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20/22

20.夢の中にいるような

「ねぇ、ルディアン」

妻イフェルの声に俺の意識は浮上する。

横になって寝ていたらしい、薄ら目を開けると、イフェルの裸足の足だけが見えた。


なんだ。


「良い方法を思いついたの! ねぇ!」

楽しそうにイフェルが俺の傍にたどり着いて、床に両手をつく。服と腕が見えるのに、顔は見えない。


いい方法? 何の話してたっけ。


「ほら、『術』を消さないと怖いなって、ルディアンも言ってたでしょう。また勇者が召喚されたら、創りあげたものが全部消えてしまうって。セルリエカの楽園も、全て」


あぁ。そうだな。


クスクスとイフェルは俺の耳元に寄る。


俺は夢を見てるんだろうか。顔が全然見えない。

起きたくても起きられない夢の中にいる気分だ。


「ね?」


楽しそうに、イフェルが笑っている。

最後にやっと、顔が見えた。


声の通りに楽しそうで、良かったと安堵する。


***


「あー。ルディアン様じゃないですか!」


お。久しぶりだな。兵士A。


「まだそう呼ぶんですか? 良いですけど。ビルトとカーリとデルタはどうしていますか?」


・・・さぁな?


俺の様子に、兵士Aはハァ、とため息をついた。


俺がじっと見ていると、兵士Aは、急にモジモジとし始めた。


なんだ。


「あの、俺、握手してみたかったんですよね! 元気でいますか、ルディアン様!」


変な奴だな。


Aが全力で俺に握手を求めて来るので、手を出してやる。

人間だから気安いよなぁ、やはり。力の差に鈍感だよな。


兵士Aは、力強く俺の手をガッシリと握った。


「こっちのことはお任せください!」


あぁ、頼んでるぞ。


「良かった」

兵士Aは嬉しそうに笑う。


「こっちの報告しますね。ご存知だろうと思いますけど。ゼクセウム様を俺たちのところに寄こしてくれたのルディアン様でしょう。セルリエカ様が言ってくれたから動いてくれたんですかね?」


いや、俺の判断・・・


「とにかく、本当に有難うございます! 俺、あんな大勢まとめるなんてどうしたら良いのかって思って。ゼクセウム様、大助かりです。あれですよね、ゼクセウム様は気さくで親切ですよね、ルディアン様とは違いますよね」


お前・・・数々の俺の恩を


「はははは!」

兵士Aは嬉しそうに俺の肩を叩いてきた。

馴れ馴れしすぎるだろうが、お前。


「ルディアン様! これ、夢だって分かるけど。俺、無事でいて欲しいです。封印されてしまったって、嘘ですよね? 俺たち元気でやってますから、一度見に来てくださいよ。皆でこっそり大歓迎、絶対しますから。うぅ・・・」

兵士Aが、急に涙ぐみ、肩を叩いていたのを止めて、片腕で目を覆うようにして泣き始めた。


「ものすごく大変な封印で、誰にも、かけた人間にも解けないって、嘘ですよね」


嘘だろ。


「そうですよね」

グィグィと涙を腕で乱暴に拭い、兵士Aはまた俺に向かって無理に笑った。

「封印されても、俺はルディアン様が好きです、あ、変な意味ではない決して! あぁ、でも会えて嬉しい」


また兵士Aが泣いてしまう。

どうしたものか、困るじゃないか。


***


「お父様ーお母様ー、今日は、キリスの実が沢山収穫できたから、お供えってたくさん貰いましたよ。ゼリーもあります。お父様とお母様がお好きだったと伝えたら、作ってくださったんです」


セルリエカの声がした。

俺はヒタヒタと歩いて降りる。

途中で、俺は裸足だと気が付いた。靴をわすれてしまったか。我ながら迂闊だな。


「・・・お父様?」

セルリエカが、不思議そうな声をあげて、俺を見上げた。

白くてぼんやりしたものに包まれて、セルリエカは現在、魔族成分を全力で外に出しているようだ。


「来てくださったんですね」

セルリエカが嬉しそうに微笑む。


少し、長く会えなかった気がする。気のせいか。

『セルリエカ。お前、人間の身体はどこにやった?』

セルリエカの魔族の身体にひっついているはずの、人間の皮のような身体が見当たらない。


「お母様にも、同じように聞かれてしまいましたけれど」

妙に落ち着いた様子で、セルリエカが教えてくれる。

「人間の身体は、朽ちてしまいました。魔族の身体に悪影響になると思って、切り離して捨ててしまいましたよ」


そう・・・なのか。

痛くなかったか? 大丈夫か?


