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18.移動

俺の、意識が途切れるほどのギリギリの状況を話すと、妻イフェルは、顔色を変えた怖い表情でこう言った。

「無理しないで。町のために使っている力を、回収して」


これに、娘のセルリエカが驚いた。

「お母様、それでは、皆さんが・・・」

「お父様の方が大事なの」

娘の動揺に、妻イフェルがキッパリと告げる。

娘のセルリエカは目を丸くした。じっとイフェルを凝視している。


イフェルは途中で視線を娘から外し、俺に近寄りじっと目を見つめて言った。

「良いのよ。私は、人間よりも、あなたとセルリエカが大事なの。良いのよ」

「・・・分かった」


ホッとした。正直嬉しかった。

妻は、俺とセルリエカを大事にしているが、結局未だに人間を捨てられないと思うところがあったからだ。

でも。

選ばれた。許可が出た。


俺は町に溶かし込んでいる力を回収し始め出した。


「お父様、お母様。でも、皆さんが・・・」

セルリエカが不安そうに、そして責めるような口調だった。


イフェルは再び娘に向かい、すこし屈んで視線を合わせた。

「セルリエカ。この町は、もう無理よ。お父様がこんなになってしまうなら、私たちはここを捨てないとね」

「・・・はい・・・」

「十分遊んだでしょう? 魔族のお友達も、人間のお友達も、たくさんできたわ」

「はい」

セルリエカが大きく頷く。


この町を作るにあたって、魔族たちが力を添えてくれている。

新しい町を作る理由を知っているからだ。セルリエカがいるからだ。魔族は人間より愛情深い。

魔族と人間のハーフであるセルリエカを受け入れる人間が現れたらと、セルリエカを思って願ってくれるからだ。

そんな魔族たちの協力なしでは、これほど大量にやってくる人間を支えられない。


だから町には、魔族たちも少し混じる。

最近の俺は、自分の維持に精一杯で、皆の状況を正しく掴めていないが、セルリエカが両方に親しみを持ち話しかけるので、セルリエカを介して少し交流も出ている。


人間については兵士CとDがセルリエカを率先してサポートしてくれる。その結果、人間との交流が広がっているようだ。


元の国にいた時は、皆がセルリエカに近寄りたがらなかった。

俺も、人間を警戒してセルリエカを迂闊に人間たちに近寄らせなかったが。


「大丈夫よ。お友達は、他の場所にいってもお友達なの」

「・・・はい・・・」

セルリエカは理解を示そうとしながら、俯いた。チラと俺を見るが、やはり俯く。


これは、『お父様の事を考えるとお母様の言う事が正しい、でも残念・・・』というところだな。

力を回収し始めた俺の意識はしっかりしてきて、イフェルに少し肩をすくめて見せた。

イフェルも少し首を傾げるようにして俺を見る。


「ごめんな、セルリエカ。限界なんだ。町づくりが楽しかったか?」

「はい・・・」

「ごめんな」

俺は近寄り、頭の上に手を乗せた。

コクリ、とセルリエカは頷いた。


「何が一番残念?」

とイフェルが優しく尋ねた。座り込むようにして、セルリエカの方の目線が上になるように。


セルリエカは不満そうに口をへの字に曲げてから、泣きそうになって告白した。

「石垣を、皆でつみました。好きな色を塗って、自分の名前を書いたの。まだ作ってる途中なのです」

「そう。ごめんなさいね。・・・でも、石垣とお父様と、一つしか選べないとしたら?」

「お父様です」

やはり拗ねたようにしながら、セルリエカは俺を見た。

俺は笑んだ。

まぁ、そりゃそうだろ。ここで石垣とか言われる筋合いはない。


「セルリエカ。他のところで、他のものを作れば良い」

「他のところって、どこですか?」

セルリエカが尋ねて来る。


俺とイフェルで顔を見合わせた。

「どうする」

「人間は、人間の領域でしか暮らせないわ」

「戻れって言うのか?」

「いいえ」

イフェルはキッパリと言った。たぶん、俺が言い出す前から、イフェルはイフェルで危険を感じて、どうすれば良いのかを考えていたのだろう。

「人間が多すぎるの。だからルディアンも限界を超えたのよ」

「まぁな」


「私が、初めにお願いしてしまったからよね。ここまで頑張ってくれてたなんて、ごめんなさい。本当にありがとう。ねぇ、皆を、人間の領域に帰すべきよ。人間って、たぶん、他の場所では生きられないイキモノなのよ。ここではルディアンが守ってくれたけれど、結局、慣れきれないんだわ」

