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苦手な方はご注意ください。

異端審問局奇譚 — 異端の勇者や聖女を始末します —

作者: 葛城遊歩

 本作品はノクターンで連載しております拙作『奴隷商の若旦那 -I aim at Princess Harem-』の補足説明として書き下しました。なお、舞台はあの世界ではなくパラレルワールドですが、同じような案件となっています。ちなみに、あちらでは『悪役令嬢』がゲストキャラとして異世界転生しております。


 俺たちの住む世界はラグナワールドと呼ばれている。偉大なる大神(たいしん)たるラグラナ様が()べる世界という意味だ。俺の名前はヨハネ・パブロフ。弱冠23歳の、自分でいうのも何だが好青年だ。そして、職業はラグナ聖教の神父をしている。


 ただ、一般の神父のように信者に説教したり、導いたりすることが仕事ではない。


 俺の所属は、異端審問局特殊事案課という大っぴらには出来ない、汚れ仕事を生業(なりわい)としている。


 俺たちの世界には、勇者や聖人、それから聖女に魔王なんかが存在しているのだが、究極的には偉大なるラグナラ様の手の平の上で踊っている舞台役者のような存在だ。


 ところが、この世界に異端の勇者や聖人、それから聖女や魔王などが、異世界からの転移や転生で送られて来ることがある。その背景には、彼ら、彼女らを送り込んだ異世界の神々が暗躍(あんやく)している。


 異世界の神々の目的は、ラグラナ様の()べるラグナワールドへの尖兵(せんぺい)として、チートな記憶や能力を有し、更に神器(じんぎ)の助けを借りた人材を送り込み、将来的に影響力を及ぼす橋頭堡(きょうとうほ)とすることだ。


 魔王は別格としても、勇者や聖人、それから聖女は一見すると素晴らしい。


 彼ら、彼女らは美男子や美少女ぞろいであるし、とても有能なのだ。彼ら、彼女らは(ちょう)ずるに従い、この世界で誕生した高潔な者たちを友として影響力を広げていく。


 そして、大業(たいぎょう)()した(あかつき)には、勇者は国を興し、聖人や聖女は新しい新興宗教を興すことになるのだが、彼ら、彼女らが崇めているのは異世界の神々なのだ。


 それは、このラグナワールドに取っては、厄介な異物に相違ない。


 俺の仕事は、神託の聖女エメリア様を介したラグラナ様の意向により、異世界から転移もしくは転生したばかりで、比較的無力な彼ら、彼女らを密かに始末することなのだった。



                    ◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「き、きゃあぁぁ!! あ、貴方(あなた)、大変! アダムスちゃんがぐったりしているの。だ、誰か助けてえぇぇ!!」


 裕福な豪商の屋敷から、まだ年若い女性の絹を引き裂くような悲鳴があがった。


「ど、どうしたと言うのだ、アマーリャ」

「貴方、わたしがちょっと目を離した隙に、アダムスちゃんがぐったりしていたの。どうしたら()いの!?」


「旦那様に若奥様、残念ですが、アダムス様は既に事切れております。どうやら何かのはずみに転んで、首の骨を折られたご様子です」


「わ、わたしがちょっと目を離したから――」

「わしの一人息子が、たった2歳で逝ってしまったというのか――」


 お屋敷の中は、跡継ぎとして期待されていたアダムスの、早過ぎる死に騒然としていた。




 実は、アダムスは、異世界の神々が送り込んだ勇者の幼生体だったのだ。アダムスの場合、生れ落ちた瞬間から前世の記憶を有しており、わずか2歳にして攻撃魔法を勉強していたのだ。もちろん、両親には気取(けど)られないように庭の木陰や屋根裏部屋で試していたようなのだが、既に一人前の魔法使い並みの攻撃魔法を操っていたのには背筋が寒くなる思いだった。


 俺は偶然にも、木陰を求めてやってきたアダムスの背後から忍び寄り、頚骨(けいこつ)を折って始末したという訳だった。


「『悪魔()き』の小僧、始末完了」


 俺は小声で任務完了を告げると、その場を去った。



                    ◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「神父ヨハネ様。新しい神託が下りました。サラエ村に聖女の幼生体が顕現しております」


