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TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!  作者: 前花篩上
成人の儀
24/50

track24 束の間のエピローグ

時は巡り、2か月後。




「おはよ…………」


「おはようございますシーラ様。相変わらず寝てるのか起きてるのかよく分からない程目付き悪いですね」


「………この目がかっ開いた時がお前の最期だ執事」



平々凡々なサキュバス生活。

相も変わらない三白眼と忌々しき貧相な体を移した鏡を横目に、俺ことシーラは食事の間へと足を運ぶ。


…………あの一件以降、俺達は二つの問題に直面した。


まず一つは半ば強制的な欲獣化を行い、得体の知れない魔術を扱う謎の男の存在だ。

俺だけならまだしも、サキュバスの長であり規格外の能力を持つヴィエラまでもが、あの男に軽々しく拘束され挙句の果てには意識を飛ばされてしまった。それだけで奴を明確で強大な敵として認識するには十分すぎる事実だった。


現在も奴の素性は全くと言っていい程分かっておらず、目的も分からない。


そして、もう一つの問題は………。





「お………おはようございます………」


「おはよう、智里」







清水智里。2カ月前、傲慢の欲獣となり暴走した少年である。


彼の”母親の姿を見たい"という願い、それを俺は変身能力で叶えようとした。

結果として彼の肥大化させられた欲望は引きはがされ、もう一つの吸収能力で俺自身に取り込んだのである。


………目を覚ました彼は何も言わなかったが、当然あの時目にした母親の正体が俺だという事は察しているだろう。だが少なくとも彼は獣となり果てず、母親への歪みの無い感謝と愛情の念を胸に秘め、前を向いて生き始めた。


だが………




「智里………いい加減その格好”嫌です”って断ったらどうだ?」


「いえ………ヴィエラ様に用意して頂いたお洋服ですので……」




紅いロングの髪を黒いリボンでツインテールにし、アニメでしか見ないようなゴスロリの服を着させられている彼。


中性的で端正な顔立ちも相まって、その姿は完全に”美少女”となっていた。



「………………昔の俺の境遇見てるみたいで調子狂うんだよなマジで………」


「?どうされました?」


「い、いやなんでもない」



行き場のない智里を、”別世界から来た人間”である事実は伏せつつこの家で保護するという提案に快諾したヴィエラだったが、”見た目可愛いから”という理由で性別のアイデンティティー完全無視で連日女装させるその行動は…………前世で俺が小学生くらいの頃母親に女物の服を着させられていた過去を想起させた。


まぁ、ヴィエラの場合はツインテが作れる程になるまで髪を伸ばせと強いる凶行にまで及んでいるので俺なんかよりよっぽど不遇だが。


でも俺は当時死ぬほど嫌だったのだが彼はまんざらでもないようで…………我がサキュバス一族に、男の娘属性が見事に追加されたのだった。




「ところで智里」



ハンスが紅茶の用意をしている最中、智里に小声で耳打ちをする。



「どうされましたお姉さま」


「お姉さまはやめろ!!!これ以上属性増やすな!!!………………あれから、あの男に関して思い出したことはあるか?」


「い、いえ………何故かあの人に関する記憶だけが日に日に抜け落ちてしまい、今ではもう顔も思い出すことが出来ないんです」


「そうか…………でも、前世での記憶はそのまま引き継いでるんだよな?」


「はい。その領域に関しては、不可解な欠損はありません」




あの後、二人だけの時に智里の過去の話を改めて聞いた。


夢の中で俺が見たこの世界とは違う様々な”見覚えのあるもの”………それは間違いなく前世で触れた嗜好品や家具だったからだ。


………結果としてやはり彼は俺と同じ世界からこちらの異世界へと死後に移っていたことが分かった。

しかし、”転生”として赤子から始まった俺に対し彼は”転移”かの如く生前と全く同じ性別、容姿、年齢のままこちらへ来たのだ。そして、俺が嘗て遭遇した案内人も彼は知らないという。



転生と転移、案内人の介入の有無。………そこにどんな意味があるかは互いに皆目見当はつかず、唯々()()という事しかわかっていない。




「何を話されているのですか二人共」


「えぇぇッ!?な、何でもないぞハンス!なぁ?智里」


「も……もちろんですよお姉さま!!」


「あまり乳繰り合ってると紅茶が冷めますよ、さぁどうぞお座りください」



………とんでもなく心外な発言だったが、これ以上反論を重ねると色々綻びが出てしまいそうなので堪えた。

智里に目配せして会話を中断し、いつも通りやたらと荘厳な食卓に臨む。


しかし、違和感に気付いた。




「あれ、お母様はどうした?………ていうか、食事の量おかし過ぎない………?」


「ヴィエラ様ならもう直ぐ帰ってこられますよ。帝国騎士団の皆さまと共に」


「は!?な、何でいきなり帝国騎士団が出てくんだよ!?」


「いきなりも何もシーラ様、ご存じの筈でしょう?」




溜息交じりに彼は手に持ちかけたフォークを置き、こちらを振り返りつつ淡々と答えた。



「成人の儀は明日なんですから」




「……………………え」





ただ無意識に、過去を振り返る。


転生してから得た数々の知識、そして欲獣として潜り抜けた死線、第三部隊隊長との対話……………。



そこで気付いた。俺は”成人の儀”という催しがあるという事実は知っていても、それがいつどのタイミングで行われるか全くわかっていなかった事に。




「……………もしかして、いえ有り得ないとは思うのですがシーラ様………え?本当ですか?本当に?え、成人の儀の日取り…………」


「………………………みみ」


「え?なんて?」


「初耳!!!!!!!」




溢れ出る己の馬鹿さに辟易と羞恥を隠し切れず、眼を瞑りながらハンスに八つ当たり気味に叫ぶ。

すると彼は心底驚いた表情を浮かべ、露骨に右手で口を覆った。



「信じられない………!!シーラ様、いつ行われるかもわかってない状態で8年前ラルクス隊長に”成人の儀まで………待っててください………(キリッ)”とか宣ってたんですか!!?」


「おおおおおおおおおいやめろ!!!!主人に向かってなんだその煽りスキルはこの野郎!!!!」


「見切り発車で啖呵をきるお姉さまも………素敵です」


「お前もやめろ智里!!!大体お前だって知らないだろ日取りなんて!!」


「明日の午後13時30分から受付開始ですよね?」


「…………知ってるからって何!!?そういう知識でマウント取らないで欲しいんですけど!!!」




いやいやそんなことより、まず成人の儀が明日だと………?気付かなかったのはもう病的なまでの詰めの甘さでオチを付けるにしても、あまりにも唐突過ぎて何も考えられない。


つーことは、約束の日から二カ月前にようやく捕食を行えるようになったって事か?………ギリギリ過ぎんだろ!誰か言ってよ!!『シーラちゃん、あと〇〇日だよ』とか耳元バイノーラルで囁いてくれよ!!!




一向に手を付けないでいる食事達の視線を感じながらも、俺はその後まだまだ驚愕と混乱の中で右往左往し続けるのだった。






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