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クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
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非日常からの訪問者4

「ワームホールの誘導に成功。戦闘区域に転送します」

「よし、『チーフハット』戦闘用意。敵船転移後バリア展開」

 モニターには障害物の無い開けた土地と二体のセルダムが映っていた。克美の乗る機体、ホワイトラビットの手には、すでに杵が握られている。

「転送成功、カウント開始します。5、4、3、2、1!」

 穏やかだった空に亀裂が走る。

と、同時に戦闘区域を青白い光が覆った。

「バリア展開完了………!?」

「む…っ!?」

 亀裂がはじけ、一瞬モニターの映像が乱れる。基地内にある計測器の針は激しく揺れていた。

 復旧したモニターに、異様な光景が映し出される。

 この場にいる誰もが絶句し、目を疑った。

 敵は、一体だった。

 それも船や『ギガント』といったものではない、あれは、どう見ても、

「セルダム…!?」

 その敵はセルダムにそっくりだった。それはまるで、悪魔の鎧をまとう騎士。手には大振りの刀刃槍が握られ、赤黒い装甲からは禍々しい狂気がにじみ出ている。

『まずは敵船が現れ、それから自律型の機体を投下する』。そんな常識をくつがえす、誰も予想だにしない状況。光景。

 敵が顔を上げた。表情などないはずの機体は、不気味に嗤って見えた。



「野見山くん、松島くん、間合いを取りたまえ!」

「かえで!ゆかり!データを送りな!!」

 司令室、モニターに変動する円グラフや折れ線グラフ、文字の羅列が記された。それらをオペレーター、井崎恵らが解析を始める。

「なんなん…あれ……」

 克美は今までに見たことの無い敵に戸惑いを隠せなかった。

「う~、なんか恐いよ~……」

「克美、ゆのみ、不用意に近づかないほうがいい」

 安藤ゆかりがこわばった表情で忠告した。あの敵に、なんとなくいやな予感がしたのであろう。ゆかりの勘はよく当たる。接近戦は避けたほうがよさそうだ。

『総員に告ぐ、敵機をhate(ヘイト)と呼称する』

 憎悪ヘイトと名付けられた機体が槍を振り上げた。

「『斬性霊子』だ、くるよ」

 ヘイトから観測される霊子粒から霊子の属性を解析、判断する。

 『斬性霊子』はその名のとおり、切る性質を持つ霊子だ。この霊子は武器の攻撃力を上げるほかに斬撃に乗せて放つことができ、モーションが大きいほど威力が上がるという性質があった。

「ゆかり、わかった!」

 ホワイトラビットが杵を構え、身構える。

 ヘイトが槍を振り下ろした。空気がゆがむほどの霊子が、うなりをあげてホワイトラビットへと迫る。

 速い。

「ばってん!」

 斬撃を横っとびでかわした。そのまま滑らかに方向転換、ヘイトへ向かって駆け出す。

 迫り来るホワイトラビットを迎え撃つようにヘイトも駆け出した。

 機動性に富んだホワイトラビットと同じか、それ以上の速度。

(ほんとに、セルダムみたいやね…)

 一ヶ月に一回行われているセルダム同士の戦闘演習と、感覚が似ている。

 杵と槍が交差した。甲高い音が響き、火花が散る。

「…うあっ!!」

 力負けしたホワイトラビットが跳ねるように飛びずさった。

 追撃のそぶりを見せたヘイトに淡い黄色の刃が降り注ぐ。その光の風はシュートダンサーが羽ばたくたびに放出されていた。

 安藤ゆかりの斬性霊子を小さなモーションで放つ『戯曲演舞(クイックワルツ)』、手数を優先したため『ギガント』を切り裂いたときほどの威力は無かったが、当たれば無傷ではすまないだろう。