嬉しそうにセルリエカが揺れる。

「大丈夫です。お父様、悲しそうにならないで。十分長生きしていますよ? ふふ。もう、お父様ったら」

セルリエカが嬉しそうにしながら、悲しそうにもなる。


どうした。


「もう。お父様は。またお忘れなのですね? お父様とお母様が一緒に倒れられたすぐ後のお話は覚えていますか?」


・・・ん?


「私が結婚したことは? 兵士Cさん、カールさんですよ」


はぁ?


「もう、お父様は。カールさんが怒るから忘れないでと、お伝えしましたのに」


『・・・すまない』


うーん。


そう言われれば・・・。


俺とイフェルが急にいなくなって混乱したのを、兵士Cが献身的に支えてくれたとか。

そう言えば結婚すると挨拶もしてくれたような。

許してやったような気が、いや、イフェルが俺のところを訪れて、楽しそうにそういう話を教えてくれたんだったか。


うーん。うん。


『カールは・・・いや、亡くなってたんだったな。すまない』

「いいえ。思い出してくださったなら、良かったです。子どもたちは元気ですよ」


・・・。


「たくさんお忘れのようですから、お伝えしますね。お父様は封印されてしまったんです。イーギルド叔父様とお父様とで庇いあってしまったから、誰にも解けない中途半端な封印になってしまって、お祖母様にも魔王のお祖父様にも、解く事ができなくて。解けるのを、解きやすくなるのを待つしかないって」


・・・そう・・・だったか、な。


「でも、お父様は強いから、時々こんな風に会いに来てくださります。ただ、お母様を大好きすぎて、お父様はお母様を道連れにしてしまったのです。酷いです。ただ、そのお蔭で、今もお母様はおられますから、許して差し上げます」


ん。・・・怒っているのか、セルリエカ。


「えぇ、私を置いて、お二人とも姿を消してしまうなんて、本当に酷かったです」

『すまん。セルリエカ、本当にごめん』


「良いです。もう随分昔です。大丈夫ですよ」

セルリエカは笑う。さては少しからかわれたか?


「まだ、封印は完全には解けないご様子ですね」


うーん。そもそも封印の実感が無いな。


「イーギルド叔父様のお傍に、サァサクィアラ様がずっとついておられます。何かあったら、知らせてくださるでしょう。正しくは、セディルナ様とスピィーシアーリ様がこの天空庭園に飛んできてくだされば」


何? 天空庭園?


「あら。お父様、この町は、密やかに天空庭園と、下界では呼ばれているのですよ。ふふ。空に浮かぶ幻の町ですって。面白いですね。神様の住む町ですって」


なんだそりゃ。


「あ・・・お声、聞き取れなくなってきた・・・私の言葉は、まだ聞こえていらっしゃいますか」

セルリエカが悲しそうになった。


「お父様、お母様。あのお話、もう十分に、差し替えられたと聞きますよ。準備は完璧です」


何?


話が理解できなくなったのは、俺の理解が追いついていないのか、単に眠気に襲われたか。


だが。

なぁ、セルリエカ。


お前は、大丈夫か?


