表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
16/20

非日常での異例1

「ぐっ……!!」

 克美はうめいた。本日四回目の浮遊感。

 腹部に蹴りを受け、ホワイトラビットはきりもみし、大地に倒れ臥した。

「っか………はっ…」

 肺に衝撃が突きぬけ、うまく呼吸ができない。動きの止まったホワイトラビットに向かって、ヘイトが槍を構えた。

「かつみ!かえで!」

「ッ!?いけない!ゆのみ!!」

 安藤ゆかりの静止を聞かずに、ゆのみはシュートダンサーの翼を広げた。ゆかりの斬性霊子を使った攻撃。昨日『ギガント』を縦一文字に切り裂いた技、『羽ばたく刃(フラップエッジ)』を放つまでの一瞬の隙をヘイトは見逃さなかった。

 スクリーンいっぱいに広がるヘイトの姿。

 荒れ狂う憎悪のこもった左手がシュートダンサーの胸部へとそえられた。

「え……?」

 スクリーンアウト。

 シュートダンサーを深紅の光が飲み込む。耳をつんざく空気の振動と霊子鎧の砕ける音が辺りに響いた。

「…ゆのみちゃん!?ゆかり!?……二人とも!返事して!!」

 克美がスクリーンに向かって叫ぶ。

 四肢がもげ、胴体と頭部だけになったシュートダンサーが無残に墜落するのが見えた。

「安心しな!二人は無事だよ」

 司令室のウインドウが表示され、井崎恵の姿が映し出された。取り乱す二人に対して、努めて冷静に状況を告げる。

「さっきの光は筒状に放出されていたからね、中心は空洞さ、二人には当たっていない。強力な霊子にあてられて気を失ってるだけだよ」

「ほんと?本当に大丈夫と?」

「ああ、とにかく援軍が来るまであと18分、どうにか持ちこたえるんだよ!」

 ヘイトがゆっくりとこちらを向いた。

 克美は立ち上がろうとしたが、ホワイトラビットは思うように動かない。四度も強力な攻撃を受け、ホワイトラビットの耐久値は限界寸前だった。

「18分も待てん!こんままやったら、1分も持たんでやられてしまう」

 数の有利は消え、ほとんど無傷の敵と満身創痍で一対一。あまりに不利な状況だ。

 克美の脳裏に死の影がよぎる。

「長い…何か、手は……?」

 かえでが声を発した。今すぐにでも死ぬかもしれないこの状況で、『あ、久しぶりに声聞いた』と思える自分に少し驚く。

「一応、作戦はあるんだけどね……」

「どんなん?ウチらは、なんすればいいと?」

「君たちは何もしなくていい」

 井崎恵の後ろに豊田司令が現れる。男性特有の低い声がやけに頼もしい。

 ヘイトはすぐそこまで迫っていた。目と鼻の先、膝まずくホワイトラビットに向かって槍を振り上げる。


「あとは、彼に任せよう」


 ホワイトラビットとヘイトの間に閃光が迅った。

 金属音。振り下ろされた槍が火花を散らし、刃が弾かれる。


《参戦機体照合中……………照合完了 味方機Jkr‐7 third


 画面に表示されたのは、この基地に存在する三体目のセルダム認識番号。

 両腕に装着された盾で槍を受け止め、ヘイトへと立ちふさがる影。男性を思わせる大きな背中と台形に近い後頭部、琥珀色に輝く、逞しくも美しい霊子鎧。

 それはまるで、黄昏の太陽をまとう騎士のよう。

「平気か?」

 スクリーンに映し出されたクラスメイトが言った。

「ヒロ、くん……」

 克美の頭は混乱する。優しく心に響く、まぎれもない、広人の声。

「かえでは?」

 広人の問いに、シルバーグレーの髪が揺れる。

「そうか、よかった」

「なんで…霊子が足りんって……」

 克美はこの映像を、夢のなかで見ているような気分だった。しかし目の前の画面には、幻ではなく、確かに広人が映し出されている。

「俺にもわからない」

 霊子やセルダムの知識がないので答えようがない。素人である広人の変わりに、豊田が自信なさげに推測を述べる。

「詳しいことはわからんが、少年は一定の条件のもと強力な霊子を発生させる体質のようだ」

 それは珍しいなんてものじゃない。世界でも初めて観測される現象だった。克美は唖然とする。まじまじと広人を見つめていると、とある疑問に行き着いた。

「そんパイロットスーツはどうしたと?」

 パイロットスーツは使用者の体型に合わせ、オーダーメイドで作られる。男性用のものなど無いはずだ。

「……女性用LLサイズを無理やり着てる。窮屈で仕方が無い」

 よく見れば胸の部分が伸びたように緩んでいる。広人は恥ずかしそうにほおを染め、画面から眼をそらした。

 井崎恵の怒号が飛ぶ。

「雑談はそこまで!その機体『ナイトスフィンクス』は霊子量147アビィ、それ以外のデータはまだわからない。無茶すんじゃないよ!坊や!」

「はい!………克美、かえで」

 モニター越しに、広人と眼が合う。

「あとは、俺に任せろ」

「ヒロ、くん………」

 広人は槍を受け止めたままヘイトに対峙し、決意のこもった眼で敵をにらみつけた。両腕で槍を弾き飛ばし、憎悪の悪魔と対峙する。

「さぁ……かかって来い」

 琥珀の騎士は手招きをした。




 次の瞬間。広人の乗るセルダムはヘイトの回し蹴りを受け、あっさりと吹き飛んだ。

「ヒ、ヒロくーーーんっ!?」

「ちぃ、やっぱり訓練も受けていないド素人じゃ荷が重いかい!」

 セルダムの操縦には、パイロットスーツが神経の電気信号を感じ取り、動かす『同調操縦』システムが使われている。

 そのため、ただ動かすだけなら自分の体のように動かせるのだが、スクリーンに映る視界の感覚や戦闘そのものに慣れていない広人は、今の蹴りに反応できなかった。

「くっ……」

 それでも、やるしかない。広人は必死にナイトスフィンクスを立ち上がらせた。

「ヒロくん!棒立ちになったらいけん!!」

 ヘイトがふらつくナイトスフィンクスへと向かって駆け出し、飛ぶ。

 克美の声で顔を上げたときには、もう遅かった。

 回避不能。セルダム胸部、コックピットへと向かって、槍が繰り出される。

「坊やっ!?」

「いやーーーーーーー!!」

 霊子鎧が砕け、装甲をえぐり、刃が広人へと達する………そんな様子を思い浮かべ、二人は絶叫した。


 ガキィインッ……!!


 ナイトスフィンクスの機体が揺れ、火花が散った。

 そして、二人の予想は外れる。

「くぅ…っ!!」

紫色の凶刃は、ナイトスフィンクスに突き刺さることなく弾かれていた。

『!?』

突きを弾かれた驚愕からか、ヘイトの動きが一瞬止まった。すぐに広人は左手で槍を払いつつ前へと踏み出し、ヘイトの右腕を掴む。

 左手で右前隅へと引き出し、崩すと同時にヘイトの右脇下へ右腕をねじ込んだ。ひざを曲げ、十分に腰を落としながらその身を180度反転させる。

 ヘイトの重心が前へとかかり、ナイトスフィンクスにおぶさるように背中に乗った。

「…やあっ!!」

 裂帛の気合と、空気を薙ぐ音が響く。

 それは、豪快な一本背負い。


 ヘイトは跳ね上げられるように宙を舞い、背から地面へと叩きつけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