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TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!  作者: 前花篩上
成人の儀
33/50

track33 男の子ってこういうの……

「…………デジャヴだな……」


徒歩にて5分強、時刻は午後15時。

中途半端な時間故に人口密度に濃淡が見られる繁華街を進み、そこから左へ曲がると突然雰囲気が変わった。


軒を連ねるのはどれも宝石や指輪などの装飾品を扱う店。それが路地を挟んで左右に延々と伸びており……往来する人々も皆女性、しかも装い等からしてかなりリッチでマダムな感じだった。


この雰囲気、確実にどこかで感じたことがある。



「こちらです」


「あーーー………」



一言でいうなら……”教会”だった。


そう、前に衣装を調達するために立ち寄ったロミィの教会とほぼ同じシチュエーションだったのだ。

しかし今度の教会は少し違う。



「きょ……巨大ですね……おねえさま」


「えぇ、帝国内に存在する数千の教会の中でも、ネヴロにある本部は規模も人員も桁違いなの。そしてついでにアクセサリーの専門店としての顔も持っていて、その分野に於いては業界の最先端を走っているわ」


「だから何で最先端走ってんの!!?副業しなきゃ神に悖るの!!?」


「いえシーラ様……ロミィ様の場合は資金繰りも予ておりますが、ここは訳が少し異なります」


「訳って?」


「教会という組織は帝国騎士団と密接に関わっており、主にサポート側として活動されております。……そしてこの教会本部では当初、騎士団に所属する適応種の為、鎮静記号のみを生産しておりました」


「は、はぁ」


「失礼ながら初めは実用性を重視しデザインも素朴でした。しかし、我々淫魔……特にサキュバスの方々の美に対する貪欲さは装飾品に対しても妥協を許しません。……結果その素朴さに耐えきれず、帝国全土のサキュバス団員達から教会本部へクレームが殺到したのです」


「…………ん?」


「心優しい教会の皆さまはそのニーズに応え、次々にデザインを考案し……いつしか一つのアクセサリーとして遜色ないレベルにまでデザイン性が向上しました。そしてそれらを目にした一般の方々も次々に惹かれていき、今では鎮静記号だけでなく一般人向けのアクセサリーの生産も盛んに行っているのです!!!」




…………ドヤ顔。




「いやお前……それ単純にサキュバスのクレームのせいで余計な仕事増やしただけじゃねぇかよ!!!何”我々淫魔が育てました”みたいな顔してんだ!!!」


「まぁまぁシーラ君!公衆の面前だから……」



ジークさんの言葉にはっとして振り返る。

……ここはレヴィリアとは人の多さが違う。故に道行くマダムたちもこちらを『やぁねぇ』的な感じで訝し気に見ている。


急に恥ずかしくなった俺は誤魔化す様に咳払いをした。



「では、入りましょうか」


そう言うとミルダは我々を一瞥し、目の前にある全面大理石で造られたおよそ二メートル以上はある扉二枚を同時に押す。


開かれた教会内部へと入ると、飛び込んでくる景色はやはり桁違いに荘厳だった。


何処までも高い天井に俺達の屋敷よりも遥かに広い空間。夥しい数のステンドグラスが壁全体に貼られており、奥の方には五メートルはある白い天使の像が屹立し空間全体へ目が眩むほどの神々しさを放っている。……しかし、壁に沿って様々なアクセサリーが仰々しいガラス張りの陳列棚に夥しく展示されていて、当然の様に客がいた。まぁ......ロミィの教会の様に世紀末な民度では無かったが。



