14.判断
2話目
俺は分体で、セルリエカと兵士4人を前に、切り出すことにした。
今は夕暮れ。
だが、人間の町から外に彼らを誘導していた。
洞窟の外に見張りにと動いた兵士Bも呼び止めて、全員に向かう。
「重大な話がある。イフィルの国が、崩壊した」
俺の言葉に皆が顔をこわばらせた。とはいえ、俺が避難させていたのだから、ある程度予想も予測もついていたはず。
「崩壊というのは、どういう具合なのですか」
「他国と同じだ。城も崩れた」
「お父様と、お母様は!?」
兵士Aの問いに答えた俺に、セルリエカが詰め寄る。
俺はセルリエカを撫でてやった。
「安心しろ。きちんとお母様も守って連れ出したから。すぐ会える。大丈夫だよ」
「お、俺たちの家族は!?」
「勇者シマザキダイチがした事ですか!? どうして守ってくれないんですか!?」
兵士たちがざわついている。
俺は傍にセルリエカを確保しつつ、事実を述べた。
「勇者は人間の国を壊した。最後は俺と戦って、姿を消した。とはいえ、勇者の攻撃で城も地下から崩れた」
「どうしてっ」
「勇者を召喚したからだ。それさえなければ、事態はこんな風に変わらなかった。変えたのは人間だ」
「皆は、家族はっ」
「分からん」
兵士たちの家族が誰かなんて、俺が把握しているはずないだろう。
だけどな。
「建物が崩壊し始めた時点で、皆逃げ出した。生き延びている可能性はある。どこに逃げたかまでは知らないが」
「イフィルを、建て直されますよね!?」
「いいや」
俺の返事に、セルリエカが驚いたように視線を上げた。
「どうして、守ってやらなくてはならない? 人間の作った国だ。・・・お前たちはセルリエカを守ってくれた。浅い考えで、浅い善意で、浅い人間の倫理観から出た行動だったとしても。お前たちには感謝してる。だから、事実を告げようと思う」
俺の言葉に、皆がじっと俺を見つめる。
俺は言った。
「あの勇者は、セルリエカを殺そうと呼ばれたんだ」
「え・・・」
セルリエカが顔色を変えるのを、背中を撫でてやる。
「大丈夫だ」
セルリエカを宥めるようにして頭にキスを落とす。
「大丈夫だ。セルリエカは、俺と、お母様の、可愛くて大事な娘だ。魔族の皆はお前を好いてる。守ってやる。大丈夫だ」
セルリエカが泣きそうに顔を歪めた。震えるのを抱きしめる。
本人の前で言わない方が良かったのかもしれない。
だけど、結局これは事実だった。
そして、人間にも、俺はセルリエカに味方でいて欲しいと思っていた。ごく少人数になったとしても、皆無よりはその方が良い。全てはセルリエカのために。
兵士たちの前で、事実を告げ、セルリエカの動きさえ、俺は兵士たちに知って欲しいと思っていた。
人間の口から、人間の悪口をセルリエカに聞かせたかった。
そうすれば、少しは感情の整理がつくのではないかと考えた。
俺は泣きつく娘を宥めながら、兵士たちを見た。
動揺しているのがよく分かった。俺が見ると、視線を彷徨わせた。
兵士Cが、口を開いた。
「俺たちも、同じだって、思っていますか」
「いいや。違えばいいのにと思っている」
聞かれると分かっていたから、俺は素直に告白した。
他の兵士は無言だった。
混乱さえしているだろう。
「・・・人間は、勇者を召喚した。勇者に、魔王を倒せと言った。無理なら、俺を倒せと次に言った。それから、最後にセルリエカを殺せと言った。セルリエカなら簡単だろう、そうしたら元の世界に帰れるとな。・・・それでな。あの勇者は、怒ったんだよ。勝手な人間どもだ、滅びれば良いと」
俺は話しながら、様子を見る。
「あの勇者は、人間どもに怒ってたんだよ。だから基本的に人間の国ばかりで問題を起こし続けた。最後に、印象の最悪だった国々を綺麗に潰してな。あいつは強いから、面白いように進めたんだろうな」
