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クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
17/20

非日常での異例2

「れ、霊子兵器で一本背負いって………」

 司令室。数人のオペレーターが呆れたように言った。

 セルダムの装甲、霊子鎧は頑丈な鎧であると同時に強力な武器でもある。投げ飛ばすくらいなら、殴ったほうがダメージを与えられるのではないか………

「そうだ…それでいい」

 そんななか、豊田は改めて広人の才能を感じていた。

『ギガント』、『キメラ』、『ワイバーン』、『ガーゴイル』…………

 船は墜落させたことがないのでわからないが、今までに確認されていた敵はすべて無人で、動きも単調だった。

 ヘイトはセルダムに似ている。臨機応変な動きとホワイトラビットを中心的に攻める戦略からみて、おそらくパイロットが乗っているだろう。

 となると、今までの敵襲はこちらのデータを集めることが目的だったと考えられる。

 そのことから、今までにデータの無い機体が、見たこともない技を使えば、ヘイトが慎重になる可能性があった。

 その分時間を稼げるだろう。

 それにヘイトとナイトスフィンクスでは、ヘイトのほうが明らかに機体性能が高い。殴ったとしてもたいしたダメージは与えられないだろう。しかし、投げ技を使えばコックピットのパイロットへと直接ダメージを与えることができる。

 少年は今取れる中で最良の選択をしたことになる。


 ナイトスフィンクスが倒れこむヘイトに重なった。ヘイトの頭と胸を自分の胸で圧迫させ、脇を締める。

 上四方固ががっちりと決まった。

『……ッ!!…ッ!!』

 ナイトスフィンクスの胸の下でヘイトがもがくが、動けない。柔道の抑え込みは、一度決まれば素人にはまず脱出不可能だ。

「よし、これで時間は稼げたな………」

 巧みにヘイトの動きを封じつつ、広人は口元に笑みを浮かべた。これであとは援軍が来るまで待てばいいだけだ。

「ヒロくん、すごかー………」

 自分たちがあんなに手こずったヘイトをあっさりと抑え込んでしまった。ああなってしまえば、自慢の槍も役に立たないだろう。

「うむ、これで後はチーム『ランブルフィッシュ』を待つだけだ」

 意外とあっけなく終わったものだ。

『ランブルフィッシュ』到着まであと15分。 

 豊田はモニターに移る二体の機体を眺めた。

 重なり合うヘイトとナイトスフィンクス。

 逃げることをあきらめたのか、ヘイトはもがくのをやめていた。

「む…?」

 その光景に違和感を感じる。キシキシと、死が近づくような不気味な静けさがあたりを侵食してゆく。

 突然、霊子グラフを担当するオペレーターが金切り声を上げた。

「司令!ヘイトの霊子出力が上昇中!310、314、320……まだ上がっています!!」

「なに!?」

 それは、今までに観測されたことの無い数値だった。セルダムは供給される霊力に伴い、基本性能を上げる機体だ。もしヘイトがセルダムと同様の機体だとすれば――――

「………いかん!!」

  ヘイトは槍を消すと、両手をナイトスフィンクスの下へもぐりこませた。

「くっ…!!」

 下から衝き上げられる。あまりの強力に、広人の顔がゆがんだ。ヘイトの腕力は霊子供給により、先ほどの数倍に跳ね上がっていた。機体が少しずつ押し上げられ、ナイトスフィンクスの腕がミシミシと悲鳴をあげる。

「ぐわぁっ!?」

 そのまま力ずくで引き剥がされ、広人は横へと放り投げられた。

 戒めを解かれたヘイトは立ち上がると、再び紫色に妖しく光る刀刃槍を手にした。

 肩を上下にゆらす姿は、怨敵を前にした幽鬼のように見える。

「霊子出力が下がりました!203アビィ、上昇前の数値です」

「むう…」

 どうやら抑え込みから逃れるために出力を上げたらしい。なぜあの技を放たなかったのかわからんが、なんにせよ、まずい。

 奇策は二度も通用しない。ただでさえ槍の長い射程は戦いづらいというのに、少年の唯一の武器である柔道もつかえないとなると、一気に戦況が悪くなる。

 井崎恵が苦い顔で言う。

「ヘイトの槍に耐えた霊子鎧があるから、少しくらい持つかもしれないけど…」

「うむ。あの技には耐えられまい………」



 ヘイトが狂ったように槍を繰り出す。広人はそれを両腕の盾でなんとか防いでいた。

時々受けそこね、肩や頭に刃が当たる。傷は深くは無いものの霊子鎧が切り裂かれ、ところどころに筋ができていった。

(槍の威力が、上がっている…?)

 セルダムは霊子兵器。操縦者の心理状態によってその基本性能を変える。怪力で無理やり抑え込みをはがされ、心に不安の生じた広人は霊子鎧の防御力が下がり、ヘイトの方も怒りで槍の威力が上がっていた。

 槍の間合いで攻撃されるため何もできずにダメージが蓄積されてゆく。間合いを詰めようにも相手のほうが明らかに技量が高く、近づくことができなかった。

 付け入る隙といえば冷静さを失っていることぐらいだが、下手に攻撃するとその隙にやられてしまう恐れがある。

(このまま防御に徹しよう……)

 自分の役割は時間稼ぎだ。広人は自分でも信じられないくらいに落ち着いていた。


 初めての戦闘にもかかわらず、極めて冷静に対処する広人に克美は驚いていた。

「なんか、今日は驚くことばっかりやね…」

「…………」

 霊子解析を続けながら、かえでも同意する。

 霊子鎧の構成霊子が安定している。ナイトスフィンクスは高い抗霊子装甲をもつ機体のようだ。206の霊子に146で耐えている。

 司令室にデータを送信する。

 ヘイトのグラフに異変が生じた。左手に霊子が集中し始める。

「…………来る」

 かえでがつぶやいた。

「ヒロくん、間合いばとって!」

 克美が叫ぶ。

「あ、ああ」

 広人はそれに応じ、後ろへと下がるがヘイトは離れない。完全に間合いを支配されている。

(いけん、ヘイトん方が戦い方がうまか)

 一刻も早くナイトスフィンクスとヘイトを離す必要がある。

 しかし、ホワイトラビットが直接攻撃で援護するには蓄積ダメージが大きい。かといって『光の柱』はヘイトには効かないうえ、広人を巻き込む恐れがある。

(どうすればいいと…?)

 八方塞だった。このままだと、広人のセルダムは赤い渦に巻き込まれ、破壊される。

ナイトスフィンクスに対して怒っているみたいだし、もしかしたらそのままトドメを刺すかもしれない。

縁起でもない。

 克美から血の気が引いた。

「杵を、構えて」

 凛としたかえでの声が響く。それは今までに聞いたことのない、はっきりとした口調だった。

「え…?」

「構えて」

 もう一度、今度は強く。

「彼を、助けたい」

 かえでは言った。一日にこれだけかえでの声を聞くのは初めてのことだ。しかし、発声記録の更新は、まだ続く。

「あなたは?」

「ウチは……」

 もちろん、助けたい。克美は困惑しながら頷いた。

「………」

 かえではそれを見て口を閉じる。もう言わなくてもわかっているはずだ、と。

 悩んでいたって広人を助けることはできない……だったら、行動すればいい。

 霊子は込められた想いに応じてその威力、特性を変える。集中して、広人を助けるという想いを霊子にこめれば、あるいは………………

 まだ、手はあるのだ。

「うん………わかった」

 あきらめるのは、まだ早い。

 克美は照準をヘイトにあわせた。

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