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15.新天地

俺はセルリエカと、妻のイフェルと合流した。

兵士CとDも一緒だ。

妻は彼らに感謝の言葉を伝えた。前国王である妻に、兵士たちは酷く緊張して直立不動で感激したように言葉を受けていた。

CとDは、俺やセルリエカよりも、人間のイフェルの方が怖いのか。

変な奴らだ。


***


人間の領域と、魔族の好む領域の中間地点。

俺たちは、のんびりと人間の国々を歩いてからそこに向かった。妻イフェルが、気ままな旅などした事が無かったからだ。


そもそも、セルリエカを王とし、俺たちは引退、と人間たちに告げたのはかなり本気でもあったのだ。

問題ないと判断できたら、分体をセルリエカにもきちんと残しつつ、俺たちはのんびりと世界観光するつもりだった。


それが、護衛CとDを連れての家族旅行になるとは。

まぁ、こう言うのも良いかもな。

CとDはセルリエカの良い遊び相手だし。


俺もセルリエカも、魔族である事を隠して、まるで完璧な人間のように過ごす。妻のイフェルが思わずといったように、はしゃぐ姿は新鮮だった。ずっとこんな風に、妻は過ごしたかったのだろうか。嬉しそうな様子に俺も嬉しくなる。


一方で、人間は勇者から甚大な被害を受けている。

加えて、魔王の怒りを買い一国を滅ぼされてもいる。

だから人間たちは暗い不安を抱えている。それが、旅していてよく分かる。


ま、俺の知った事じゃない。


***


俺たちがのんびり人間の国々を移動し、魔族領へと向かいはじめてしばらく行ったところで、上空から静かにドラゴン姿のイーギルドが舞い降りてきた。

「ルディアンお兄様」


兵士CとDが硬直したので、俺はついでに守ってやった。周囲に俺の力を混ぜて、感覚を和らげてやるのだ。

妻のイフェルは母ノクリアの縁からすでに俺たちに慣れている。だが普通の人間は、強者である魔族を見るだけで恐怖で動けなくなることも多い。加えて、イーギルドは俺とは違って、そのあたりの配慮にも慣れていない。


地に降り立った強大なドラゴンの姿でイーギルドが話しかけようとして来るので、一応、俺は兵士たちに配慮してやった。

「人間の姿になれるか? こっちの人間に紹介してやる」

「分かりました」


砂嵐が巻き起こり、イーギルドが人間の姿になる。同時に、背中からイーギルドの愛妻が顔を出し、それから怖そうにまた隠れた。この夫婦は本当にいつも一緒だよなぁ。愛妻は、人間のCとDを警戒しているようだ。


「イーギルド叔父様、サァアクィアラ叔母様」

俺とイフェルの間にいるセルリエカが、両手を上げて喜んだ。

イーギルドがセルリエカに対してひざまづいて笑みを浮かべた。愛妻がイーギルドの背中をそっと握りつつ、嬉しそうに顔を出して、セルリエカに対して微笑んだ。


「イーギルド。サァサクィアラ。こっちにいる人間の男二人は、セルリエカの護衛をしていた者だ。共に連れていく事を認めた」

俺の言葉に、イーギルドが見定めるように鋭い視線を二人に与える。サァサクィアラはまた怖そうにイーギルドの背に隠れた。サァサクィアラの種族も、強者全てを人間に殺されて今に至っている。正直なところ、恐れもあるが嫌悪もあるのだろう。


