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TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!  作者: 前花篩上
欲獣への目醒め
13/50

track13 覚悟の時

「くぅっ………!こ、この屈辱……末代まで忘れん……!」



嵐の様な出荷先は狭苦しい更衣室。


そこでハンスとルイスが退室し残ったヴィエラに俺は身ぐるみ全てを剥がされた。

羞恥心が沸点を超える間もなく何かを無理やり着せられ、今度は行為室へと再出荷。


…見渡す限り真っピンクのやや広い”あからさま”過ぎる部屋。


やけに重い扉が閉まる音で意識がはっきりとした俺は、下げた視線に自身の装いを映し驚愕する。


”サキュバス”、この一言に尽きる。


黒いテッカテカのハイレグの様な衣装…しかも腹部と腰あたりの部分が双方大きく刳り抜かれており、肌が思い切り露出していた。他にも胸元の布の起始点がギリギリまで下がっていたり……ここに来てサキュバス度九割増しの衣装である。



「なんだよこれぇ……!今まで見た目のサキュバス演出とかほぼゼロだったのに!!!」



今更だが、普段の夢魔には身体の変異は見られない。欲獣になったとしても、変異はその個体の欲望の質や強大さ等により違うため…都合よく捻じれた角や先がハート型の尻尾などというふざけた部位が綺麗に発現するなんてのはまず有り得ないと、以前質問したハンスに一蹴された記憶がある。





つまり何が言いたいかと申しますと……そう、”変態衣装を着た只の16歳少女”でしかないのだ今の俺は。

もし前世に住まう人間達がこれを見れば『サキュバスだから』という贖宥状がは意味をなさず、完全にうら若き特殊性癖ビ〇チと断定されてしまうだろう。





「太腿とか腕とか丸見えだしもお~~~~!!!しかも貧乳なのに胸元パックリ開いてんのすげえ腹立つ!!!」




前代未聞の羞恥に悶絶していると……突然前方で、小さな呻きが聞こえた。



「あ……あぁ……」

「え……う、うわっっっ!!!!ななな何だコイツ!!!?」



恥ずかしさで気付いていなかったのか、すぐ目の前に……”それ”はいた。


「へ……へへ………か、かわ……可愛いっすね……へ…へへへ……」


御中元のハムの様に体を縄でキツく巻かれた、黒いビキニパンツ一枚のやせ細ったスキンヘッド男が……正座でこちらを凝視していたのだ。



「へ……………変態だああぁぁぁああああぁぁぁあああ!!!!!!!!」



割れんばかりの悲鳴と共に、後方へ飛び退きつつ腰が抜けそのまま座り込む。

端から見れば特大ブーメランだろうが、この格好はあくまでも不本意だ。目の前の純然たる変態とは違う。

…渾身の叫びを耳にした男は、急に凛々しい形相になり声高に宣言した。



「いいえ違います。私はサキュバス様への奉仕に命を懸ける一人の戦士……その誇りは決して!!変態の一言では括れはしません!!!!」

「情緒どうしたお前!!?さっき思いっきり涎垂らして興奮してたじゃねぇかこのハゲ!!」

「ぐっ……!も、申し訳ございません…あまりの美しさに俗物の様な昂りを催してしまいました……不覚っ…」



不思議な話だが、自分よりも明らかな変態を目の当たりにすると…幾分か羞恥心が和らぐようである。

いつしか縮こまっていた体は脱力し、意識はこの謎の変態男へと完全にシフトチェンジしていた。



「マスターから話は聞いております。シーラ様、本日は思う存分この私…リック・ラウドを修行にお役立て下さい!!!」

「聞いてないのに名前まで言いやがった……。自我がある変態ほど厄介なものはねぇぞ……!!」

「戦士です」

「しつけぇ~~~………。修行つったって何すればいいんだよ……」



すると彼は依然飄々とした態度で立ち上がり、両手を広げてつらつらと言葉を並べる。



「もう分かっているでしょう。私を練習台として、男を蠱惑し精力を増大させる技術を磨くのです」

「くっそやっぱりか……!で、でも別に俺がアンタの夢の中入ってそこで練習すれば良くない!?最初から態々現実世界でこの格好になる意味ある!!?」

「夢への介入には欲獣化が必要です。そうなれば大幅に魔力を消費し長時間の修行は困難…。それに、現実で羞恥心を捨てきれぬのなら夢の中でも対象を魅了する事など到底出来ません!!」

