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TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!  作者: 前花篩上
成人の儀
37/50

track37 アルトココン

「「…………申し訳ありませんでした」」




俺とミルダは声を揃え一行に謝罪する。

あの後二人によって無事湖から引き揚げられた我々は意識及び正気を取り戻し、湖畔にて身を寄せ合っていた。


正直後半は俺が100%悪かったと頭部がめりこむほど反省している。


「いいのよ二人共、確かにどの修羅場よりも修羅を感じたけど………全員無事だし問題ないわ」


「…………私とトモリ様はほぼ記憶が無いですが……シーラ様なら一挙手一投足許せます。それにミルダ隊長も悪気があったわけでは無い訳ですし……」


「………同じくです。おねえさま万歳」




三人の仏が如き慈悲により許しを得た俺達は重ねて頭を垂れる。

……しかし、シーク隊長のみが一人神妙な面持ちで何かを思考していた。




「どうされました………?もしかして死罪ですか私………そうですよね……そこに慈悲は無いですよね……」


「ん?……あぁ!いやいやそうじゃないよシーラ君。……少し変だなと思ってね」


「変……ですか?」


「あぁ、先程までは全員パニック状態だったしに気にする余裕も無かったが……緊急停止が遅すぎると思って」


「そ、そういえば……確かにそうね」


「緊急停止?」



……恐らく、俺が正気でない時点で起こった話なのだろう。全く記憶にない。

反応したのはアイラさん一人だけだった。



「あぁ、大方フォッグが出す警告には燃料切れによるものと危険な運転によるものがある。……しかも後者はフォッグ自身がそれを是正し、一時的に安全な自動走行に切り替わるんだよ」



…………すげぇ便利じゃん。科学もこんだけ進んでんのかよ。



「より危険が伴う飛行式なら尚更だ。……でも、あれだけ縦横無尽に暴れたが最初から最後まで自動走行どころか燃料切れになるまで警告の一つも出なかった」


「…………とんでもない不良品だった……って事ですか?」


「有り得なくはないが考えにくいな。生産元はよく知っているが、そんな最重要機能が欠損した商品を出すような企業じゃない筈だし……それに前者の警告だけは出て停止もした点がやはり不可解だ」


「考え過ぎじゃないのか?……何かと理由を欲するのは悪い癖だぞ」


そうハンスに言われ”あぁ、そうかもな……”と生返事をした隊長は、取り敢えず思考を保留したらしく、悩まし気な表情を捨て去り我々を振り返った。



「団員は知ってると思うが、我々が落ちた地点はネヴロが管理する自然保護区域”アルトココン”の中央部。……距離的には出発地点からも到着地点からも離れてしまっている」


腕を組みながら、その名を知らない俺と智里を考慮した説明が為され始めた。



「完っっっ全に大遅刻じゃないですか……俺のせいで……」


「………でも確かここって」

「そうだ」



アイラさんの言葉に隊長は食い気味で言葉を重ねた。



「アルトココンは観光地の一つ。観光客輸送用フォッグの路線も多く出ている。本部直通のは流石に無いが……徒歩よりは何倍も良いだろう。どうかな?」



「……(観光スポットもあるんですね、おねえさま。芦〇湖的なアレでしょうか)」


「小声でも固有名詞を出すんじゃない」



しかし観光地というだけあって……このデカい湖だけでなく周囲には翠緑の森が四方に広がっていて、左を見れば二本の大木を並みの木よりも太い蔓が幾重にも絡んで架橋した大自然のオブジェや……毒々しい紫色を帯びた巨大なキノコのような球体が遥か右方の先で幾つも等間隔に浮遊していたりと、そんなバラエティに富み過ぎた自然が目まぐるしく乱立していた。





