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ひとかけの名残と紫苑の刃  作者: 紫木
大決戦
97/111

燻り

 ババア——もとい、俺にこの一ヶ月地獄のような訓練を課してくれた剣鬼は、玉座の中央で俺やヴィンに背を向ける形で倭国の侍たちと向かい合っている。

 剣鬼——上泉妖姫。

 この名前は倭国にいれば、誰だって一度は耳にする。

 女王の片腕として剣を振るい、この女傑が成し遂げた武勲や功績は数え上げればキリがない。

 加えてその姿を見たことがあるのも上位の侍のみとされ、存在自体が生きながら伝説として讃えられるほどの豪傑。

 それが俺と時同じくして倭国を出たという噂は聞いていたが、それがまさかこの国に来ていたとは露ほどにも思わなかった。

 だが思い返すと、この女の挙動には不審点が多い。

 初めの邂逅時にこの女の太刀筋を見ていなければ、俺は無音の境地に達することも出来ず、二度の邂逅時には、あらかじめ敵将——エンヴィル・カナートに自身の剣を学ばせることで、遠回しに俺自身の剣術が紛い物だということを示唆し、また一段俺の剣術を昇華させるまでに至った。

 この女が何の目的も無く、そんなことをするとは思えない。

 何らかの思惑の上で動いているのはわかりきっていた。

 そしてその真相こそが……

「散れ、祖国の侍どもよ。これ以上この国に足を踏み入れるというのなら、儂が直々にそっ首を斬り飛ばす」

 この国——いや、この大陸の守護。

 ババアはこの国に倭国が介入することを止めようとしている。理由は先に言った通り、この国に伝わる『魔鉱石』の存在そのもの。

「帰り次第、女王に伝えよ。其方はまた同じことを繰り返すつもりなのかとな。今度同じことが起これば、倭国は間違いなく戦火で焼け果て、不毛の荒野へと成り下がる。それは其方らも望むことではないじゃろう?」

「くっ……ならば、どうして貴女様は国を捨てたのですか!」  

 まるで苦虫を噛み潰したかのような顔で神楽はババアに詰め寄るが、当の本人はそれを意に介した様子もなく、切っ先を持ち上げる。

 何だ、この会話は? あんた等、いったい何の話を……

「今一度告げる、篤、この場を去れ」

「きゃあっ……」

 ババアの体から恐ろしいまでの剣気が発される。 

 くそっ、俺は完全に部外者扱いか?

 もう頭にきた。こうなったら実力行使で……

「——あんた——強いな」

 俺が思わずババアに突っかかろうとしたその矢先。今まで静観を決め込んでいた狂夜の身体から剣鬼と同等——もしくはそれ以上の剣気が溢れ出す。

「ほう、噂には聞いておったが凄まじいのう。儂の剣気を弾くだけでなく、威圧し、押し返そうとしておる。主、まさかとは思うが、人間を辞めたクチか?」

「ハッ、さあね。確かめたけりゃあ、殺り合おうぜ。あんたなら俺も全力を出せそうだ」 

 二人が睨み合うだけで体中の傷が疼く。

「律、これは……」

「ヴィン、何があってもそこを動くな。あれはリクセン軍の上位三傑なんて甘いもんじゃない」

 あれに触れれば、俺でもおまえを守りきれない。

「ああ、理解した。それにしても、誰か説明くらいはくれないものかな。こっちはもう鬨の声を用意していたってのに」

 まったく、同感だ。

 誰かこの状況を簡潔に……

「少年、いつまで呆けておるつもりじゃ。其方もあの惨劇を繰り返すのは御免じゃろう?」

 あの惨劇……だと?

「おいっ、俺にはアンタが何を言ってるのか……」

「良いか、心して聞け、少年。一年前、反乱軍との戦の最中、倭国の半分を飲み込んだあの炎の波。あれはこの国の『魔鉱石』を暴走させた女王の手による意図的なものだったのじゃ」

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