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クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
14/20

非日常からの訪問者3

 彼女は不機嫌そうに豊田へと近づくと、

「だってこの子、霊子が足りないもの」

 手にしていた書類をテーブルに放った。

「……むう、」

 豊田はクリップで留められた紙束に目を通すと、困ったように広人を見つめた。広人はもっと困った顔で見返す。

「え…と、どういうことですか?」

「つまりあんたは司令の勘違いで知らなくてもいい軍事機密を知ってしまった、哀れなパンピーってことよ」

 言って、ぼりぼりと頭を掻きだす。女性は赤い唇をイライラで歪め、面倒くさそうに解説した。

「まったく…端末でわかんない霊子粒子の活性化エネルギーやドリブル(精神状態の変化による霊子の波のこと。リラックスしているときの波がその対象の基準波とされている)の幅を調べようと思ったのに……見な、霊子が37しかないじゃないか!コンピューターで同時進行させといた、付加重合における重合体強度シュミレーションがエラーになるからおかしいと思ったよ………ひたすら霊質分析してたあたしの努力を返しな!」

 女性がすごい剣幕で豊田に詰め寄った。それに日本防衛の要、『千早』基地の司令官は、

「う…うむ、しかし井崎くん……機器に反応が…」

「瓦礫につぶされた衝撃で壊れただけでしょ」

 いいわけを始めるもあっさりと一蹴される。

「ほら、直しといたわよ」

 言うと女性、井崎恵はデスクに銀色の物体を叩きつけた。ダァンッという音が部屋に木霊する。

 豊田は端末を手に取ると縦にスライドさせ、なにやら操作を始めた。

「むう…」

 霊子反応31アビィ…いくら緊張しているとはいえ、118ものドリブルは考えられない。この少年からは何か特別なものを感じたのだが……やはり井崎くんの話が正しいのであろう。

 豊田がしょんぼりと顔を伏せるのを見届けると、井崎恵は広人のほうを向いた。

「というわけで、坊や!」

「は、はいっ!?」

 急に声をかけられ、広人はあわてて返事をする。女性はつかつかと白衣をなびかせ、広人に近寄った。ズイッと顔を近づけ、広人の瞳を覗き込む。

「ここで見たこと、聞いたこと、感じたことは全部忘れな。いいね!!」

「あ……はい…」

 井崎の声には、有無を言わさぬ迫力があった。

 いきなりこんなところに連れてこられ、軍事機密(軍事機密っ!?)を聞かされて、散々思い悩んだ挙句勘違いでした。忘れろ!と怒鳴られるなんて……正直なんだそりゃ!?とも思ったが、それ以上に、安心した。

 俺は戦わなくてもいいんだ。また明日からいつもの生活が送れる。宿題やって、休みが明けて………登校してきた俺にあいつがバカ面下げて近づいてきて、聞いてもいないのに克美のパンツの色がどうとかくだらないことを言い出す。

 そんな、いつもの日常。

 戦うのは軍人に任せよう。だって、俺は特別な力なんて無い。ただの、高校生なんだから………


『ビービービー!!』

「っ!?」

 基地内に突如、けたたましい警戒音が響き渡った。豊田、井崎らはあわてることなく対応を始める。

「ふむ、『敵襲』か。転移情報は?」

「空間歪曲x‐3、z‐424、反応霊子306アビィ、船一隻と『ギガント』四体かと思われます」

「転移地点解析完了、44‐d.198………『千早』です!!」

 オペレーター達がどよめき始めた。宇宙人は霊子で空間を曲げてワームホールをつくり、移動する技術をもっている。今まで地球人側は被害を避けるためそれに干渉し、移動地点を基地内の戦闘区域に限定させてきた。(たまに誘導地点がズレることもあり、昨日町が襲われたのはそのためである)船が自ら敵の本拠地に飛び込んでくるなんて、今までに前例が無かった。

「はん、干渉の手間が省けたじゃないか」

「うむ、だが用心が必要だ」

 モニターの画像が変わった。画面が四つに区切られ、それぞれに大小四人の少女が映し出される。その光景を見て広人はあんぐりと口を開ける。彼女らが体のラインがはっきりとわかる、肩や腰に金属製の何かが付いた黒のコスチュームを着ていることにもびっくりしたが、何よりも驚いたのが、

