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TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!  作者: 前花篩上
成人の儀
25/50

track25 会食、潜むメスガキ

「随分楽しそうね」



血の海に足を浸す彼女は、その海に微笑む男へ歩み寄り言葉を投げた。

彼は背中越しに淡々と答える。



「あれ、バレちゃったか。………見つからないよう何重にも妨害魔術ジャマーかけたんだけどなぁ」


「…………本当に、楽しそう」


「そりゃあ楽しいさ!!あれはまだまだ強く、恐ろしく、悍ましくなる。そうでなきゃ困る!!彼はもっとドス黒く穢れられる筈なんだ」


「あの子をどうするつもり?………私の目的に勘付いてるのか知らないけど、少し目障りが過ぎるわ。レド」



その二文字に、彼は目を見開き驚いて見せた。だが、態とらしく。



「はは………レド…………か。…………僕も生意気に育ったものでね、今じゃ敬虔な部下もいたりするんだ。彼らは決まって僕を呼ぶ。”マスター”ってね」


「ふっ………我儘放題なお子様に対して”主”ですって?………見上げた審美眼ね、その部下達も」


「全く、困ったものだよ」



戯れに血を掬い、啜り、嚥下し、振り返る。

彼は口端に溜まる朱を拭い、指を鳴らした。




「目障りなのはお互い様さ、姉さん。いや…………案内人」


「……………稲神奈生(あの子)は決して呑まれない。私が導く。最後まで」




固まる海は、彼らの反射を赤黒く彩っていた。






◇◆◇







「やぁ、久しぶりだねシーラ君」




そう声を掛けたのは帝国騎士団第三部隊長、ラルクス・ジーク。

相も変わらずワイルドでイケてるおっさんである。





「お、お久しぶりですジークさん。…………えっと、他の皆さまも…………」



屋敷の玄関口から登場した彼を皮切りに、次々と純白の軍服を着た帝国騎士団の面々が流れ込んでくる。


ゴリゴリの軍人体形、対照的に華奢な青年、女性、獣人………ざっと数えただけでも50人前後の種性別を問わない団員が、我が屋敷に招き入れられた。


そして当然その中には………




「シーラたぁぁぁああああぁぁん!!!」



ネオジウム磁石顔負けの勢いで俺の元に飛び込んできたのは、第三部隊副隊長シャルテ・アイラだった。

規律に真っ向から殴り込んでいくような真紅の軍服に身を包み、相変わらずド派手なコーディネートを決め込んでいるようだ。



「スーーーーーーーーーー……………ハァスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


「出たな淫獣クレイブ!!!!!魂まで吸うレベルで嗅ぐな!!!!」




彼女とは修行でも割と顔を合わせていたのでそこまで久しぶりという訳でも無いが………少しでも期間が開くとこのように全身全霊を以って吸引に取り掛かるので末恐ろしい。



「ハァ………ハァ………今日も…………ファッキンフレグランスなスメルだわシーラたん…………」


「あんたマジで地位無かったら死刑だぞ今頃」




そんな彼女に鉄拳を喰らわせ、首根っこを掴んで引き摺って行くジーク。その間無表情、流石隊長だ。


……やがて全員が屋敷へと入り、そしてハンスの誘導に従って馬鹿広い食事の間に到着。


銘々に玉座さながらの椅子に腰かけていく。………普段人数が少ない中で食事をしているせいか、こうしていざ大勢が着席すると宛ら映画における貴族の会食のようなシーンと錯覚してしまう。と同時に、普段は感じない鋭い緊張感が背筋を走った。


団員たちの視線は当然、サキュバス次期当主である俺に注がれている。


中にはひそひそと訝しげな私語を慎まない者もいるが……それだけ頼りないと思われてしまっているのだろう。マジで肩身が狭い。


………そして、ほぼ全員が着席する。

立っているのは俺とハンスに智里の三人。智里は室内の奥の方で静かに縮こまっており、残り二人は隊員達を正面から見下ろす様な形で向かい合っていた。


態とらしい咳払いの後、ハンスは淡々と口上を始める。






「皆様。本日はお集まりいただき誠に有難うございます。この会食は、明日行われる次期当主シーラ様の成人の儀に先だったものであり……………」


「しっつもーーーん」




突如、口上を遮る声が一つ。

すかさず耳朶に触れるハンスの舌打ち。………こいつ、もはや隠す気ゼロである。


声の主は3つある食卓の列の真ん中、その一番手前………つまり俺とハンスの目の前に座っている()()だった。


長い袖から見える手甲、そして幼い相貌には赤い糸が幾重にも縫い付けられており、肌の色も全体的に青ざめている。白く染まった短めの前髪には、絶妙に可愛くない猫の髪留めが見受けられた。




