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クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
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非日常への扉1

 そしてあっという間に昼休み。克美はもう大分このクラスになじんできたようだ。

「野見山さん、一緒にごはん食べよー」

 女子グループから声をかけられた克美は驚いたことに誘いを断り、広人の席近くにイスと弁当を持ってきた。

「ウチも仲間に入れてくれん?」

「おお!!もちろんだとものっち、俺たちと一緒に広人を囲もう!」

 すでに広人の机左側で弁当を開いていた親友がテンション高めに受け入れる。広人も卓上のスペースをあけ、克美に着席を促した。

 広人は机に対して横を向いて弁当を食べている。よって左側に親友、右にかえで、目の前に克美が陣取る形になった。

「よか?」

 克美がかえでに聞く。かえでは静かにうなずいた。

「ありがとう」

 また笑う。いつも笑っているな克美は。

「うん!みんなが優しくしてくれるけん、すごいうれしかよ。ヒロくんはクールな娘が好きと?」

 小首をかしげて聞いてくる。いきなり話題が変わったので、広人は多少驚いた。

 かえでと親友がいるこの状況で下手なことを言うわけにはいかない。広人は言葉を選ぶようにして、なんとか答えをしぼり出した。

「そう、だな…クールな娘も好きかな」

「『も』~?『も』ってな~ん?」

 克美の目がつりあがり、不機嫌そうな声で絡んできた。なんだ、この迫力は……っ!!?助けを求めてかえでを見るが、なぜか目を合わせてくれなかった。

「広人の守備範囲はかな~り特殊だぜ」

 友がここぞとばかりに話に割り込む。おい、何言うつもりだ。

「髪は長くても短くてもいい、性格は明るくてもクールでもいい、条件は唯一つ!貧乳であることっ…」

 さすがに手が出たね。野郎は俺の一撃を顔面に受けると、もんどりうって倒れこんだ。だ・れ・がそんなこと言ったぁあ!!

「ふっ…幼稚園からの腐れ縁をなめるなよ。こちとらお前の好きな色、季節、曜日から女の好みまでばっちりじゃい!!」

 バカは口元をぬぐうと体を起こし、手招きをしてきた。いいだろう…広人もそれに応じて立ち上がる。かえでが静かに机を引いた。

 周りのクラスメイトたちはそれを見て「お、待ってました!」「今日はやらないのかと思った」と騒ぎ始めた。克美は展開についていけずにキョトンとしている。

「こいっ!!広人」

「おうっ!!」

 広人が右自然体から一気に踏み込む。伸びてくる友人の左手の下から右手を差し込み、互いに襟をつかんで引き付けた。

「お前の好きな色は…緑っ!」

 バカは右後方足さばきで動きながら俺の左手を右手で掴む。まずい、引き手をとられた。

「…正っ解!」

 即座に左手を下げ、広げながら上へ。互いに手首を握る形になる。

「季節は春で、曜日は木曜!!」

 俺の頭を下げさせようと、襟を持つ手に力が入る。

「お前は夏で、日曜だったか?」

 左方向に動いていなす。さらに襟をつかんでいた右手で相手を崩そうと後ろに押した。

「おうよ!」

 右に動かれ逃げられる。二人はがっしり組み合ったまま、こう着状態へと陥った。

「な…なんしようと?」

 野見山克美がポツリと呟く。もっともな意見だ。傍観していたグループの一つが説明する。

「これは『ケンカ四つ』っていって、二年七組の名物のひとつなんだよ」

「そ、そうと?」

「そうそう、毎日ああやってじゃれあってんのさ。あの二人は」

「お、そろそろ決まるぞ」

 野見山克美は広人たちに視線を戻した。

「幼稚園の先生、小三のときの吉村さん、中一のときの香山さん……みんな胸小っちゃかったろ…がっ!!」

 体が左前へと引き付けられる。広人は両手をつっぱると、背中が丸まらないように注意して腰を落とした。

 左組み払い腰の回転が止まる。

「自護体っ!?やべ…」

 広人は技を防がれ、無防備となった親友の軸足を刈り払った。本当に投げてしまわぬよう、手首を返して体を支えてやる。

 そして一言、

「幼稚園の先生以外、年齢的に小さいだろうが」

 二人は同時に手を離した。そのまま何事も無かったかのように席へと戻る。

「く…今日も広人の勝ちか…」

 服装を正しながら友人が呟く。本気でやってないくせに、よく言うよ。

「おいおい、お前だって本気出してないんだから……条件は同じだろ?」

「……まあ、な」

 かえでが「お疲れさま」という眼でこちらを見た。苦笑で返事をしておく。

 広人は再び箸を手に取り、弁当をかっこむ。次は体育だから、早く食って着替えないとな。もうみんな着替え始めているし……

 普通、学校で着替えるときは男女に分かれるものだがうちのクラスは違った。男女問わず、クラス全体の仲が良いので分かれることなく着替えるのだ。

 当然、今日転校してきたばかりの野見山克美はそのことを知らない。説明しなければ。

「へー、そうなん。同じ教室で着替えよるん」

「着替えてるところジロジロ見るようなやつはこのクラスにいないからな!のっちも安心して脱ぎたまえっ!!」

「ハァハァ言ってないで早く食え」

 広人は友人をグーで殴り、空になった弁当箱を包みなおした。

「あぁ!待てよ広人、親友の俺を置いて先に着替えるなよ!」

 うるさいな。待っててやるから急げ。ほら、克美も着替え始めてるじゃないか。

 右から聞こえる衣擦れの音に反応して目を向けると、


 克美の下半身が飛び込んできた。

 

 言い訳をさせてくれ。うちの女子は同じクラスで着替えることは平気だが、男に見られることに羞恥心を持っていないわけではない。

 だから体操服に着替えるときはズボンをはいてスカートを下ろし、上着に頭を入れてブラウスを脱いでいるのだ。克美はそれをしていなかった。これがひとつめ。

 ふたつめは俺がまだイスに座っていたということ。

 そのせいで視点は克美はブラウスによって隠されていた純白青地の『しまパン』からくびれたウエストライン、女性らしい丸みを帯びたふとももからひざ、靴下へと吸い込まれるふくらはぎまでを視界に捕らえており、男はそういう光景を見ると目が離せない習性を持っているので、形容できるくらいしっかりと見てしまったのは仕方のないことだ。

「ん?どうした広人」

 俺が見てしまい、克美がズボンを履くまでおそらく二秒と経っていない。弁当箱を包みなおしていたこいつは見ていなかったのであろう。

「?どうしたと、ヒロくん」

 克美はズボンのゴム部分に指を入れたまま、いたって普通に聞いてきた。

 え?おかしいの…俺?男が思っているほど女の子って見られても平気なの?と、なぜか広人は自分に自信がなくなってきた。

 俺の悩み顔を見た克美は教室を見渡すと、上着をはおりブラウスを脱ぎ始めた。何?下は見せてもよくて上は駄目なのか?

 じろじろ見るのもあれなんで、とりあえず目をそらす。左を見ると、なじみの男友達はすでに着替え始めていた。こいつ、脱ぐの、早い。

 後で覚えとけよこの恩知らず。広人はシャツのボタンに手をかけた。

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