顔見知りが混じっていたことだ。

「チーム『チーフハット』、パイロット四名そろいました!」

「な…なんで………」




 野見山克美、雪村かえで、安藤ゆかりがそこにいた。




「か…克美っ!?」

 そこには、野見山克美がいた。今日、初めて会った転校生。学校で見せた表情とは違う、強い信念を持った目をしていた。

「…かえでッ!?」

 二人目は無口な図書委員だった。見間違えようもない慣れ親しんだ姿が、今はじめて見るスーツに身を包んでいて、広人は余計に混乱する。

「…安藤っ!?」

 三人目はレギュラーパンツがお気に入りの同級生。もうここまで来ると脳が現実逃避をはじめ、うまく頭が働かない。最後の一人は、幸か不幸か知らない娘だった。若いというよりは、明らかに幼い容姿をしている。

「む…?野見山君たちと知り合いかね?」

「克美は詳しいデータとってもらうために、あたしが接触させたんだよ。二人が同じクラスだったのは偶然だね」

 井崎恵が言った。

 そうだったのか………画面越しに克美と目が合う。野見山克美は心苦しそうに広人から目をそらした。どうかしたのだろうか?

「ふむ、そうか。ご苦労だったね野見山君」

「あっ、いえ……ウチは別に…」

「神導時君も、わざわざ来てくれたというのにすまなかった。家まで送るのでもう少し待っていて欲しい」

「う…あ……わ、かりました」

 豊田はやさしく微笑むと、人の命を背負う軍人の顔つきに変わった。茶の瞳が金色を帯びる。その瞳は獅子を思わせた。

「敵対霊子306、移動地点『千早』、セルダムにて迎え撃て!『チーフハット』出撃!!」

「「「了解っ!!」」」「………」

 かえでだけは無言だった。



(ヒロくん…適格者じゃなかったったい……)

 コックピット内、スクリーンに映る広人を見て克美はため息を漏らした。霊子が足りない以上、これ以上克美が接触する理由はない、すぐに神導時広人データ収集の任務は解かれるであろう。広人ともう会えなくなるのかと思うと残念で仕方なかった。

 スクリーン右上にウインドウが現れ、一人の少女を映し出す。

「かつみ~、あのお兄ちゃんパイロットになれないの?」

 少女は長い金髪をゆらして身を乗り出すと、つまらなそうに小さな唇を尖らせた。

「うん、霊子が足りんって……」

 克美は少女に向かって微笑んだ。

 松島ゆのみ。

 その姿は、一言で言うならお人形さんのよう。宝石のようにきらきらと輝く蒼い瞳、朝日がそのまま具現化したような柔らかな金髪、不機嫌そうな表情も子供らしい幼さを残しており、非常に可愛らしい。

 ゆのみちゃん、新しいチームメイトが増えるかもしれんって言われて、一番喜んどったもんね………

 井崎恵に広人の霊子調査を頼まれたとき、ゆのみが「私も行きたい行きたい~!」と駄々をこねていたのを思い出す。結局年齢的に無理があるということで、断念してもらうしかなかったのだが………

 左下に新たなウインドウが現れた。

「ふう、司令はおっちょこちょいだね。一般市民である彼に、セルダムの説明までしてしまうとは…………それにしても、彼が昨日、司令を助けたという少年だったとはね。少し、驚いた」

