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クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
18/20

非日常での異例3

「ちぃ…」

 津波のように押し寄せる斬撃と追い詰めるような足捌きで動きを制限され、思ったように動けない。目の前のDangerの文字が広人を焦らせる。

 槍を防ぐので精一杯でスクリーンを見る余裕が無い。サブパイロットもいないのであの技がいつ来るのかわからなかった。

 ヘイトが左腕を伸ばした。即座に反応し、左へ飛ぶ。

(…よしっ!!)

 かわしたと思い、油断した。右手の槍がナイトスフィンクスのわき腹に突き出され、装甲を削った。跳躍を妨げられ、失態に気付く。

 宙に浮き、回避不能な状況でヘイトの仮面がこちらをにらんだ。

(しまっ…!?)

パァンッ!!

 やられると思った瞬間、翠色を帯びた白い光がヘイトの頭部を直撃した。光球がはじけ、ヘイトの機体がグラつく。集中が乱れたのか、左手からは霊子が赤い光となって散った。

 広人は着地すると、その場から急いで飛びずさった。ヘイトの動きに注意しつつ光球の飛んできた方向を見る。視線の先には、ボロボロの状態で杵を構えたホワイトラビットが見えた。

「克美!かえで!ありがとう、助かった」

 今の援護が無かったら確実にやられていただろう。広人は冷や汗が流れるのを感じていた。

「…………」

 かえでが『……できた』とこちらを見ていた。野見山克美は大きく息を吐き、その視線に応える。

「うん、よかったぁ…」

 『月兎(ムーンラビット)』。

 球体の霊子を高速で発射する、広人を助けるために生まれた技。球足が速く、狙いもつけやすいので援護射撃に向いている。ヘイトの技が不発に終わったのはうれしい誤算だった。


 一方横槍を入れられ、ナイトスフィンクスに逃げられたヘイトは憤怒していた。

 握り締められた槍の柄が、メキメキと音を立てている。殺気のこもった赤い霊子が周りの空気をゆがませた。

 ヘイトが顔を上げ、ホワイトラビットを睨み付ける。

 克美の心臓がドクンッ……と、はねた。圧倒的な殺意。憎悪。

「う…あ………っ!?」

 これまでに経験したことの無い威圧感にのまれ、知らず知らずのうちに克美は膝をついていた。

 ホワイトラビットへ向かってヘイトが身をかがめる。紫水晶のように透きとおる刀身に、白い乙女の姿が映った。

「やらせるかっ!!」

 ナイトスフィンクスが突きの斜線上、ヘイトの前に立ちふさがる。割り込んできたナイトスフィンクスへ向けて、ヘイトが槍を振るった。広人は両腕を交差させ、紫の刃を受け止める。

「……くうっ!?」

 小刻みに揺れる衝撃。

 ガリガリと不快な音を奏で、激しい怒りのこもった刃はナイトスフィンクスの盾を腕ごと突き破り、胸部、開閉ハッチにまで達した。

(また、威力が上がっている!?)

 このとき、ヘイトは機体のすべての霊子を攻撃力にまわしていた。これはこちらの攻撃も相手に大ダメージを与えるチャンスだということなのだが、基礎知識もサブパイロットもいない広人に知る由は無い。

 ナイトスフィンクスから槍が引き抜かれた。ど真ん中から貫かれた左腕がダラリと下がる。右腕も盾が半分ほどえぐられていた。

 ヘイトが槍を脇にかかえた。

 この突きを受けたら、死ぬ。直感がそう告げていた。

「…っああぁああっ!!」

 何も考えず、広人は右手を突き出していた。

 逃げたい。

逃げない。

 見捨てて。

見捨てない。

 自分が一番大事だ。

そうだな。

 だったら!?


「だから俺は死なないし、逃げもしない!!」


 ガヅンと音を立て、刃がセルダムに突き刺さった。

 つかの間の静寂。交わる二つの影。

 そのうちのひとつが腹部から火花を散らし、一歩、二歩と後ずさる。

 ヘイトは足元を見下ろした。赤黒い装甲を貫き、金色に輝く短剣が深々と突き刺さっている。



 司令室。井崎恵が驚愕に目を見開く。

(……今のはっ!!)

『霊子具現』―――

 自分の心に眠る武器を現実のものとして存在させる技術。

 形を持たない霊子を物質としてこの世にとどめるためには、瞑想等の精神修行により高められた想像力と、物理法則を超えるだけの強い意志が必要だ。

 一般市民への機密漏えい。見たことも無い敵の来襲。前例の無い霊子変動と素人の出撃。さらに『霊子具現』まで………………

「まったく…今日はなんて日だい………」

 度重なる事態に、もはや笑うしかなかった。


「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

 一方、ナイトスフィンクスはヘイトの槍を紙一重でかわしていた。逃げるのではなく、前に出たことで槍の間合いからはずれ、機体をそらしかわすことができたようだ。

 ヘイトの膝がガクンと抜けた。槍を地面に突き刺し、ふらつく機体を支える。

 ヘイトが顔を上げ、ナイトスフィンクスを見た。

 画面越しに、広人と眼が会う。

《左腕部損傷レベルS 稼動不能

《右腕部損傷……レベルB 稼働能力70%減少

 視界に機械的な文字が躍る。両手がほぼ使えず攻撃手段の無い騎士と、武器を手にする致命傷を負った悪魔。

 互いの意志をぶつけるようなにらみ合いのなか、ヘイトが苦々しげに赤い光を放ち始めた。

 それは一瞬。

 瞬いたかと思うと、ヘイトは閃光とともに虚空へと消えていた。

 短剣が重力のなかに放り出され地面に落ちる。カランという乾いた音が、重苦しい静寂を引き裂いた。

 空間軸を示すグラフ。異次元ともいえる空間を移動する高霊子体を確認し、オペレーターが叫ぶ。

「ヘイト座標軸から消滅、撤退しました!」

 スピーカーから歓喜の声が聞こえてくる。

「なんとか、なった…か」

 緊張が解け、広人は大きく息を吐きながら脱力した。

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