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クラスメイトは搭乗者  作者: きつねそば
13/20

非日常からの訪問者2

 車から降りて数分後、広人は基地の中にいた。

 日本三大基地のひとつ、『千早』。日本防衛の一角を担うだけあってやたらと広く、堅固なセキュリティをもつそこの作戦司令室にて、

「まあ、リラックスしたまえ」

 広人はお茶を出されていた。厚めの渋い湯呑みに立つ湯気のかぐわしい香りと、液体は海中に眠る龍のように淡く揺れる翠色。この無造作に振舞われた緑茶がかなりの高級品だということは、お茶好きの広人には一目でわかったのだが…………………

「くつろげません」

 広人は率直、かつ正直な意見を述べた。屈強な男四人に担がれたまま入管手続きを受け、X線センサーを通り、巨大モニターと立派なデスクが完備され、取り囲むようにオペレーターまで配置された部屋につれてこられてのんびりできるほど、広人の肝は据わっていない。だから素直に喜べない。

「いや、すまない。少年が戸惑うのもよくわかるのだが、一応ボディチェック等の手続きは必要なのだよ……」

 手続きとかはどうでもいい。なぜあの四人は俺を降ろしてくれなかったのか、それだけが聞きたくてたまらない。

 そんな広人の思いを無視して、さて、と男性が座る。モニターを背にした、広人の対面の席だ。

「単刀直入に言おう。君をスカウトしたい」



「私の名は豊田辰次郎とよだたつじろう。ここ『千早』を指揮する司令官だ」

 司令……官っ!?軍関係者であることは一目でわかったが、男性の想像以上に高い地位に驚く。

 目を丸くする広人を見て、男性、豊田辰次郎は説明を続けた。

「二百年前、中国大陸出身の学者である孫盤古そんばんこは、人や生き物の持つ力、『霊子』を発見した。この発見により、人類の生活を支えるエネルギーは電気から霊子へと移り変わっていった」

 それは、知っている。中学のとき、歴史の授業で習った。孫盤古は、それまでのエネルギーの常識をくつがえした世界的な天才だ。豊田は感慨深げにまぶたを閉じると、嘆息まじりに話を続けた。

「……人は、強い力を使わずにはいられない。『霊子』発見のわずか十年後、人々の生活に『霊子』がなじみ始めたこの時期に、孫盤古は霊子を応用した武器、『霊子兵器』の開発に成功した。それは使用者の霊子に反応し、刃を形成するナイフ。こうして、霊子を物質化させる技術を手に入れた人類は、便利な道具、強力な兵器を次々と完成させることになる」

 豊田は言って、眼を開いた。


「君は、『敵襲』を疑問に感じたことはないかね?」

「…いえ、特には」

 突然変わった話題に、戸惑いながらも返事をする。

「ふむ…まあ無理もない。私もそうだった、『敵襲』は物心ついたときからの日常行事だからね」

 豊田司令は一口、お茶を含んだ。

「…敵とは、誰かね?」

「それは…『イエンナ軍』でしょう?空に浮かぶ大陸から、地上の国に次々と攻撃を加える軍事国家…………」

 広人は以前、授業で習った知識を思い出す。地球儀や地図に載っていない、動く大陸。その閉鎖された世界で独自の文化を発展させた、『空飛ぶ民』の国。

「その通り。授業では、そう習う」

豊田は満足げに頷く。そして、衝撃の言葉を発した。


「しかし、そのような国は存在しない」


「な…っ!?」

 空飛ぶ国、『イエンナ』が存在しない…………そんな、馬鹿な………

 広人は頭の中が真っ白になるのを感じていた。

 『イエンナ』の存在は物心ついた頃から、ニュースや授業で接する一般常識。広人にとって、いや、世界中の人々にとって、地球が丸いことや、アメリカという国が存在することぐらい、当たり前のことだった。

 しかしそれを、軍という機関が完璧に否定する。詳しい説明が必要だろう。豊田は言うと、さらに言葉をつむいだ。

「敵襲が始まったのは今から百五十年ほど前、『霊子兵器は戦争の抑止力だ』と各国血眼になって新兵器開発を続けていたこの時代、中国大陸に空飛ぶ船が突如として現れ、砲撃を行い消えていった。当時はどこの国が戦争を仕掛けたのだと大騒ぎしたそうだが、中国大陸に現れたのと同じ船がアメリカや露西亜、オーストラリア、欧羅巴など世界中を襲うようになり、地球人類は漠然とだが、この敵を特定することに成功した」