質素な修道着を着た聖女エメリア様は、流れるような黒髪と切れ長の黒瞳が神秘的な美少女だ。聖女エメリア様は祭壇を離れると、俺に近付き神託内容を(おごそ)かに下知した。


「今度のターゲットは聖女ですか……」


 俺は、ラグナ聖教の聖女にして、神託の巫女姫と(あが)められる聖女エメリア様から、(あら)たなる『悪魔憑き』の顕現を知らされた。俺としても美少女を始末するのは気が(とが)める。聖女エメリア様の御前だというのに、気付かぬ内に深い溜息を吐いていたようだ。


「神父ヨハネ様。今回はラグラナ様より『封印の神器(じんぎ)』を預かっております」


 俺は聖女エメリア様より、『封印の神器(じんぎ)』の入った小箱を手ずから受け取った。


「確かに、『封印の神器(じんぎ)』を拝領いたしました」


 今回の任務では『悪魔憑き』と呼称される異世界の神が送り込んだ聖女の幼生体を始末するのではなく、『封印の神器』で彼女のチートな記憶や能力を封印することが任務みたいだ。


「では、封印した後は、その場に放置ですか?」

此度(こたび)は、前世の記憶を封じるだけだそうです。後日、彼女はラグナ聖教本部に連れ帰ります。そして、そのまま、普通の聖女として育てよとの仰せでした」

「承知いたしました、聖女エメリア様」


 俺は新たなる任務を受けると、サラエ村へと旅立った。




「マリアリーナ様、どうか病床のお父さんを治して下さい」

「せ、聖女様。なんと(うるわ)しいお方なのだ」

「オレの右腕が動かねぇんだ」

「あ、あたいが先に並んでいたんだ。割り込むなよ!」

「な、なんだ文句があるのかよ?」


「みなさま、わたしは逃げも隠れもしませんので、一列に並んで下さいな」


 俺がサラエ村に到着した時、(くだん)の『悪魔憑き』の彼女は、ラグナ聖教の聖堂で治癒魔法を振るっていた。彼女の周囲には、村人や近隣の者と(おぼ)しき人々が群がり、彼女に奇蹟の治療を願っていた。


 情報によると、『悪魔憑き』の名前はマリアリーナ。年は13歳ということだ。おそらく、異世界の神は、マリアリーナがある程度成長した後に、チートな記憶や能力を開眼するように仕込んでいたのだろう。


 赤ん坊の頃に、聖堂前に捨てられていたというが、貧しいながらも清廉(せいれん)に生きていたようだ。


 マリアリーナはやせ型だが、背中の半ばまで伸ばされた波打つ金髪が美しく、透き通った清泉を思わせる明るい色調の虹彩も美しい美少女だった。すらりと伸びた四肢(しし)も彼女の美しさを際立たせている。ただ、残念なのは、胸の膨らみが(わず)かだったことくらいだが、これから成長する可能性は秘めている。


 美しく成長したマリアリーナは、ある日、女友達と村の夜道を歩いていた時、包丁を持った変質者に襲われたという。変質者の目的は、美少女に育ったマリアリーナを襲って乱暴することだったというが、盾となった女友達が悲鳴とともに大怪我をしたことから、驚いて逃亡した変質者は、直ちに村人に取り押さえられたという。


 この時、大怪我をした女友達を救うべく、神に祈ったマリアリーナは、治癒魔法に目覚めたという。ところが、マリアリーナに治癒魔法というチートスキルを与えたのが、彼女を異世界転生させた異世界の神だったのだ。


 現在、マリアリーナは聖女候補として、聖堂付きの施療院で生活している。


 貧しい村の施療院ということで、スラム街に建っている掘っ立て小屋に毛が生えた程度の、夜露(よつゆ)(しの)げるだけの簡易建築物だった。


 俺は夜半まで待ち、マリアリーナの寝所に忍び込んだ。


 そこには、昼間の治療行為で疲れ果てて熟睡しているマリアリーナがいた。


「とても可愛い……。暗殺対象でなくて良かった」


 俺は懐から、聖女エメリアより預かった『封印の神器』を取り出した。容器の(ふた)を開けると、ピアスが1個入れられていた。そして、『封印の神器』を持ち上げた時、頭の中に右耳の耳朶(みみたぶ)に装着すれば良い事が流れ込んだ。


