自由ヶ丘利人と二階堂千恵はホテル代1,000円の謎を追うようです。
『三人の男がホテルに入りました。
ホテルの主人が一晩30,000円の部屋が空いていると言ったので、三人は10,000円ずつ割勘で払って泊まりました。
翌朝ホテルの主人は部屋代が本当は25,000円だったと気が付き、余計に請求してしまった分を返すようにと、ボーイに5,000円渡しました。
しかし、このボーイは2,000円を猫ババし、三人に1,000円ずつ返しました。
さて整理してみましょう。
三人の男は結局部屋代を9,000円ずつ出したこととなり計27,000円。
それにボーイがくすねた2,000円を足すと29,000円。
あとの1,000円はどこへ行ってしまったのでしょう?』
「ねえ、利人? この問題わかる?」
「ん? 何々…………千恵。こんなの小学生レベルの問題じゃないか」
「またまた~。幾ら私が馬鹿でも、こんな単純な四則計算を間違えたりしないよ」
「いや、計算が間違っているのもあるけど、これは算数って言うか、国語の問題じゃないか?」
「え? どう言うこと?」
「……まず、千恵はどうやって計算した?」
「えっと、最初の計算は30,000円を三人で割って一人の支払いが10,000円でしょ?」
① 30,000/3=10,000
「で、本当は25,000円だったから、30,000円から引いて5,000円がお釣りでしょ?」
② 30,000-25,000=5,000
「それでボーイが2,000円をガメて返金は3,000円になっちゃうでしょ?」
③ 5,000-2,000=3,000
「それを三人のお客さんにそれぞれ1,000円キャッシュバック! つまり、払った金額は1人9,000円の合計で27,000円になる」
④ 3,000/3=1,000
⑤ 10,000‐1,000=9,000
⑥ 9,000×3=27,000
「うん」
「そこから、ボーイの懐に入ったのが2,000円だから、お客さんと合わせて……」
⑦ 27,000+2,000=29,000
「やっぱり29,000円だ! 最初に支払ったのは30,000円でしょ?」
⑧ 30,000-29,000=1,000
「ほら! 1,000円が消えちゃった! 日本経済の損失だよ!」
「はぁ」
「滅茶苦茶大きな溜息吐かれたんだけど!」
「落ち着いて考えてみろ。誤った金額が30,000円で、本当のホテル代が25,000円だから、返金が5,000円。で、ボーイが盗んだのが2,000円。返って来たのが3,000円」
Ⅰ 30,000=25,000+2,000+3,000
「この計算におかしい所があるか?」
「あれ? ぴったり30,000円だ。足りない1,000円は何処から出て来たの?」
「そもそも、足りない1,000円ってなんだよ」
「だって、一人9,000円払って、計27,000円でしょ?」
「そう。そこまではあってる」
「で、ボーイにも2,000円払っているから、そこにプラス2,000円して……」
「そこだよ。どうしてボーイが盗んだ金を最後に足すんだよ。足すなら、返って来た3,000円だろ?」
「え? どう言うこと? なんで3,000円をここで足すの?」
「客の立場になってみろよ。ボーイが盗んだことをしらないから、30,000円だったホテル代が27,000になって、3,000円が返金されたと思っているんだぞ? つまり――」
Ⅱ 30,000-27,000=3,000
「――客から見た金銭の移動はこう言う計算で現せる」
「…………あ、ボーイが盗んだお金は、客から見ればホテル代の一部なんだね」
「そう言うこと。だから、最後に2,000円を足す必要はない。二重取りしていることになるからな」
「な、なるほど。そっかそっか。言われて見れば確かにそうだ」
「理解したか?」
「うん。国語の問題って言ったのは、問題文で騙しにかかってやがるからだね」
「そう言うことだ。じゃあ、俺からの問題は勘違いがないように数式だけにしておこうか」
「え」
「2=1を証明した数式……勿論ジョークだが……何処が間違っているかわかるか?」
A=B
A×A=B×A
A×A-B×B=A×B- B×B
(A+B)(A-B)=B(A-B)
A+B=B
2B=B
2=1
「これは算数で習うルールを理解して入れば高校生なら絶対にわかる問題なんだが――」
「……………………ZZZ」
「おい!」
※ 拙作『【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】』にも同じ話が投稿されています。ご了承下さい。