「すまないが、大目に見てくれ」

と、俺は告げた。

イーギルドの背に隠れたサァサクィアラがピクリと震えたようで、イーギルドが少し眉を潜めて己の背に隠れる愛妻を見ようとする。

サァサクィアラが少しだけ背中から顔を出し、固い顔をして、コクリと頷いた。

声が出ないのは仕方ない。力の差があまりに開いているからだ。

イーギルドが、愛妻の態度を俺にフォローしようと口を開こうとしたが、思念の方で『構わない』と伝えておく。


ちなみに、兵士CとDは、イーギルドには完全にビビっていたくせに、人間の姿になって現れたサァサクィアラに頬を染めていた。

怪訝に妻に視線を投げかけてみれば、妻イフェルはおかしそうにクスリと笑った。

「サァサクィアラちゃんは、とても可愛いわ。隠れる動きも庇護欲をそそりそう」

「そういうもんか」


俺たちの会話に、イーギルドがスッと目を細めて兵士たちを睨んだ。威嚇だな。


「大丈夫だ。アイドル扱いみたいなもんだろ。お前らも分かってるよな。こんなことで命を落としてくれるなよ」

と俺はイーギルドに話しつつ、兵士たちを窘めた。

兵士たちの拗ねたような顔に俺は呆れる。

「お前らなぁ。俺の保護が無かったら失神してるぞ」


兵士たちは驚いたようだ。

どうやら俺が守ってやっていると知らなかったらしい。さすがは人間。


***


イーギルドは、俺たちを迎えに来てくれたのだ。背に乗せて、目的地まで一っ飛び、と。

しかし徒歩で行くことにした。イーギルドが強者すぎるので、背に乗って移動、というのに兵士たちが耐えられなさそうだからだ。


「先に、少し町の土台を整えておきましょうか?」

とイーギルドが申し出てくれたので、頼んでおく。


イーギルドからやっと離れたイーギルドの愛妻が、セルリエカに町の希望を聞いて、二人でキャッキャと盛り上がる。この二人は互いに弱者で、ちょうど良いのだろう。見ていて微笑ましい。

そのうちセルリエカはイフェルを呼び、3人になって盛り上がる。

なお、イフェルは人間だが、母ノクリアと懇意というところからの縁で、イーギルドの愛妻サァサクィアラも、イフェルだけはきちんと受け入れている。


「俺たちの家も、あるのかな」

「欲しいよな」

と、兵士CD同士が二人でコソコソ話している。


「お前ら、希望があるなら俺に言っとけ」

「え、本当ですか!」

「どんな希望でも良いんですか!?」

お前ら、俺が強者だと分かってるか? すっかり態度が気安い。

まぁ、良い。お前らは特別扱いだ。

「ありえないのは無理だが、叶えられるのは叶えてやる」

一から作る町だからな。

俺の、呆れながらの好意的な返答に、CとDが嬉しそうに目を輝かせる。


***


そうして。

俺たちはやっとたどり着いた。


先についていたイーギルドたちが、ある程度土台を作り上げていてくれた。

すでに、俺と妻とセルリエカの簡易的な家と、兵士CとDの簡易的な家がある。


そして、セルリエカの希望により、大きな花壇と大きな噴水が完成していた。

なんというアンバランスな世界だ。


とはいえ、妻とセルリエカは大喜びで、人間の国を移動する途中で購入した花の種や苗を大切に植え始めた。

兵士たちは俺に、「まず畑を作りたい!」と訴えてきた。

あぁ、好きに作ると良い。


俺は空を見る。俺が新しい町を作ると知って、俺たちの様子を見に集まっている魔族がいる。

町にも、土の中にも、俺たちの様子を見に、魔族の領域から足を延ばしてきた魔族たちの気配がする。


ここに、俺たちの世界を造ろう。

楽しみに口角が上がっていく俺に、妻のイフェルがそっと近寄ってきた。

「ルディアン」

「なんだ」

と顔を見て、俺は驚いた。

妻の顔色が悪くなっていたからだ。


***


「どうした」

「ごめんなさい。苦しいの。空気が、重くて」

本当に辛そうで、俺は妻を支えながら、急いで周囲から兵士CとDを見つけ出す。


彼らも、急に辛そうに動きを止めていた。

「・・・場所か? それとも、魔族が集まっているのが原因か?」

話しかけながら妻を抱き留める。

冷や汗を浮かべだしている。

急いで、周囲に俺の力を溶け込ませる。場所にしろ、魔族が集ったせいにしろ、つまり、人間にとって何らかの圧迫を外から受けているというのなら、俺の力で保護してやればマシになるはず。