「気が狂ってる人間が出てるって言ってたな」

空の色が変だとか言う理由で。


コクリ、とイフェルは頷いた。

「・・・今のうちに、自力で人間の領域に戻れるものは、戻すべきよ」

「戻れない人はどうするんですか、お母様」

セルリエカが尋ねる。


イフェルも困ったようになった。

「ねぇ。とにかく、『セルリエカの騎士』たちに相談しましょう」


兵士ABCDのことだな。


***


兵士4人は、揃わなかった。BとDが、正常ではなくなっていたのだ。

Bは虚ろな目をして、じっと空を見上げている。

Dは地面をガリガリと手で掘り、爪に食い込む土を食べている。


兵士AとCに正直に案内された俺たちは、正しく知らされた状態に驚いた。

妻イフェルも、不調らしいとは聞かされていたけれど、こんな風になっていたとまでは知らなかった。隠されていたのだ。


急いで、対策を話し合った。

俺の方も限界だし、守っていたつもりでも、人間は無事ではなかったのだ。


問題は、移動するにも、人間の4分の1が、兵士BとDと同じ様に、変になっている事だ。

もう、言葉に耳を貸さないのだそうだ。


「申し訳ありません。俺たちが、調子に乗って、皆をこの場所に導いたからだ」

兵士Aが悔やんでいた。

「仕方ない。誰だって同じことをしたさ。住む場所だってなかったんだ」

と兵士Cが慰めている。


セルリエカが悲しそうに兵士Dをじっと見つめ、気づいて俺に言った。

「お父様。爪から、白いものが生えています」

「ん?」

近寄って、動きを止めない兵士Dの手を無理やりつかみ、じっと爪の先を見る。

「・・・糸だな」

「糸?」

「どういうことですか」

「本当だわ、魔力が強い。これは何、ルディアン」


兵士AとC、イフェルが俺をじっと見る。

「・・・分析に強い魔族がいなかったか? セルリエカ、この町でお父様の次に頑張ってくれている魔族は誰だ?」

「ルトリールさんです」

「呼んできてくれ」

「はい」

「カール、お前セルリエカの護衛につけ」

「はい」


***


俺とイフェル、兵士AとBとD。そこに、セルリエカと兵士C、魔族のルトリールが駈け込んで来た。

ルトリールは半透明の身体を持つ、宙に浮かぶ種族だ。俺を見ると礼を取ろうとして、ハッと何かに気付いて顔を上げた。

なんだろうな。だが、この面々の前で言われたくない事も多い俺としては、目線で圧を軽くかけて不要な事をいうなよ、と態度で示すほかない。


「セルリエカ。ルトリールに見せろ」

「はい。あの、爪から糸が出ていて、これが何かお分かりになりますか?」

セルリエカが、兵士Dの傍に行く。


ルトリールはチラと見ただけで、ため息をつくような様子を見せた。

それから困ったように俺を見た。

なんだ?


「分かったところを教えてくれ」

と俺が求めるのを、まだ迷うようにする。どうも人間を気にしている様子だ。


「おい、兵士たち。何があっても、秘密を漏らすなんてこと、するなよ。今までの恩を思い出せ」

「分かりました」

「はい」

「ってことだ。言ってくれ」

『では、教えましょう。この人間は、魔力に感化されたので、魔族化が始まっているのです』


ん?