「・・・話をしたのですか?」
「まぁな。最後は戦ったといっただろ?」
「・・・」
兵士Dは口をつぐんだ。どこか理解できていない顔だ。
まぁ、実際には、勇者が黒ネコに一方的に聞かせたのだ。スピィーシアーリも話を補足してくれた。黒ネコは『ニャア』しか言えないから、スピィーシアーリの補助は有難かった。
「・・・セルリエカ様を、殺したいなんて言うヤツと、一緒にしてほしくないです」
ポツリ、と兵士Aが言った。
兵士Bが頷いた。
兵士Cも頷き、兵士Dが、
「同感です」
と答えた。
セルリエカが涙を流しながらも、兵士たちを振り返った。俺に抱き付いたままだがな。
「王様なのに」
「そうです」
「セルリエカ様はとても可愛い良い子です」
「俺たちを一緒にしないでください」
ふわぁ、とセルリエカは声を上げ、新しい涙を流し出した。
手でぬぐいながら、
「ぁりがとうございま、す」
と答えている。
俺は頭を撫でてやる。
「良かったな」
俺はセルリエカに話しかけた。本心から。
「安心したよ。良かったな。こういう人間も、いてくれてさ」
「ルディアン様。あの。これからどうされるんですか」
兵士Bが聞いてくる。
俺は兵士1人1人の顔を見てやってから、こう告げた。
「好きにしろ」
まるで見放されたような顔になる面々に、言葉を足す。
「これから、俺は娘を連れて妻と合流する。イフィルの国は潰れたから、もう王でもなんでもない。だが俺は魔族で妻は人間。セルリエカはそのハーフだ。魔族と人間の領域の中間地点に町を作る」
「町を?」
不思議そうにセルリエカが尋ねる。手の平で濡れた頬を拭いてやりながら、俺は笑んだ。
「そうだ。魔族の領域は、人間のお母様には強すぎて住み辛いからな。中間地点ならまぁなんとか」
「人間の場所ではいけないのですか?」
「守ってやってたのに恩を仇で返すような種族の場所で生きるのはもう嫌だからな」
「でも・・・私の半分と、お母様は人間です」
「だからちょうどいいじゃないか。両方の中間の場所は、今のところ誰も住んでいない辺境の場所だ。好きな城を作って一緒に暮らそう? お前の好きな町にしよう」
「えっ」
俺の言葉に、セルリエカが嬉しそうに目を輝かせた。
「噴水でも何でも、初めからやろう。大丈夫だ。住みたいという魔族も住むことになるから、皆が協力してくれる」
「えっ、ちょっ、待ってください、我々は置いてきぼりですか!?」
まるで悲鳴のようにAが声を上げた。
「そうは言ってない。好きにしろと言っただろう」
俺の答えに、セルリエカが嬉しそうに身体を揺らして、兵士たちを見やる。
「お父様! 皆さんも一緒でも良いのですね!?」
「そうは言っていない。好きにしろと言っただけだ」
親子の会話に、兵士たちが情けなさそうな顔になった。
どっちだよと思っているんだろう。だが、初めから好きにしろと言っているだろうが。
「セルリエカ様についていっても、良いのですか」
兵士Cが慎重に確認してきた。
「敵になるなら来るな」
「敵になりません。お守りしてきました!」
「家族も、呼んでも良いのですか!?」
「セルリエカを害するようなヤツは来るな」
「そんなはずありません!」
「言っておくが、俺は、妻と娘のための町を作るんだよ。邪魔するな。協力するなら迎えてやるが」
「邪魔などしません、協力します、ついていきます。だから家族もー・・・」
この流れは予想していた。だから、告げた。
「悪いが、呼ぶな」
あっけにとられた面々に、言い渡す。
「来るなら構わない。だが、呼びよせるな。向こうが来るなら、入れてやるし、俺たちの町だから守ってもやる。だが、本人が自ら判断して来る者だけにしたい。もう、勝手に勇者召喚など企むようなヤツは御免だ」
