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TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!  作者: 前花篩上
欲獣への目醒め
9/50

track9 夢魔の日常、迫る苦難

「あの…これから私はどうなるんでしょうか」

「っん~そうですねぇ…ざっくり言うと、別の世界に転生してもっかい人生スタート!!って感じのやつです!」

「は…はぁ…」



何なのこの人…。凄い美人なのに恐ろしい程テンションが高く尚且つ軽い。羽毛より軽い。

死後の世界があるだけでも驚きなのに、こんなノリだけで生きてるような人が突然出てきた事にも驚きだ。



「えっと…お名前は確か…」

「あ、粟野あわのしとね…です」

「はいはいははい褥さんですね!!年齢はっと……お!18歳ですかぁへぇ~」



彼女は何故か私の年齢に対して妙なリアクションをとる。



「あ、あの…それが何か?」

「いやぁ別に大した事じゃないんですけどね!つい最近も、あなたと同じ18歳の女…いや男性をご案内したもので」

「…18歳の死者って…他にも数えきれないほどいると思うんですが…」



悲しい事だけど、世界では毎日大勢の人間が亡くなっている。この人だって私と同い年の人を何人も相手にしてきたはずだ。



「まー確かにそうなんですが。…いやでもその人すっっっごい変な人だったんですよ!!」

「あなた以上にですか!?」

「タッチの差で私の負けです。…なぁんか妙に”漢らしくー”とか”女っぽいのやだー”とかネチネチ言ってて…」

「へ、へぇ……」



彼女は口を尖らせつつ、その死者の陰口を盛大に撒き散らす。

益々死後の案内人とは思えない振る舞いだった。


漢らしく……か。

いや、偶然だ。変なことは考えないほうがいい。




「今頃どうしてるんでしょうねぇ……ナオっち」

「ナ、ナオっち?…その人のあだ名ですか?」

「いいえ?私が勝手に呼んでるだけです。あ!ちなみに本人には無許可で使用しております!!」

「は、ははは……」



…この人俗に言う”ヤベェ奴”って人種なのかな…。段々眩暈がしてきた。

他の死者の悪口だけじゃなく、勝手に適当なあだ名つけるなんて…。

そのナオっちさんとやらもつくづく不憫だ。…せめてどうか、来世ではお幸せに…




…ナオっち…?


ナオっち…ナオ……っち……




…奈生……



「あ、あの!!!すすすすみません!!!」

「うおわぁっ!!びっくりしたぁ……ど、どうしました?突然…」



反射的に、私は彼女の肩を掴んでいた。



「そ…その18歳の人のフルネームって……」

「い、いやぁ…それはちょっと個人情報なので」

「今更個人情報持ち出せるの凄いですね!!?散々ベラベラしゃべっておいて!!…な、名前だけでいいのでお願いします!!」

「え~~~?」



肩を掴んだまま揺すり、必死で懇願する。

眼を閉じて数秒間悩んだ彼女は、しょうがないといった顔で……渋々その名を告げた。



「奈生さんって方です。………稲神奈生さん」

「……」



それは、忘れる筈もない名前だった。



「あっれ……どうしました?ぽんぽん痛いんですか?」

「……て下さい」

「あい?」

「その人と…”稲神君”と同じ世界に………転生させて下さい」





◆◇◆






「ん………朝かぁ……ねっむ」



相変わらず寝心地の良すぎるベッドにて、俺ことシーラは起床した。

テレビとかでよく見る天井付きのお姫様ベッド、それの完全上位互換のような寝床をきっちり7時間ほど堪能した俺は、覚醒に抗う事なく素直にシーツから身を出し起き上がる。



「ふあぁ~~あ」



パジャマ代わりの白いドレスの上から腹を掻き、ソフトボール一個分開けた口からあくびをブチかますサキュバス。

向かったのはベッドの足元から奥に進んだ位置にある等身大の鏡。

豪邸故に自室も広く、鏡に向かうのにも微小なカロリーを消費する。


…どうやら転生後の俺はかなりのクセっ毛らしく、紫の髪の頭頂部を見ると…エベレスト並みのアホ毛が屹立していた。



「これが厄介なんだよなぁ~~~…」




愚痴交じりにむにゃむにゃいいながら隣の棚の上に置かれた櫛を手に取り、髪を梳かしていく。

腰のあたりまで伸ばした事など転生前は無論無かったので、この作業にはかなり手を焼いている。

前に一度『短髪にしたい!!』と駄々っ子をキメたが、ヴィエラにマッハで却下を食らった。


あのロリ時代から更に8年の歳月を経たが…このクセっ毛と三白眼故の若干鋭い目つきのせいで、俺の容姿からはあまりサキュバスらしい妖艶さを感じない。まぁ美少女だとは思うが(厚顔無恥)。




…だがそんなことはどうでもいい。問題は……




「全っ然……デカくならない…」




明瞭になりつつある視界に、鏡へ投影された自分の胸部が飛び込む。

…絶壁だ。小太りの少年よりも絶壁だ。絶壁過ぎて陰影すら出てない。

太陽光の胸部占拠率100%である。


い、いや!!?べべ別に育ってほしい訳じゃねぇし。こちとらTSなんて望んでなかったわけだし。女らしく育たないことに越したことないし。


………でもさぁ!!俺もう16だぞ?母親はあんなにデカいんだぞ!?