「一般客の席を我々で埋めてしまうのは忍びないが……致し方ないな」


「私も賛成。ミルダ隊長は?」


「異論ありません。………運転も、プロに任せれば安心です」



依然無表情だが言葉の端に憂いを帯びた彼の言葉は、全員の苦笑いにより流された。



「二人はどうだい?」


「私達はその辺は何も分からないので……従います」


「僕も……です」


「そうか、すまないね。……じゃあ取り敢えず出口まで向かおう」



我々は頷きを以って了解とする。

湖を離れ、上述した翠緑へと歩を進めた。







マスター、難なく実行に移せるかと」



日中でありながら陽光の差さないコンクリートの室内で、伝達魔術テレパスにより男は語り掛ける。

すると数秒後、軽いノイズ混じりだがそれに返答が起こった。不気味な微笑みが透けて見える様な中性的な声。



「お疲れ様。じゃあ後は好きにしていいよ」


「……殺してしまったら?」


「あー、殺す気で行っても無理だよ。軽く刺激するくらいでいいからさ」


「そこまでお強いのですか?彼は」


「彼?……あーそっか、()()()()()のか。うん、強いよ彼は」


「?言ってない……とはどういう」


「こっちの話、気にしないで。………まぁあくまでも今回は様子見ってことだけ忘れないでね。んじゃ

期待してるよ、すっごく」



少し不服そうにしながらも、その歯の浮く様な言葉に男は愚直に微笑んだ。



「………一層認めて頂けるよう、努めますよ」






「うおぉ………すっげぇ………!!!」



数分後、我々は森を抜け別エリアへと達していた。

そこは地面が赤褐色の煉瓦で円形に舗装され、中央には大樹が屹立している。

しかもそれは……実る幾万もの葉が淡く光りながら、一定間隔で様々な色に変化していた。


……そしてどうやら、ここはかなりの人気スポットなのか我々以外にも多くの観光客が大樹を囲み、各々感嘆の声を上げていた。



「数年ぶりに見たが相変わらず派手だなぁこの木は」


「ジークさん、どういった木なんですか?これ……」


「これは”ローワイトゼル”という種の樹木で、保護区域の中で最も稀少性が高いものの一つなんだ。……色の変化に目が行きがちだが、真のポイントは別にある」


「真のポイント……?」


「少し……腹部に意識を集中してご覧」


「え?は、はい」



突拍子も無い指示だったが、取り敢えず言う通り腹に意識を向ける。

……十数秒後だろうか、徐々に何かが見え始めた。


それは淡い紫色で、例えるなら夜空に流れる天の川の様な帯状の流れが、眼前の大樹から観光客全員の身体に延びていた。



「うわっ何だこれ!!?」


「ローワイトゼルは通称”魔力の淵源”と呼ばれていて、まだ研究段階で未知が多いが……半径十メートルのあらゆる生命体へ強制的に魔力を流し込むんだ」


「ほ、本当だ………私にも、ジーク隊長にも流れてる……。それに、なんかちょっと……肩が張ってきたような……?大丈夫なんですかこれ?」


「安心して。流れるのは純粋で無害な魔力だし……むしろ極端な話、戦闘中にこの木の近くに来れば、普段の倍以上の力がノーリスクで出せたりするくらいだよ」


「へ、へぇ……なんか色々応用して、戦争……とかに使われそうですね」


「あぁ、まさしくそうなった過去がある。……だから稀少になってしまったんだ」




………哀し気な表情で樹を見つめていた。

何か言おうと口を開きかけたが、その瞬間後方から馬鹿デカい声がこちらに響く。




「ジーク!!!おいジーク!!それにアイラとミルダ隊長!!!ちょっと!!至急!!!」



血相を変えたハンスが……遠くで風を巻き起こすかのような大振りでこちらを手招きしている。


……彼はほんの一分程前、”お手洗いに行ってきます”と飄々な面持ちで吐き捨て一行を離れたばかりだった。




「なんだ?ハンスの奴……」


「露骨に”只事じゃない”顔ね……何あったのかしら」


「……取り敢えず行くか。シーラ君、トモリ君、すまないが少し待っててくれ」


「え、えぇ……構いませんが……何で俺達二人以外を……?」




ジーク隊長もよく分からないと言った面持ちで首をかしげる。


すげぇ気になるがあまりツッコむのも野暮なので……俺達二人は目を合わせて頷き、疑問を抱きつつ彼らを見送った。




「………何なんでしょう?いきなり」


「さぁ……取り敢えず、待つしかないだろな」



仕方なく、再び視線を大樹に映す。


………少し間を空け、俺はふと智里に対して抱いていた疑問を思い出す。



「なぁ……智里、そういやお前本部に向かい始めた直後らへんで、ミルダ隊長に何か言われてたろ?……あん時は後から教えるとか言ってたけど……結局何て言われたんだ?」