 安藤ゆかり。

 今日教室に入って彼女とかえでがいたことにはびっくりした。

 トイレに行くと称してゆかりを呼び寄せ事情を聞いたが、偶然とはあるものだ。

「君が潜入捜査を楽しみにしていたのでがんばって欲しいと思っていたが、無駄に終わってしまったようだ。彼なら霊力さえあれば、いいパイロットになれただろうに」

 安藤ゆかりは司令室を映す画面をながめ、残念そうに目を細めた。彼女がこういう表情をするのはめずらしい。

 安藤ゆかりのウインドウが右下へと移動し、新たに雪村かえでが現れる。

「……………」

 いつものように無言だ。

 彼女との付き合いは広人より長く、しかも互いに命を預かる操縦パートナーだ。なので、実はかえでの考えていることは広人よりもわかっている。

「…………」

 かえでは今、『よかった』と思っている。

 はっきりいって、敵は弱い。霊子出力、対霊子防御、機動力……どれをとってもセルダムが劣るものはなく、動きも単純で、油断しない限り負けることはありえない。

 それでも、命がけであることにかわりはない。かえでは広人がそのような状況に巻き込まれずにすんで、素直に喜んでいる。

 それを克美はすごいと思った。

 ウチは、残念だった。

 それはヒロくんのことをまったく考えていない、自分勝手な感情だ。ここは戦場。これは兵器。そんなものにヒロくんが乗らなくてよかったなんて、思いつきもしなかった。

「……まいったね。『目から鱗』だ」

 安藤ゆかりも同じ考えにいたったのだろう。己を恥じるように呟いた。

(ウチもかえでちゃんを見習おう)

 克美はかえでを、決意のこもった瞳で見つめた。


「ねーねーかつみ、『目から鱗』ってなに~?」

 松島ゆのみが体を揺らしながら質問する。この年頃はわからないことが多く、そのぶん好奇心も旺盛だ。

「なんかがきっかけになって、急に物事ん道理がわかるようになることを『目から鱗』って言うとよ」

 ゆのみが「へ~、そうなんだ~」と目を丸くして感心したように克美を見つめた。

(ヒロくんとゆのみちゃん、仲良くできそうやったちゃけどね…)

 ふと、ゆのみになつかれて四苦八苦する広人の姿が思い浮かんだ。広人の姿を見ようと、克美が司令室を映すスクリーンに目を向けようとしたとき、外部スピーカーから整備士の声が流れた。

『セルダム機器検査完了、オールグリーン。操縦士接続開始します』

 直後、パイロットスーツの肩、腰についた金属部に向かってノズルが伸びる。ノズル先端の突起物が金属部のヘコみと結合すると、克美の霊子はセルダムへと供給され始めた。

「それでは、霊子供給に専念するため一時通信を切ることにしよう」

「かつみ~、かえで~、バイバ~イ」

 二人のウインドウがスクリーンから消える。克美は大きく深呼吸をすると、瞳を閉じて精神集中を始めた。セルダムの装甲はパイロットの霊子で構成される。今は霊子供給に集中して、少しでも霊子鎧の精度をあげるべきだ。いつものように硬く、堅固な鎧をイメージする。しかし、ざわざわと雑念が騒ぎ立て、うまくいかない。

 ………なぜか心が落ち着かない。

 ひとつ残ったウインドウから視線を感じる。

「……………」

「かえでちゃん……」

 目の前にあるのは、一見無表情ながらも克美を気遣う灰色の瞳。いつもは固く引き結ばれた唇は軽く開かれ、いまにも言葉を発しそうだった。

 心配してくれている。

 かえでは、無口だ。それも筋金入りの。しゃべれないわけではないのだが、口すらめったに開かない。

 それでも開いている理由は、他ならぬ自分のため。克美はそれがうれしくて、微笑んだ。

「大丈夫ばい、もう、落ち着いたけん」

「…………」

 かえでが口を閉じる。まばたきを二回したのち、黙ってスクリーンアウトした。

 さっきとうってかわって心が落ち着いているのがわかる。

「ありがと、かえでちゃん」

 馬鹿みたいな劣等感でウジウジしとったらいけん、ウチはみんなを守るために戦っとる。ヒロくんのためにもガンバらんと!

 心の中の迷いは晴れた。

『霊子供給完了。霊子鎧形成開始してください』

「……ホワイト・ラビット、形成開始!!」

 克美はみんなを守る、戦うという意志を込めて、叫んだ。


 コックピットの周り以外、装甲らしいものも見当たらないセルダムの機体が白い霊子を纏い始めた。光は徐々に鎧を形作り、硬質化してゆく。

 白く、深く、輝く鎧。満月にも似たまるく分厚い面に、星の声を聞くための長い耳。

《White.Rabbit 形成完了

 女性のようにしなやかで、芸術品のように美しい兵器がそこにいた。


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