「……………何でしょうか、デラネ・ローワスター四首」


「この会食ってさー、いっつも成人の儀が終わってからやってたくない?何で前日にやってんの?」


「……………そうなのか?ハンス」



俺はたまらず彼に耳打ちで問う。

それに小さく頷き”yes”と解答をした後………少女を向きなおし、淡々と答えた。




「理由につきまして…………シーラ様は、既に第三部隊への加入を予てよりご所望されております。故に、この会食を先んじて行う運びとなりました」


「はぁーーーー?私聞いてないんですけど!今日それなりに予定あったんですけどーーー!!」


「すまない、デラネ。………私が提案したんだ。急遽決まった話で君達の予定を狂わせてしまい申し訳ない」



是亦、中央列の更に中心に座るラルクス隊長が声を上げる。

………すると数秒の沈黙の後、デラネという少女は露骨に”うげっ”といった表情を浮かべた。



「隊長絡んでるなら文句言えないじゃん……………ちぇっ…………マジムカつく」



………………彼女を一言で形容するなら、”””””クソガキ””””””だった。

ばつの悪そうなデラネは睨みを含む一瞥を俺達にくれた後、言葉を閉ざす。



「いや………何で加入決めてたからって予定がずれるんだ?別に成人の儀が終わってからでも………」


「はぁ~~~?アンタそんなことも分かってないの!?信じらんないんですけど!」



質問を遮るのはまたしてもあのクソガキだった。

ハンスの1.75倍の音量で舌打ちをカマす俺。



「………ハンス、アンタも肝心な所説明不足ね」



続いて口火を切ったのはアイラだった。にらみ合う俺とクソガキ両者を窘める様な視線を配ったあと、彼女は静かに説明を始める。




「シーラたん、第三部隊への加入には………本人の承諾に加えて()()の実技テストがあるの」


「テスト………?」


「一つは私達が直接行うもの。でも、基本的に私達は加入をお願いしてる立場だからテスト自体も最低限で正直温いわ。………でももう一つのテストは、帝国騎士団長………つまり私達のトップが直々に行う、()()()()()()()への加入を認めるためのテスト」


「騎士団長……………だって…………?そ、そのテストはいつ行うんですか!?」


「本来なら成人の儀が終わった後、騎士団本部で本人の承諾を得た直後に行ってたんだけど………今回は既に得られてるから、成人の儀の最後にそのまま執り行われるわ」


「初耳のオンパレードじゃねぇか!!!」



き、騎士団のトップだと………?人間だけでなく数多の適応種という強大な兵力を兼ね備えた組織の頂点が………俺を評価するというのか…………?しかも明日に!!?




「あっれぇ?もしかしてビビってんの?シ・-・ラ・ちゃ・ん?」


「ぐっ…………このガキ………!!!正直ビビってっから何にも反論出来ねぇ………!!」


「ちょっとデラネやめなさい!……シーラたんごめんね?この子昔から構って欲しさにすぐ煽るのよ」


「てっ……適当な事言わないでよアイラ!!!そんなんじゃないわよ!!!」




急に顔を赤らめ反論するデラネ。

………やはり色々とガキだった。



「それでアイラさん…………そのテストと日程のズレに何の関係が?」


「あぁ、そうね。……さっき言った通り、私達のテストは形式的なものに近いし………あとは新入団員の承諾待ちみたいなものなの。だから………」




突然、デラネが席を立つ。

先程とは打って変わってギラギラした眼を携え、俺達の前に立ちはだかった。仁王立ちで。


彼女は腰に手を当て力強くこちらを指差し、声高に叫ぶ。

それと同時にアイラのため息が聞こえたのは……きっと間違いではないだろう。




「承諾さえ出てれば、いつでもテスト出来るってワケよ!!!」




要するに……………これは会食という名を借りた、第三部隊直々の実技テストなのであった。









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