「宇宙人だよ」


 あまりに飛躍した話。呆然とする広人に対して、説明が続く。

「当時、地球人は己が持たない空間転移技術と反重力技術、霊子放出技術を持つ敵に恐れおののいていた。このような状況で『敵は宇宙人である』と発表すれば、人々は未知なる敵に対する恐怖からパニックに陥るかもしれない。そう懸念した世界連合は『イエンナ』を創造した。それは未知なる技術を持っていてもおかしくない架空の国、架空の敵。以来、新大陸『イエンナ』の存在は世界各国の常識となる」


「何の前触れもなく街中に現れる敵と戦うには、これまでの兵器では火力が強すぎた。小回りが利き、敵に力負けしないだけの新兵器が必要であると判断した世界政府は、早急に対宇宙人用の兵器開発をはじめ、そして……完成させる」

 ブォンという音とともにモニターに電源が入った。そこに映し出されたのは人型の機械。胸に当たる部分以外これといった装甲も無い、間接部分すらむき出しのあまりに貧相な姿をした機体だった。

これが、世界連合の完成させた『兵器』………あまりに頼りない見た目に、広人は拍子抜けするのを感じた。

 映像が四角に囲まれ縮小し、画面左上へと移動する。新たにできたスペースに映し出された映像を見て、広人は思わず息をのんだ。白を基調とした外観、女性に似た丸みを帯びたフォルムに、兎を思わせる長い耳。

 映っていたのは昨日見た『ナニか』だった。

 説明は続く。


 これは装甲、武器、原動力のすべてを霊子で構成する機体で、名を『Seldom(セルダム)』という。

 操縦者は二名、メインパイロットとサブパイロットに分けられ、メインパイロットがセルダムの操縦、サブパイロットが本部との交信、情報処理をそれぞれ担当している。

 機体の外見、能力、性能は両パイロットの性格、霊子性質、心理状態によって変動する。例えば、メインパイロットが連射射撃系の装甲、武器をもつセルダム形成をし、サブパイロットが武器にホーミングの特殊性能を持たせる、などだ。

 各基地にはそれぞれセルダム三体で構成された『チーム』が配置されており、その多くは接近戦タイプ、遠距離戦タイプ、援護追撃タイプの三種類と、戦闘時のバランスを考えた構成である。

 日本人の平均霊子は男性で31アビィ、女性で43アビィであるが、セルダムを構成、起動させるためには最低でも150アビィの霊子が必要だ。パイロットになるための最低基準霊子は70アビィ、一般的に女性のほうが平均霊子が高いため、日本にいるセルダムパイロットは候補生にいたるまで、全て女性である。

 ただし、世界に十名だけ、男性パイロットも存在する。内訳は中国に二名、米国に二名、独逸に一名、露西亜に一名、印度に二名、英国に一名、伊太利亜に一名だ。

 彼らは例外なく強力な霊子を有しており、その平均値は実に135アビィ。

 セルダムは供給する霊子が高ければ高いほど堅固な装甲、強力な火力を発揮する機体であり、男性パイロットの存在は極めて貴重であるといえる。


「昨日、私は霊子測定機能を持った通信装置を持っていた。瓦礫の下敷きにされたときのショックで電源が入っていたのだろう、霊子データが表示されていたよ。君の霊子は149アビィ、これはいままでに観測された中で三番目に高い数値だ」

 もはや話についていけなかった。ちょっとどころの話ではない。あまりに今までの常識とかけ離れた内容に、ただただ呆然とする。

「君はすばらしい素質を持っている。ぜひともセルダムパイロットとして軍に所属して欲しい」

 豊田は立ち上がると、広人に向かって深々と頭を下げた。

 広人はというと、混乱する頭をなんとか稼動させ、今の状況を理解しようとしていた。

 要約。いきなり基地に連れてこられたかと思ったら、これまでの常識をあっという間にぶち壊され、さらに軍に所属しろと言われた。

 なんのこっちゃ。広人は理不尽とも言える強引な環境の変化に、自分の感情が暴走するのを抑え切れなかった。

 俺はただの高校生だ。命がけで兵器に乗りこんで宇宙人と戦うなんて、できるわけがない、勘弁してくれよ。つか『宇宙人』って!?なんなの?どんな姿してるんだ?意味わからん。だいたい「ちょっと」っていうから承諾したのになんだよこの待遇、強制連行じゃないか。くそっ、礼を言いにきたとかいっといて面倒なことに巻き込みやがって、こんなおっさん助けなければ良かっ―――