 何発かヘイトに当たり、霊子が弾ける。氷が割れるような破砕音。ヘイトは追撃をやめ、『戯曲演舞(クイックワルツ)』の攻撃範囲から逃れた。

 赤黒い霊子鎧には少し傷が付いているものの、大したダメージは与えられていない。ヘイトの対霊子防御は高いようだ。

 ホワイトラビットに向かってヘイトが大地を蹴った。

 接近。槍の射程に入る。

「跳んでっ!!」

「ヤァッ!!」

 迫り来る凶刃をすんでのところでかわした。そのままヘイトの頭上を跳び越え振り向きざまに後退、即座に杵の照準を合わせる。

「『光の柱(ライトニングポール)』…いっけえぇえーーーっ!!」

 杵から碧色に輝く光の柱が放たれた。

 貫通型の弾発霊子。あらゆるものを穿ち、貫通する、野見山克美の霊子がヘイトを直撃する。

光柱が瞬き、確かな手ごたえを残す。

 空を塗り替えるほどの霊子放出がやみ、ホワイトラビットはゆっくりと杵を下ろした。

「……うそ…やろ…」

 砂埃の舞うなか。

 右手を前にかざし、無傷で立つヘイトがそこにいた。


「なんなんだいこの機体は……化け物かい!?」

 映像を見て、井崎恵は吐き捨てるように言った。

「ホワイトラビット、シュートダンサー、交戦を避けろ。『神杉』『空劫』に通達、援護要請!!」

 司令室では嵐のような大声が飛び交っている。

 オペレーターの混乱する声と情報解析の結果報告、敵機に対する罵声と今から行われる対応の指示。

 そんな中、ただ広人はモニターを見つめる。

 いくつも重なるイレギュラーと、その対応に手一杯の指揮系統。苦戦するクラスメイトたち。

 ……………いやな予感がした。



 ヘイトが身をかがめ、跳躍する。さっきよりも数段疾く、鋭い突き。

 紫の刀身がホワイトラビットの左肩を貫いた。なおも突進するヘイトに押され、細身の機体が宙に浮く。

 コックピット内、激しい振動の中、スクリーンには激しく揺れる霊子グラフとDanger(デンジャー)の文字。

 大技が、くる。

「あぁあああっ!!」

 右手の杵を面に突き刺し、方向転換を可能にする。突進にブレーキがかかったため肩に刃がより深く食い込み、ヘイトとの距離が縮まった。曲げた両足をヘイトの胸部に当て、思いっきり蹴りとばす。

 ガギンといういやな音とともに、肩から火花を散らし槍が抜けた。

「えーい!」

 ホワイトラビットとヘイトが離れたのを見て、シュートダンサーがありったけの光芒を叩き込む。ゆのみの連射型の弾発霊子は、威力は低いが一瞬だけ相手の動きを止める効果を持つ『破魔の弾丸(スタンバレット)』。ヘイトの動きが鈍った隙にホワイトラビットは体勢を立て直す。

 ヘイトの荒れ狂うような霊子がおさまり、Dangerの文字が消えた。敵の大技は接近型らしい。さすがゆかり、また勘が当たっとう。

「二人とも、怪我はないかい?」

「うん、大丈夫……」

「………」

 雪村かえでも無言でうなずく。

 しかし、

《左肩部損傷レベルA 稼動不能

 セルダムへのダメージは大きい。ホワイトラビットの霊子鎧をやすやすと貫かれるなんて、予想していなかった。ヘイトは今までの敵とは攻撃力の桁が違う。

 いや、攻撃力だけじゃない。機動性、対霊子防御、構成霊子量、そのすべてがホワイトラビットを上回っている。

「やばいかもしれん……」

 克美は苦笑いを浮かべた。



 ヘイトが槍を振るう。それを紙一重で避ける。避ける。避ける。

 激しく交わる二体の動きはすばやく、シュートダンサーはヘタに援護できない。

 克美たちは明らかに敵に押されていた。このままではやられるのも時間の問題だろう。

 モニターを眺めながら、広人は思った。

(……おんなじだ…あの時と……)



 あれは広人が中学二年生のころ。

 昼休み、トイレに行こうと廊下へ出ると人だかりができていた。

 そこで見たのは、幼稚園からの親友が一人に後ろから羽交い絞めにされ、もう一人に殴られている姿。

 すぐに先生達が駆けつけ、けんかを止める。

 俺は、助けなかった。

 ケンカに柔道の技は使えない。ここで飛び出せば、自分もやられてしまうかもしれない………そんな考えが頭をよぎり、友達を助けることを躊躇してしまった。

 後に残ったのは後悔と自分に対する憤怒。

 友を見捨てるような卑怯者に、柔道着を着る資格は無い。

 俺は柔道を辞めた。

 そして、この出来事を忘れないと誓う。

 次、同じことが起こったら二度と迷わないように。


 二度と、後悔しないように。


 そして今、友人のピンチに何もできずにいる。

 あのときの無力な俺とは、変わったと思っていた。

 くやしい。

 広人は唇をかみ締めた。


 オペレーターがヘッドマイクを握り絞めて振り向く。

「司令!『神杉』から通達…〝チーム『ランブルフィッシュ』、転移に20分を要する〟『空劫』…〝チーム『ブルーエンジェル』交戦中、推定所要時間不明〟!」

「むう…」

 豊田はうなった。

 現在も交戦中とあれば、『ブルーエンジェル』は間に合うまい。

 ランブルフィッシュが到着するまでの20分間、何とか時間を稼がねばならない。しかし………

 豊田はモニターを見た。豪槍になぎ払われ、ホワイトラビットが吹き飛ぶ。ヘイトはそのまま身を翻らせ、降り注ぐ『破魔の弾丸』を切り払った。

 チーフハットは徐々に、そして確実に追い詰められている。長い…20分は長すぎる……っ!!


 ギリッ……


 歯軋りの音が、聞こえる。

 モニターを見つめる、もうひとつの影………神導時広人がこぶしを握り締め、悔しさに身を震わせていた。

「…………おっさん」

「…ん?」

 自分に話しかけているのだと、一瞬遅れて気が付いた。少年はモニターだけを見つめている。

少年は感情を高ぶらせ、

「俺に…何かできませんか……」

 言った。

「少年……」

「わかってます…俺はただのガキだ。調査を手伝うことも、いい案を思いつくこともできやしない……でも、それでも、」

 ―――何もできないのは、嫌なんだ!!


 少年は叫び、こちらを向く。

 そう、この眼だ。

 私を助けたときの、澄んだ、まっすぐな瞳。

 正しい心と、強い意志を持つ者の眼。

 豊田の胸元から、音が聞こえる。

(ほら、直しといたわよ)

 井崎恵の言葉が頭によぎる。豊田は懐をまさぐると、激しく反応する銀の端末を取り出した。

 その顔が驚愕と、そして葛藤に染まる。

「………少年…君に、賭けよう」

 数秒の沈黙を経て、豊田は決断した。

 とんでもない時間稼ぎを。

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