「はぁ……挙句の果てには貧乳サキュバスかよ…」



アニメ等で胸が小さい事をいじられるキャラ達の気持ちが、異世界転生して初めて…少し理解できたような朝だった。



「おはようございます、シーラ様」



櫛を元の場所に置くと、後ろにはハンスが立っていた。



「お前…一応女の部屋だぞ?なんで無音で侵入してんだよ」

「おや、今日は飛び上がりながらビックリしないんですね」

「ビビってるよ。あまりにもビビり過ぎてリアクションが追いついてないだけだよ」



『ちぇっ』と言わんばかりの顔をする外道執事は、いきなり俺の体をジロジロと見始めた。



「……な、なんだよ?」

「8年前、レヴィリアに初めて餌を探しに行った時の事、覚えてらっしゃいますか?」

「どうした急に……もちろん覚えてるけど」

「フフ、あの時と……全然お変わりないですね」

「え?ま、まぁな!当時と変わらない美しい素肌のまま…」

「いいえ胸が」

「殺す!!!!!!早朝だろうと殺す!!!!!!!!」



こんな気持ちだったんだな……ごめんな、貧乳キャラ達。

俺はお前たちの味方だ。





「二人ともおはよう!」



食堂へ行くと、これまた貴族が使うような恐ろしく縦に長い木製テーブルの一番左手前に…ヴィエラの姿があった。

右手にフォーク、左手にナイフを持ち明らかに食べる気満々の臨戦態勢だ。


…艶やかな雰囲気に似合わず時に子供の様な素振りが垣間見える。



「ヴィエラ様、おはようございます」

「うーっす、はよざーす」



眼を擦りながら適当に挨拶すると、突然ヴィエラは音速が如き速さを以って左手のナイフを俺の喉元に突き立て、恐ろしく不気味な笑顔を浮かべて呪詛の様な声を発した。



「シーラちゃぁん?言葉遣いが悪いわよぉ……?」

「ヒッ………ヒィイイィイイッッ!!!!!お、おおおおおはようございます!!!お、お母様ああぁぁあ!!!」



ハンスの寝起きドッキリの80倍はビビり、流石に飛び上がりながら悲鳴を上げる。

訂正後の挨拶を聞いた彼女は満足そうに無垢な笑顔を浮かべ、ナイフ離して着席した。



「はぁい!良くできました!……でも出来ればそんな固い言い方じゃなくて”ママ”って呼んでほしいんだけどなぁ…シーラったらずーっと”お母様”のままなんですもの……」

「ぜ……善処します……」

「うふふ…じゃあ二人とも席について、頂きましょう!」



稲神奈生としての前世が影響してるせいで、俺の口調は一向に思春期男子の荒さを保っていた。

…しかしよっぽど上品な生活を送ってきたのであろうヴィエラはそれを許さず、随所でこういう脅迫まがいの矯正を実行するのだ。


基本的には聖母の様な人格者なのだが……やはり夢魔の長としての恐ろしさの片鱗が、時折露になる。



「「頂きます」」


「いたらきまーす」



二人に続き目を閉じて合掌をし、食材になった生命への感謝と共に回らない呂律でそう言った俺は、慣れた手つきでナイフとフォークを手に取り食事を始めた。



並ぶのはこれまた朝食とは思えない豪華絢爛且つ沢山の料理。

顔と同じような大きさのステーキや様々な種の魚介類…。スイーツ類もこれでもかと言う程揃っている。


…まぁ、大体これを平らげるのはハンスとヴィエラなのだが。




「んぐ…もぐ……シーラ様、しっかり食べないと駄目ですよ。この食事はあくまで”前菜”……本来ならこれとは別に…もぐ……精力も摂取しなければいけないのですから……んぐっ」

「呑み込んでから喋りなさいハンス!…んぐっ……もぐ……彼の言う通りよ?シーラ…んぐ……あなた、まだ直接精力を頂いてないじゃない……んぐっ」

「呑み込んでから喋れよ二人共!!!大体前菜なのに喰い過ぎなんだよ!!!」







―――――『成人の儀まで、待っててください』



あの日以降、アイラさんやハンスに指導を仰ぎ…体術や魔術の基礎の会得、強化に打ち込んできた。

無論、色欲の欲獣としての能力も。

だが…その能力の中で一つだけ、殆ど強化されていないものがある。


”精力を奪い取る”力。…未だにヴィエラから間接的な補給を行っている俺は、暴走した欲獣を元に戻す為に最も重要な能力を……まだ扱えていないのだ。


…あんだけ啖呵きっておいて情けない話だ。





「んぐ………ごっ………くん……それで、シーラ様に我々からの提案がございます」





突然、ハンスが嚥下の終了と共に口を開いた。

それに続きヴィエラも…。




「そう!昨日ハンスと話し合っていてね?”これしかない”って思ったのよ!」

「は、はぁ……え、何がですか?」

「未だ真の食事を躊躇っているシーラ様のための、特別修行です!!」

「修行?……いや、修行ならいつもお前やアイラさんに頼んで……」

「違います!!!これは…この修行は…………はいヴィエラ様、打ち合わせ通りに」



二人は目を合わせ、ミュージカルの様に手を繋ぎながら…同時に顔をこちらに向けて言い放った。



「「サキュバス式の!!”催淫”修行!!!!!」」




8年前の欲獣初遭遇事件を飛び越え、俺史上最大のピンチがやってきたのだった。





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