track3 初陣と邂逅
「いやぁシーラ様、良い天気ですねぇ…。まさに搾〇日和ですね!!!」
「街中でお前やめろ!!!!何だ搾〇日和って!!」
快晴。異世界の太陽も転生前のと変わりはないようだ。相変わらず飽きもせず肌を焼いている。
そんな昼下がり、俺とハンスは住処から遠く離れた街レヴィリアにある大広場に赴いていた。
中央に噴き上げる巨大な噴水を囲むように、様々な店や石造りの中世風な家々が軒を連ね、赤や橙等の暖色が目立つ煉瓦で舗装された道の上を、エルフや獣人など多種多様な種族の者たちが往来している。まさにフィクションで目にする様な繁栄した街並みだ。
…そんな中、俺は上述した巨大な噴水前にて、純白の妙に丈が短いワンピースを着用したまま立ち尽くしていた。
「では、私はこれで」
「待てええぇぇええ!!!!寝ぼけ眼の俺に無理やりこんな淫猥ワンピース着せて変な魔法で広場まで連れてきて人混みの中放り出して自分は帰るとか頭どうなってんだバカ!!!!」
「ツッコミに経緯説明を溶かし込むとは流石、次期当主。しかしもう少し短く纏められた方が分かりやs」
「アドバイスするな次期当主に!!!」
「……冗談でございますシーラ様。少し距離を置いて、陰から見守らせて頂くだけですよ」
「………このワンピースも冗談か?」
「真実です」
「爆ぜろ!!!!大体説明も無しにいきなり実践とかどうすりゃいいんだよ!?」
俺がこいつから受けた説明は、要約すれば”ロリコン誘惑して瘴気を取り込め”のみ。
サキュバスどころか女性の体すら碌に知らない俺にとって、その誘惑すら大きな障壁なのだ。
…ましてや体はまだ子供。自分の体とはいえ幼女姿で街中ストリップ劇場とか完全にアウト過ぎて嫌悪感当社比MAXである。
「先日も申し上げましたが、彼らは恐らくロリによる能動的な誘惑は必要としないでしょう。シーラ様は何もせず、ただ待つだけでよいのです。さすれば自ずとサキュバスの見えない色香に誘われた者が寄ってくるかと」
「…聞き忘れてたけど、仮に対象から精気取れたとして……その後はどうするんだよ」
数秒の沈黙の後、ハンスは執事服の懐から恐ろしく鋭い短剣を取り出した。
「残った食器は片付けるのが常識です」
「やめろやめろ!!!水に浸けとけ!」
食事は自分の命に関わる行為ではあるが、死者を出すなどあっていい筈がない。
…ともかく、嘆いても仕方あるまい。今はこいつの言う通りサキュバスに惹かれた者から僅かでも精気を得なければ。
「では、私は少し離れて見守っていますね」
「はぁ~……。分かったよ…。だけど!もし対象が現れたらサポートしろよ!?絶対パニックになるから!!」
「仕方ないですね…。善処致します」
その後、眼前から数メートル先にある宿屋の陰に隠れたハンスに見守られながら…俺はただ何もせず、その時を待つことにした。
◆◇◆
「…………」
快晴。異世界の太陽も以下略。
あれ、待ち始めてからどんだけ経った?
時計等の類は街並みには見受けられず時間を知る術はないが…少なくとも一時間は経過しただろう。
「…誰も……誰も来ないんだが!!!!?」
そう、サキュバスの色香完全敗北である。
通行人は俺を一瞥はするが誰一人ハァハァ言いながら近寄ってきたりしない。しかも向けられた視線は”あぁ、こんなに小さい娘が物乞いやってる可哀想”みたいな憐憫を孕んでいた。
…そのせいか、皆食べ物や金を袋に入れて俺の前置いていくし。
良い奴らかよ!!!精気貰いに来たのに施し貰ってるよ!!!泣いちまうよ俺!!!
「ハンスは……あ、あの野郎!!木陰で女エルフナンパしてやがる…!!」
貰った施しの中から焼き立てのパンを有難く頬張りながら、立ち疲れてもはやツッコむ気力すら無くした俺は噴水前に座り込んだ。
まぁよく考えれば、ロリコンなんて珍しい人種がましてや異世界に溢れかえっているとは考えにくい。
種族の多様性が存在する以上、個人が持つ性癖も前の世界より遥かに多岐に渡っているだろうし…。
サキュバスのロリに特化したロリコンなんて滅茶苦茶レア…
「可愛い……」
刹那、左方で何か聞こえた。
妙に吐息交じりの興奮気味な声。
「ん?」
振り向くと、そこには黒いローブで全身を隠した謎の人影が、荒れる呼吸で肩を揺らし佇んでいた。
明らかにこちらを向いている。
淫猥ワンピースを着てパン喰ってるロリ(俺)に狙いを定めている。
「ま……まさか……」
脳裏に、”ロリコン”の4文字がよぎる。
多分、いやあの興奮具合はそうだろう。
…そう悟った瞬間、鼓動がざわつく。人影が徐々にこちらへ近づくと共に、思わず後退りしてしまう。
「可愛い……めっちゃくちゃ可愛い…可愛い……可愛すぎる…」
「お…おいハンス!!!来たぞロリコン!!!や、やべえって!!こっからどうすんだ!!?おぉい!!!」
視線を移すと、ハンスは完全にエルフを口説き落とし一緒に宿屋へ入る寸前だった。絶対殺す。去勢して殺す。
「くっそ…!!」
もう、獣はすぐ目の前まで来ていた。
俺は覚悟を決め、その場で静止し深く息を吸う。
食事とは”本能”だ。溢れる精気に身が触れれば、自ずと何をすべきか理解出来る!!筈だ!!!
…俺はもはやヤケクソになり、眼を瞑ったまま両腕を広げた。特に意味はない。『さぁ来い!』的なニュアンスを体で表現したまでである。
「ち、近くで見ると益々……か…かわ……」
「くぅっ…!!」
「もう、我慢………で、出来なあああぁぁあああああい!!!!」
獣は、街中で牙を剥きだした。