「……、うぅ!? ……うぅ……ぅ……ぅ…………」


 俺はマリアリーナの枕元に立つと、ハンカチに睡眠薬を()み込ませて、顔面に宛がった。しばらくの間は、顔からハンカチを取ろうともがいていたが、直ぐに大人しくなった。


「痛いかも知れんが我慢してくれ。命を取られるよりはましだろう?」


 俺は、言い訳の独り言をいいながら、マリアリーナの右の耳朶(みみたぶ)に『封印の神器』を(あて)がうと、一気に穿孔(ピアシング)して装着した。


 『封印の神器』には深い青色の宝玉があしらわれており、マリアリーナに似合っていた。


「『悪魔()き』の小娘、処置完了」


 俺は小声で任務達成を確認し、その場を去った。


 後日、マリアリーナのところにはラグナ聖教の使者が訪れ、正式な聖女として認定する運びだ。その後、王都のラグナ聖教本部へと異動し、聖女としての経験を積むことになるだろう。


 マリアリーナは、とても大きな魔力を帯びているようなので、優れた治癒魔法使いとして名を馳せることになるのかも知れない。



                   ◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「神父ヨハネ様、任務の達成、ご苦労さまです」

「ありがとうございます。聖女エメリア様」

「実は……、ヨハネ様が旅立たれた後、新たな神託が下りました」

「新たな任務ですか……」

「今度は勇者の幼生体なのですが……、何らかの方法でラグラナ様の神眼を逃れていたらしく、既に勇者パーティーを形成している様子なのです」


「そ、それは大事(おおごと)ですね」


「異端審問局より部下を付けますので、対処願います」


 俺たちは、準備を整えると『悪魔』と称される、異世界の神から転移させられたという勇者の幼生体を処分するべく旅立った。


 それにしても、異世界の神々は(ひま)らしい。


登場人物紹介


ラグラナ

この世界(ラグナワールド)を統べる神の長。


ヨハネ・パブロフ神父 23歳

ラグナ聖教の異端審問局特殊事案課に属する凄腕の異端審問官。金髪碧眼の、一見すると優男だが、剣技に加えて暗器も操る美青年。


聖女エメリア 15歳

神秘的な美貌を湛えた美少女にして神託の巫女姫。この世界の大神となるラグラナ様から夢見を通して神託を受ける。目覚めると、枕元にラグラナ様からの神器が置かれている場合もある。



勇者アダムス 2歳

『悪魔憑き』のターゲットとして処分された。

豪商の一人息子として異世界転生を果たした勇者の幼生体。

父 ヘッセ


母 アマーリャ


執事

アダムスの死亡を確認した。



シソーラス

異世界の女神。聖女マリアリーナを送り込んだ。(未登場)


聖女マリアリーナ 13歳

異世界から転生させられた女神シソーラスの尖兵。サラエ村の聖堂前に捨てられた捨て子として育ったが、とある切っ掛けから治癒魔法に開眼して、聖女としての頭角を現し出したところ。

『悪魔憑き』ではあったが、『封印の神器』で前世のチート記憶を封じられ、ラグナ聖教の聖女として生きて行くことになる。



転移勇者の幼生体

詳細不明。既に勇者パーティーを組んでいる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] たまたま見つけて読んだのですが、面白かったです。異端狩りの神父と言えば、HELLSINGのアンデルセン神父を思い出しました。ノクターンの方の作品も読もうと思います。
[良い点] さすが、目の付け所が違うなぁって思いました。そしてアイデアを活かせるだけの表現力。羨ましいです。 [一言] この短編だけでも面白かったのでノクターンの方も読んでみることにしますね。
[一言] 次々と現れる転移転生チート能力者を「異端」として摘む。その発想はありませんでした。 ヨハネ神父は文章から風格が伝わってきます。とても23歳とは思えません! 幼生体であるにもかかわらず、パー…
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