俺によりかかっていたイフェルが、ふと顔を上げた。まだ顔色が悪いままだが。

「・・・何かしてくれたの? 空気が軽くなった」

「そっか。分かった」

「セルリエカは大丈夫?」

「セルリエカは大丈夫そうだ」


「お父様! 兵士さんたちが!」

「分かってる」

兵士たちも保護してやらないと。


***


「すみません。ルディアン様」

「ありがとうございます」

兵士たちも困惑したように、俺にお礼を言いに来た。


俺とイフェルも、セルリエカも困っている。


人間と魔族の領域の中間地点。


だが、この中間地点ですら、人間は適応できないようだ。

「思うのだけど、人間が住んでいないという時点で、人間には住めなかったのかもしれないわ・・・」

気落ちしたイフェルがそう言った。


「でも、せっかく、こんな、立派な噴水まで作ってあるのに・・・」

と兵士Dが申し出て来る。兵士Cも悲しそうだ。

セルリエカは名残惜しそうに、チラチラと、すでに花の種をたくさん植えた噴水周りの花壇を見ている。


ちなみにイーギルドたちは、俺たちに気を遣って少し離れたところに行ってくれている。

妻のイフェルを含めて人間が、この場所の魔力の強さに耐えられていないと分かったからだ。


「イフェル。もし、人間が無事に住める領域が、今人間が暮らしている領域だとしたら」

俺の言葉に、イフェルは俺を見つめて来る。

「つまり、今人間が暮らしている場所以外では、人間は暮らせないということになる」

「そうね。その可能性は高いわ」


つまり、人間の領域に戻らなければならない、という判断が普通ではあるが。


「圧迫さえ問題ないなら、他は構わないか? 今は、俺が保護している。無事にすんでいるだろう?」

「ええ、今はあなたのお陰で大丈夫よ。でも、それはルディアンの負担にならないの?」

「これぐらい問題ない」

「でも・・・兵士たちもいるわ。彼らを軟禁するような状態になるわよ。保護している範囲でしか、彼らも動けなくなるのだから」

「この町ぐらいは保護してやれるんだがな。どうする、お前ら。まぁ、無理だったら仕方ないが」

「・・・せっかく来たから、もう少し試したいです。例えば、空がこんな色していて、地面もこんな色している町でも」

と兵士Cが言った。

「俺も、自分の家を作れるって楽しみで。せめて、作ってからにしたいです」

と、Dも言った。


***


せっかく、町の土台ができていた。


休める場所は必要だと、魔族たちが簡易的な家を先に作ってくれていたし、イーギルドの愛妻のサァサクィアラは一族の協力を得て、セルリエカに立派な噴水を作り上げてくれていた。


セルリエカと妻はすでに花壇に種をまいたし、兵士たちも、畑を作って食べ物を作ろうと、場所を決めて耕し始めていた。


俺なら、この場所の魔力から保護してやることができる。

それぐらい何という事もない。


だから、計画通り、ここに町を作っていこう。


***


ところで。俺は、別れた方の兵士AとBに、来るなら迎え入れてやる、と話していた。


そして、人間たちは現在、不安と混乱の絶頂期にいる。

複数の国が勇者によって崩壊。魔王の怒りも買っている。


そんな中で、俺の町の噂が急激に広まってしまった。

話の発生源は兵士AとBしかあり得ない。


好きなように町を作り始めて3か月後。

どうやって見つけ出したのか知らないが、急に、人間たちが、俺たちの町に沢山流れ込んできた。

戦争をふっかけてきたわけではない。ただただ、住む場所と強者の保護を求めていた。


俺たちは驚いた。

だが、来るなら迎えてやるとも言っていたし、何より、妻のイフェルは、驚きながらも嬉しそうだった。

妻は、結局自分が人間であることを捨てきれないのだ。人間も魔族である、と大きくくくり直すことができていない。


「ねぇ。駄目?」

とイフェルに頼まれると、俺は弱い。

結局、庇護を求めてやってきた人間たち全てを受け入れた。


5か月目に、兵士AとBもたどり着いた。わざわざ俺に会いに来た兵士ABは、まるで対等のように笑って言った。

「呼び寄せるのは禁止って言っておられましたから、俺たちは、呼び『寄せ』てなんかないです。呼び『かけ』はしましたけど」

「それに国が潰れて安心して住める場所がないんですよ。セルリエカ様たちの町なら、安心だと思いました」

「お前らなぁ。この町、すでに人間の国一つの3倍ぐらい人間がいるぞ? お前らのせいだな」


楽しそうに、兵士とイフェルとセルリエカが笑っている。

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