「お言葉ですが、召喚なんての、俺たち下っ端ができるわけないですよ」
兵士Bが俺に言い聞かせてくるようだ。
「どうかな。そうでなくても、良いかお前ら。俺と妻と娘のための町だ。魔族も住む。共存できる人間しか暮らせない」
「あ・・・」
そっか、と兵士たちが顔を見合わせる。
やはり、人間だけあってどこか馬鹿だよなと、なんだか俺はしみじみとした。
話を聞いているくせに、あんまり聞いていないところがある。理解が浅い。判断が甘い。
「噂になって、共存できる人間なら、迎えるのですか」
兵士Cがなぜか挑むように聞いてきた。
「そうだな」
「分かりました」
深く、兵士Cが頷いた。
お前、兵士4人の中で、一番見どころがあるような。兵士C。名前はカーリ。
***
「人間の招いた勇者だが、人間が勇者の怒りを買った。だから勇者に滅ぼされた。人間は禄でもないという証明だな」
「お言葉ですが、魔王様も国を潰したじゃないですか」
「それ、リィリア様を攫おうとした結果だろ」
「でも正直、とばっちりです。俺たちが召喚したワケじゃないんですよ」
「そうですよ。まとめて人間と括って欲しくないです」
俺と兵士の会話に、セルリエカは困ったように首を傾げる。
翌朝、俺たちは洞窟の前でそれぞれ別れの挨拶をした。
俺とセルリエカは勿論一緒だ。
兵士AとBは元々懇意な友人同士だ。
この2人は、逃げているはずの家族を探しに、人の国々に戻る事にした。
セルリエカが寂しそうになったのだが、こいつらは正直にも打ち明けた。
「セルリエカ様は俺たちのことを分かってくれてます。でも俺たち、他の魔族と一緒に暮らす自信までは持てないんです。それに、俺たちにも家族がいるから、探さないと。向こうだって俺たちを探しているはずだから」
兵士Cは、何かに挑戦するかのように、セルリエカと俺に同行すると決めた。
確認してみれば、
「自分がどれだけいけるか分からないので試したい」
という、少し俺には掴めない理由だった。
とはいえ、
「無理だったら去ります」
と言ってきたので、なるほど、とも分かったような分からないような。
俺は強いので、弱者の曖昧な判断がイマイチ腑に落ちない。
まぁ良い、兵士Cの挑戦だ。それで新しい境地へ導く事だってあるはずだ。
そして、『無理だったら去っても良い』と聞いてから、兵士Dも同行を申し出た。
なんでも、まずは場所を押さえときたいというのが本音らしい。
さすがは人間の考える事だ。
俺は、餞別代りに、AとBに、ついでにCとDにも教えてやった。
「今までは、魔族は人間に遠慮をしていた。配慮してやってたんだ。だがその遠慮が無くなる。・・・つまり、魔族は魔族で活性化する。気に入らない事があればそのまま行動する」
俺も含めてな。
「お前たちはしばらく過ごして少しは情を持っている。決して自ら危険な行いをするな。魔族を害そうとするなよ。この世は魔族が支配している。強者にたてついた弱者は、普通に考えて消されるものだろう?」
真面目な顔で、AとBが頷いている。
「他の人間どもに巻き込まれるなよ。簡単に心変わりするなよ」
俺は、お前たちもセルリエカと来てくれてもいいなと期待していたぐらいなんだ。
「妙な場所には近づくな。これから世界には人間にとって禁忌の領域が増える。魔族から人間へ線引きを行うからだ。魔族の敵と判断されるような行動はするな。お前らは馬鹿なことせず、穏やかに平和的に、協力的に過ごしてくれ」
「・・・はい」
神妙な返事が来る。
俺は頷く。
俺は内心だけで彼らに告げ足した。
お前らは、俺に喰われるような生き方しないでくれよ。