セルリエカは、じっと、俺ではない宙を見つめてしっかりと笑んだ。

「私、王様を頑張っていますよ。しっかりと、励んでいます。だから、安心してください」


そうか。


さすがは、俺たちの自慢の可愛い娘。


***


「ねー、スピィーシアーリ」

「はい。セディルナ様」


「最近、つまらないわ」

「そう言われても」

巨大なドラゴンが、大きな山の上で首を傾げる。

その首には、妙な輝きを放つ人型の魔物が乗っかっている。


「ねぇ、イーギルドの封印、解けるのまだかしら」

「そう言われても」

スピィーシアーリは首を揺らしてみせた。

退屈しているセディルナ様を振り落す真似だ。振り落そうなどとは思っていない。ただ、揺らすことでセディルナ様が慌てるから、ちょっとした遊びだ。


案の定、セディルナ様は少し揺れ、ムッと怒ってしまった。

ダン! と足踏みするようにスピィーシアーリの首を蹴る。全く痛くない。


痛みが全くないと分かるセディルナ様は、自らの身体をドラゴンに変化させた。

スピィーシアーリの奥様セディルナ様は、スピィーシアーリの力の恩恵で、ドラゴンに変化する能力を手に入れたのだ。


見惚れる赤銅色のドラゴンになったセディルナ様は、ゴン、とスピィーシアーリに体当たりを喰らわせた。

さすがにダメージが。普通の魔物だったら圧迫死しているレベルだ。


「馬鹿馬鹿」

「八つ当たりしないで」


「やだー、暇なのよ暇なのよ」

「やれやれ」

スピィーシアーリは少し呆れる。


根っからの長命種であるスピィーシアーリは、ゆったりした時間が全く辛くないし、時が来るのを待つのもあまり苦にならない。

だが、セディルナ様は本来は長命種ではない。スピィーシアーリがその能力を持ち、セディルナ様が同意したのでスピィーシアーリの種族に鞍替えした。つまり、寿命はぐっと延びたが、長命種には不向きな事に、非常に飽きっぽい性格のまま。


「でも、あまり僕たちが動いてしまっては目立つよ」

「分かってるわよ」


「人の姿で移動して、サァサクィアラと話に行くのはどうだろう?」

「良いけど、空飛んだらすぐなのに、歩くと数年かかるって言うのがバカみたい」


「暇なのと、コツコツ歩くのとどっちが良い?」

「悩む」


不貞腐れて地面に伏せる姿を、スピィーシアーリはクスクスと笑う。

優しく告げる。

「決まったら教えて。待ってる」


悩む時間だって、たっぷりある。


スピィーシアーリもセディルナ様に並んで地面に伏せるようになる。

その姿勢で下界を見やる。


眼下に広がるのは魔族の領域。

スピィーシアーリが治めている世界。


***


前の魔王様やノクリア様は。

息子たちを酷く案じながら、何もできない事を悔やみながら。結局、封印を解けずに寿命で亡くなっていった。


ルディアン様は封印されたまま。

その際、ルディアン様はイフェル様を取り込んでしまった。イフェル様は完全に人間ではなくなったが、その結果、ルディアン様と同じに生き残ってもいる様子。


イーギルド様も封印を受けたまま。

だけど、ある程度の会話はできるまでに回復している。

イーギルド様の傍には、その妻サァサクィアラがずっとついている。長命種が幸いして、ずっと傍で見守っている。なお、会話がままらならなかったうちから、夫婦の契約印で、気持ちのやりとりは可能だった。

今では、『長命種の自分がもっと大人になった姿を見てもらえる』、とサァサクィアラも前向きにとらえているようだ。


ゼクセウム様は、亡くなった。

人間に望まれて王となり、かなり大きな国を作った。

その国は今も、人間の領域で残っている。珍しくも魔族に好意的な人間の国だ。

そこでは、ゼクセウム様を初代の王と呼び、ルディアン様たちを神様などと呼んでいる。単に好意の表れである。


リィリア様も、亡くなっている。

ノクリア様がそうしたように、リィリア様も、自分の種族を受け継ぐ女児を一人産んだ。

その後に、男児を一人。夫ソライテンの能力を保つ者だ。

リィリア様は、子を2人しか望まなかった。『あの子はあの子で、たった2人だけ、充分に愛情をかけたいとか思ったのかもしれない』とは、セディルナ様の推察。


リィリア様の夫ソライテンも、長命種ではなかったから、魔王ルディゼド様と同じような時期に亡くなってしまった。


***


皆に後を託された。

セディルナ様もいてくれる、守るべき世界。


待ち続ける。


どちらが先に、動くだろうか。

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