「あ!!忘れてましたすみません………!今なら皆さんいないから大丈夫かな……」



一応、彼は周囲を見渡す。


ミルダ隊長含めた四人がいない事を確認した後、俺に念を押した小声で耳打ちをした。




「実はあの人………僕たちと………」


「………」





「あぁっ!!」




刹那、左の方で小さな悲鳴が上がる。

脊髄反射で振り返ると……そこには苦悶の顔を浮かべた老婦人が地面に跪いていた。


……どうやら、何かに躓いてしまったらしい。持っていた荷物と杖も落ちて散らばっている。



「大丈夫ですか!?」



俺達は彼女の元へ駆け寄り、転がってしまった林檎の様な果実と何かの根の束、そして白色のシンプルな杖を広い、彼女を支えながらゆっくりと立ち上がらせた。



「あ、ありがとう……ごめんなさい、つい転んでしまって」


「脚、痛めてませんか?そこのベンチで少し休んだ方が……」


「いいえ……大丈夫よ、本当に軽くぶつけただけなの。………お優しいのね、二人共」




手を取った彼女は俺と智里を交互に見て上品に笑う。

……何だか、とんでもなく気品に溢れた女性だった。


器質的に老いた皮膚や縮んだ背丈などでは決して霞まない根源的な美しさを垣間見た様な……言い知れぬものを感じた。




「貴方達も、観光で?」


「あっ……い、いえ!私達はちょっと別の事情……というか」



話を合わせて”観光です”と適当に言えばよかったのに、何故か愚直に答えてしまった。


……しかし歯切れの悪い返答には突っ込まず、彼女は微笑の後に大樹を振り向いた。




「色々とお忙しいのかしら。……でも綺麗よね、この木。私初めてアルトココンへ来たのだけど……こんな美しいもの達を観光せず帰るのは……勿体ないと思うわ」


「確かに……そうですね。僕達も先程初めてこれを見て……凄く感動しました」



智里の言葉に俺は”同意です”と言わんばかりに強くうなずいた。



「ふふ、そうでしょう?」


「………ん?………あれ……?」



そこで異変に気付いた。



……()()()()()()()()()

先程まで全員へと流れていた大樹からの帯が。……改めて意識を高めても全く見えない。


何で急に?ってかいつからだ?




………まぁ、魔力出しっぱなしって訳じゃないのかもしれない。放出にもリズムがある……とか?




「お困りでしょうかお客様?」




不思議に思いつつ木を見ていると、若い男の声が聞こえた。

すると我々三人のすぐ傍らに……身長およそ190cmはあろう長身且つ細身で青色のスーツを着た男が立っていた。



「「うわっ!!!!」」


「あら……」



淑女とガキ共の反応の差が顕著に現れる。

その様子を見た彼は咄嗟に”あぁ!申し訳ありません”と謝罪をしつつ一歩下がり、胸ポケット付近に着けたネームプレートを両手でつまみ見せながら言った。



「私、ローワイトゼル区域の管理責任者……エルード・オウルと申します!…………巡回中、貴方方をお見掛けして少々気になってしまい……」



前髪は左目が隠れる程長く、黒縁の眼鏡。絵に描いたようなエリート人間って感じだが……何処となく暑苦しい。



「いえ、大丈夫……です」



若干引き気味で返したが、彼はずいっと顔をこちらに寄せて目を輝かせている。



「おや……おやおや!?もしかすると御三方、アルトココンへは初めてでございますか!?」


「えっ……?ま、まぁ……」


「どおーーーりで!!あまりお見掛けしない方々だと思いました!!私、お客様のお顔は大体頭に入っておりますので……!!!」


「………あの……ちょっと」


「では宜しければ皆様、管理責任者である私直々にこの辺りのご案内をさせて頂いても宜しいでしょうか!!!?私新人なもので他の区域については明るくないのですが……」


「ちょっとマジで……」


「宜しいという方向で宜しいでしょうか!!!?」


「宜しくねぇよ!!!特に”圧”が!!!何でそんな必死なんだよ!!」



思わず他人にまで露骨に叫び散らしてしまった。

……しかし彼はハッッッとし、今度は酷くしおらしく頭を垂れる。



「も、申し訳……御座いません…………しかし、ぜひともご案内を……」


「だから何でそんなにこう……”必死”なんですか……?」



返って来たのは、あまりにも異世界らしからぬ現実的を煮て固めた様な答えだった。



「”ノルマ”が……あるんです。お客様のご案内含めた諸々の……」




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