「正論過ぎて絶句」



想像以上に手強い変態だった。



「ご安心下さいシーラ様、この場では話術や妖艶な仕草等を身に着けるのが主たる修行です。妄りな露出や性的接触は必要ありません」

「…………あ~~~~~もうっ!!!分かったよやるよ畜生!!!」

「言葉遣い」

「地味に厳しい!!!」



通算何度目かの覚悟を決める。

すると、リックと名乗ったスキンヘッドは体に巻かれた縄をいとも容易く腕力で引きちぎり、指を鳴らしつつ空間へ叫んだ。




「オーケエェェエイ!!!では早速始めましょう……私とシーラ様の、”魅惑の催淫修行”を!!!」

「変なタイトルつけんなハゲ!!あと何で最初縛られてたんだよ!!!!」




◆◇◆






「はいよ、どうしたん急に」

『シスター・ロミィ!?何度も伝達魔術テレパス送っていたのですよ私!!なんで悉く無視し続けていたのですか!!?』



右耳を手で覆うと、小さな魔法陣の出現と共に小煩い先輩シスターのお怒りコールが鼓膜を叩いた。

床に落ちた布の端切れや机上の道具を適当な場所に仕舞いつつ、いつも通り適当にあしらってさっさと話を切り上げようと固く決心する。



「いや、ちょっとお客様いらっしゃい中だったんで…」

『貴女ねぇ、自分の天命をお忘れですか!?何故シスターの緊急連絡より副業最優先なんですか!!』

「べつにいーじゃないですかぁ……時代は信仰より裁縫ですよパイセン」

『”シスター・グレイス”とお呼びなさい!!!全く……言動も行動も完全に俗物そのものなんですから貴女は…!!』



…この人と会話すると必ず最初の数分は私へのお説教タイムに費やされる。

言葉遣い、姿勢、身だしなみetc…。多分もうそろそろこの人、同じ事説教しすぎてノイローゼになってしまうんじゃないかと逆に心配だ。まぁ私のせいだけど。




「それで、緊急連絡なんですか?これ。定時じゃなくて」

『定時連絡は深夜でしょうが!!こんな早い時間から何度も何度も連絡している時点でかっっっなりの緊急事態という事を察してください!!』

「はい、ではご用件をどうぞ」

『………クッソこいつ………』



たまに素が出るのも彼女の魅力だ。



『はぁ~~~………ゴホンッ!!………今から凡そ一時間程前、第三部隊隊長ラルクス・ジーク氏から要請がありました』

「ラルクスから?ってことはもしかして卵?」

『……推定罪級は”免罪イノセンス”の上級。覚醒すれば被害はかなり大きくなってしまいます』

「激ヤバじゃん。ランク付けが一時間前ならいつ覚醒してもおかしくないよね、激ヤバじゃん」

『お前が連絡無視しなけりゃ無難に対処できたんだよコラァ!!!!!』

「シスター・グレイス、素が覚醒してますよ」



特大の咳払いで正気を保ったあと、彼女は何事も無かったかのように連絡を再開する。



『とにかく!!!装備を整え次第今すぐエレック通りへ向かって下さい!!!』

「…了解」




通りはこの教会からさほど遠くはない。


だけど、そもそもこの辺り一帯に卵が出現した事なんて殆ど無かった。

それ故の警戒心の緩さから、この連絡もどうせ何かのお節介か小言だとばかり……。



「ん?エレック通りって事は筋肉オカマいるじゃん。あの人強いし、普通に倒せるんじゃ…」



その言葉の後、グレイス先輩は明らかに声を曇らせ…歯切れの悪い口調で返答する。



『いえ、実はつい先ほど…新たな卵がほぼ同所で確認されまして……』

「一気に二体…?流石におかしくない?で、罪級は?」


一匹でも稀有な例なのに二体ともなると言い知れぬ違和感が益々増幅する。…だけど、免罪程度なら二体くらいやっぱりあの人だけでなんとかなりそうなのに…


と、いつも通り楽観的に考えていたけど…先輩が告げた罪級は、私の想像を遥かに超えるものだった。



『…………枢要罪級アマルティアです』

「はぁ!!?……じ、冗談キツいよパイセン…そんなのあり得ないって流石に…」

『冗談ではありません。…型は”傲慢”。ジーク氏曰く、覚醒確率はほぼ100%です』

「………い、いよいよ本格的にヤバいなこの街……どうしちゃったんだろう……」



確かな動揺。呼吸が荒くなり、隠しきれない不安を実感する。

こんなの異常事態すぎる。ついこの間だってレヴィリアの大広場に…


いやいや思い返してる場合か。そんな奴が暴れたら街一つ消し飛ぶ所の騒ぎじゃ済まされない。




「とにかく……分かった。今すぐエレックに向かうよ」

『お願いします。それと、今回は極めて強大な敵ですので………制御は外しておきました』

「お、ご丁寧にどうも。まぁいざとなったら無理やり外せるけどね。んじゃ、切るねパイセン」

『だからシスター・グレイスとお呼』



耳を覆っていた右手を外す。さっきまでシーラっちと居た裁縫室を足早に出た私は、すぐ隣の武器庫に入った。


狭く埃の舞う室内の奥に乱雑に並べられた武器の数々。その中から魔弾用のライフル銃二丁と短剣、気休め程度だけど少しの傷薬を抱えて、室内中央の白い魔法陣の上に放り投げる。


その瞬間、淡赤色の光が発現し武器達が陣の中に吸い込まれ…やがて、鉄を丸く展ばした様な粗いコインへと姿を変えた。



「見たか、私の収納魔術」



…やってる場合か。


今回の敵は普段のとは次元が違う。柄じゃないけど気を引き締めなくちゃ一瞬でやられる。

枢要罪級、”傲慢の欲獣”……。



「よし、んじゃぁ~行きますか!!」



コインを握りしめて深呼吸。

やっぱり深く考えるのは体に良くない。いつも通り適度に、適当に、適宜休みながら頑張ろう。



熱を持つ右目下のタトゥーを指でなぞり、私は教会を出た。


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