、先生」

 清水が、宮本先生の前に出る。そして――――――深く、頭を下げた。

 「その、八つ当たりみたいなことして、すみませんでした。自分には、配慮が足りていませんでした。責めるべきは自分だけなのにもかかわらず………ほんとうに、すみませんでした」

 清水が謝罪をする。すると先生は次第に落ち着き、顔を上げた。

 「ううん。私こそ私情を押し付けちゃってごめんね。ほら、お互い様だから。これでおしまいにしよう?いつまでも引きずっちゃったら試合に集中できないでしょう?」

 「………はい」

 清水はホッとしたのか先生の言葉に微笑みながら答えた。これで一件落着かな。

 「ふぅ……ごめんねみんな。付き合わせちゃって」

 「いや、先生の貴重な一面が見れたので全然いいです」

 「原君……?来週覚悟しといてね?」

 「先生相変わらずその笑顔怖いです……」

 「原、さすがにそれはない」

 緊張をほぐそうとしたものの、先生を怒らせ、近藤に呆れられた。駄目だったか………。

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