「すっげぇなしかし…………なんかの世界遺産みたいだ……」


「……お褒めに預かり、光栄です」




教会内部に見惚れていると……いつの間にか俺の顔を除く一人の女性が居た。




「ひぃぃぃぃいいい!!!!出た!!!!」


「初対面の女性に悲鳴と”出た”は失礼の極みですよシーラ様!!!」


「だってよぉ!!だってよぉ!!!!」



顔のパーツ全部吹き飛ぶレベルの驚愕を露にした俺に、その修道服を着たシスターは微笑する。

彼女が視線を我々一行全体へ映すと、咄嗟に俺と智里以外全員が深く一礼した。



「お久しぶりです、シスター・グレイス」


「えぇお久しぶりハンス。それにジークとアイラ………そして貴方は確か、新しい第一部隊の隊長さんね?」


「お初にお目にかかります。帝国騎士団第一部隊隊長、ミルダ・シュラインと申します」



ミルダが差し出した右手に、彼女は快く右手を返し握手をする。

……間を置いて今度は俺と智里へと視線を移した。



「貴女がシーラね。そして彼が………え、彼?」


「彼で合ってます……は、初めまして、シーラです」

「と、智里です。初めまして」



騎士団員の反応を見るにかなりの大物......教会本部の長ってとこか。......帝国騎士団と関わりがあると言ってたが、騎士団員でもない俺や智里ついて知っていると言う事は、情報の共有具合はかなり深い様だ。


抜かした腰を気力で叩き起こした俺は智里と交互に彼女と握手を交わす。



鎮静記号イレミスティアをお求めに?」


「えぇ、お忙しい中申し訳ありません」


「いいえとんでもない!歓迎するわ。……さぁ、お入りになって」



一行は教会へと入る。

半円型の段差を降りると、彼女は我々を導くように先行していく。


背はアイラさんやハンスよりも高く、華奢で、とんでもない美人だ。

年齢的には20代半ばの様に思えるが……あの溢れ出る気品さはとても年相応には感じられない。



……そんな勝手な憶測を繰り広げていると、彼女の”こちらです”という言葉が耳朶に触れた。

見ると、入り口で目にしたあの超巨大な天使像がすぐ眼前に聳えていた。




「うおぉっ……って、え?こちらってどういう……」


「ふふ、きっと驚きますよ」



いじらしく笑うグレイス。……なにこの人、かわいい。

彼女は像に手を伸ばすと、小さく何かを唱える。


すると天使の下半分、纏っている衣の裾辺りの部分が音を立てて崩れ始めた。

……しかし破片はどれも煉瓦状の直方体を単位としており、至極規則的に上下左右と移動している。

破片の一部は我々に向かって階段を形成し、像に開いた穴も次第に大きく真四角になっていく。



「うわうわうわ……」



やがて……像の下部には我々が入れる程の巨大な入口と、そこに伸びる大理石の階段が形成された。



「すっっっげぇ!!!!………魔法じゃん………!!!」


「魔法ですよシーラ様」




まるでハリウッド……どこぞのハ〇ーポ〇ターの様な一部始終に、思わず口を開けて放心していた。

智里に至っては”はわぁ~………”と腑抜けた声を発している。



「お楽しみ頂けたかしら?」


口を開けていた俺達はすかさず首を縦に振る。



「め……めっちゃかっこよかったっす……」


「こういうの……堪らないですよね……」



二人の反応に、彼女は満足そうな表情を浮かべ半ばドヤ顔気味に微笑む。

何この人、かわいい。




「これをやりたいがために、当時教会本部への予算の9割7分くらい溶かしたんだよこの人」



ジーク隊長の発言を、シスター・グレイスは先程の地響きにも負けず劣らずの咳払いを以って掻き消す。

……ロミィといい、シスターの皆々様はどこか性格上クレイジーな部分を兼ね備えている様だ。



「で……もしかして、この中に?」


「えぇ。鎮静記号は保管が色々と難しいので、弱い魔力で満たしたこの空間にて扱っております」




入り口には淡い青色の靄が掛かっていて中の様子が見えない。

彼女は当然の様にその靄を通過し、像内部へと入っていった。


……満たした魔力が出ていかない為の蓋的な結界だろうか。



「参りましょう、シーラ様」


「お、おう」



ハンスは少々ビビっていた俺の手を取り、入口へと引いていくのだった。


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