『ガンッ!!』

 広人は自分の顔を思いっきり殴った。指令室内、デスクの前のオペレーターたちが何事かと振り返る。

 頭の中のゴチャゴチャをいったん黙らせよう。急な話についていけず混乱しているだけだ。

 昔の俺とは、もう違う。冷静に……冷静に………

「……霊子が高いだけで、パイロットができるんですか?」

 口の中を切ったか、しゃべると少し痛む。広人は口元を血でにじませながら、鋭い眼光を豊田に向けた。

「通常はできない」

 広人のとった情緒不安定な行動には触れず、ごく自然に受け応える。

「パイロットの能力は大きく分けて五つ、『情報処理能力』、『反射神経』、『判断力』、『霊力(霊子総量)』、『精神力』だ。これらの能力を考慮してパイロットはメインとサブに分けられる。『反射神経』、『判断力』の高いものはメインパイロットとしてセルダムを操縦し、『情報処理能力』、『精神力』の高いものはサブパイロットとして安定した霊子の供給および周りの状況を把握するといった具合だ」

 モニターの画面が変わった。

 五つの数値を頂点としたグラフが四つ映し出される。コーンフレークの箱に書いてそうなアレだ。

灰色で塗りつぶされたそれらは、ほぼきれいな正五角形を形成している。

「基本、メイン、サブとしての能力が足りないものはセルダムへの搭乗を許されていない。しかし、男性パイロットには例外が認められている。機体自体の性能を飛躍的に上昇させるため、パイロットとしての能力が低くても、十分戦えるからだ」

 組織としては問題ないらしい。そりゃそうか、問題があれば最初からスカウトなんてしない。後は俺の気持ちしだい、というわけか………

 俺は、どうしたいのだろう?誘いを受けたいかといわれれば、受けたくはない。

 なぜ?

 怖いから。

 広人は豊田に視線を合わせた。

「訓練は、受けるんですよね?」

「ああ、例外とはいえ本番で命を落とさぬよう、徹底的に鍛えられる」

「今まで、宇宙人との戦闘による死亡者は?」

「ここ十年間における日本のセルダムパイロットの戦闘による死亡者は……二名だ」

 豊田は少しだけ苦しそうな顔をしたことが、広人は気が付かなかった。

 ほら、命がけとはいっても死ぬ確立は低いぞ?

 違う、死ぬのも怖いけど、それだけじゃない。

 じゃあ、何が怖い?

「―――学校」

 底知れぬ不安の正体が自然と口からこぼれてくる。

「パイロットになったら、学校とかどうなるんです?」

 広人は学校が大好きだった。先生も男子も女子も仲のよい二年七組で、親友とバカやって、クラスメイト達と騒いで、かえでと帰宅する…………そんな毎日が大好きだ。自分の立場がただの学生から変わってしまえば、この日常も変わってしまうかもしれない。

 それが不安で、怖かったんだ。

「パイロットや候補生の多くは、全国四十八箇所に建設された基地内の学校に通い、基本教養や操縦訓練を受けている。しかし、親御さんの都合等で普通の学校に通いながら訓練を受けるものもいる。よって君は大賀高校に通うことができる」

 さあ、どうする?学校には通えるってさ。死なないようにきちんと訓練も受けるし、怖いことなんて何もないだろう?心の中、もう一人の自分が問いかける。

「……すいません…少し、考えさせてください」

 それでも、怖いさ。ただの高校生が、軍に所属するなんて……怖気づくに決まっている。

人の強さは『心技体』。俺に戦う力があって、技術を身につけたとしても、強い意志がなければ戦えない。大きな兵器を使う以上、中途半端な覚悟では決められないんだ。

 豊田は葛藤する広人の心を見て取った。緊張をほぐそうと破顔させ、やさしい微笑を口元にたたえる。

「うむ、君に何も今日決断をしろといっているわけではい。今日のところはこのくらいにして、また今度、改めて返事を聞くことにしよ…」

「その必要はないわ」

 ふいに作戦司令室の扉が開き、白衣を身にまとった女性が現れた。

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