***


ルトリールは、知識の蓄積に長けた種族だ。

言い出したことが良く分からないので、きちんと俺たちが理解できるまで教えてもらった。


つまり。

俺は、息ができるように守ってやっていたが、それ以外にも土地からの影響というものは強くあり、個人差はありつつ、魔力を取り込んでしまい人間から外れだした者たちが出ている、という事だ。

人間の魔族化。

人間の枠を超えて魔力を持てるが、困ったことに、人間には毒なので、意識が混濁してしまい、気が狂ったようになるそうだ。


『人間の住む場所に戻れば、少しずつ回復するでしょう』


この説明を飲み込んだ俺たちは、やはり、この町は捨てるしかない、と結論付けた。


***


「せっかく、作ったのにな」

迎えに来てくれたドラゴン姿のイーギルドの背に乗り、空から地上を見て俺は呟く。


地上には、兵士Aを筆頭にして、人間たちが人間の領域へ戻る列。

町で少しだけ交流を持った魔族たちがサポートして守ってやっている。


「残念だけど、でも無駄では無かったと思うわ」

俺の隣で、俺の保護を受けながらイーギルドの背に乗る妻イフェル。

「セルリエカをきちんと知ってくれた人たちが、大勢できたと思うもの」

「そうだな」


一方、イーギルドから、思念が来た。

『このまま直接向かっても良いのですね』

『頼む』

と返事をする。


イーギルドが高度を上げる。

ヒュゥ、と少し風が音を出したので、イーギルドの背に乗っている大勢が色んな声を上げた。

魔族化しだして、もう普通には人間の領域には戻せなくなった人間たちだ。

普通の人間なら無理だっただろうが、魔族化の結果、イーギルドの背も耐えられるようになったのは、まぁ幸いだった。


なお、町に残さざるを得なくなった者たちもいる。

あの町の土に同化を始めていて、下手に動かせなくなっている者もいたのだ。


俺自身がギリギリだったから、町の人間にそんなものが出ているなど全く気付いていなかった。

イフェルもセルリエカも、気づいていなかった。

人間たちは、俺たちに報告するべきか、迷っていたのだ。守ってもらっている自覚があったからだ。


『ところで。こちらよりも、ルディアンお兄様本体は大丈夫なのですか』

イーギルドが思念で話しかけて来る。

『さぁな』


『お願いですから、一人で抱え込もうとしないでください』

『あぁ』


『人間たちが、やっきになって魔族退治を始めたと言います』

『そうだな。よく、現れるよ』


『お願いですから』

『そうだな。だが、イーギルド、お前だって』

と俺は告げた。

『自分が守りたいものが、一番大事だろ?』


多少の無茶だって、してしまうだろう?


***


無事だった人間たちは、人間の領域に戻っていった。


無事でなかった人間たちを連れて、俺と妻イフェルと娘セルリエカは、イーギルドに乗せてもらって、やはり人間の領域に飛ぶ。

雲の中。

高い山々に囲まれた、人間が気づいていない静かな場所に。


辿り着き、イーギルドの背から全員を降ろす。

四方はぐるりと山ばかりだ。ここは、魔族の一人が教えてくれた場所だ。

高い山々が障害となり、人間は、まだこの地を知らないでいる。

人間の領域にありながら、人間未踏の地なのだと。


空が青いと妻が嬉しそうに声を上げた。空気が美味しいなどと喜んでいる。


魔族化を始めてしまった人間たちも、空を見上げる。求めるように手を伸ばした者もいる。

キョロリと見回して、ペタリと座り込み、笑みを浮かべて地に伏した者もいる。

人間の領域に戻って来たと、混濁した意識でさえ気づくのだろうか。


おかしくなっていたはずの兵士Dがホワリと笑った。

「セルリエカさま。良い町になりますねぇ」


まともな人間も必要だと、志願してこちらについて来てくれた兵士Cが、セルリエカと共に、Dの様子に驚いた。

Dはそれ以上の反応は示さなかったが、Cはそれでも嬉しそうに笑んだ。

「ここは、住みやすい町になりそうだよなぁ!」

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