隠された願い
ボクは剣を構え直して目の前の敵を睨みつける。
大丈夫だ、負ける気がしない。
訓練通りに体を動かしさえすれば……
「おっそ……」
「ぐひゃい!?」
上段から斬りかかったボクの体は野蛮の女戦士に届く前に、意図もたやすく弾き返されてしまった。
だろうね。分かってたよ。そんなに上手くいくはずがない。
百も承知しているさ。百以上も承知しているはずなのに、どうしてだろうか。
負ける気が……いや、負けたいと思わない。
「くははっ、どうやらボクにも主人公たる時が来たようだ」
「……なに、こいつ、なんか可哀想なんだけど……」
「同情するような目を向けるな! それに、そんなに余裕を構えしていて良いのかい? 流石のキミも背中にまでは気が回らないみたいだな」
「はぁ?」
作戦通り、奴は背後へ振り返りガラ空きの背中をボクに向ける。
姑息だとは言わないでくれ給え。
これは策略だ。
武人を目の前にして隙を見せるなんて言語道断。
「もらったああああああ! ぐひゃい!?」
またしてもボクの体が宙に弾き飛ばされる。といか、正直すごく痛い。
「バカな、確実に奴は背後に気を取られていたはず」
この作戦のどこに落ち度が……
「愉快を通り越してキモチ悪いな、おまえ。キヒッ、まあいっか、そろそろ死んじゃいなよ」
女は舌なめずりをすると、ボクに大鎌を突きつけてくる。
くそっ、この女、本当に時間をくれないな。
ここは策略を用いて何とか活路を見出さないと……もともとマトモに戦って勝てるような相手じゃない。彼我の実力差をどう埋めていくか、それこそがボクにとっての活路。
「待ちたまえ、本当に君はそれで良いのかい? ボクには奥の手がある……それを踏まえてなお、君は本当にその大鎌を振り下ろしても良いというのかい!」
恐るな、臆病になるな。
活路を見出すまでは、ボクが勝つ方法は必ずある。
それまでは何が何でも時間を稼がなければ……
「うーん……面倒臭いからいいや。キヒッ、死んじゃいな」
無慈悲!
目の前の間にいる女はボクの言葉に何の興味も持たず、大鎌を振りかぶってくる。
「待て! 待ちたまえ! ボクには本当にとっておきの奥の手が」
「知ーらないよ」
くそっ、ボクは死ぬのか。こんなところで何も果たせずに屍を晒すというのか。
認められるわけがない。認められるわけがないじゃないか。
襲いかかる一刃を両手で剣を構え、受け止める。
もちろん、その威力は絶大。ボクごときの技量で捌けるはずもなく、無様なほどに吹き飛ばされる。
ぐあぁああ、痛い。なんて痛さだ。まるで体がバラバラになったようだ。
「ごふっ……」
内側からせり上がってきたものが地面を濡らす。
「しぶとい、今ので死んだ方が楽だったのに」
一歩二歩と狂戦士が近づいてくる。
動け、動きたまえボクの身体。
ここで終わってしまったら、もう何も残らないんだぞ。
何のために友を裏切ってまで将校の座を駆け上がろうとした!
このままじゃあ、ボクの大切な友人達が……
「ははっ、大丈夫だ。心配しないでくれ給え。ボクがそうはさせないよ。心配しないで君達はカモミールでお茶でも飲んでいた給え。ボクが必ず将校になって、悪しき新法を頓挫させてみせる。だから、君達は何も心配しなくても良い」
「キヒヒッ、何言ってんの? いよいよ狂っちゃたんだね。可哀想……今度こそ、しっかりと殺してあげるよ」
何かが近づいてくる。あれは誰だ?
意識が朦朧としてきた。
ボクはさっきから誰に話しかけている?
まあいい、些細な事だ。
「ボクは貴族だ。貴族として民を守るのは当たり前の矜持。ボクが望む民には異国民も何もない。だから、戦争が終わったからといって、異国の民を、それもこの国の為に尽力してくれた戦友達を国外へ追い出すなどと言った暴法を認めるわけにはいかない」
大丈夫だ、ボクが上に立つ人間になれれば、そんなものは絶対に推し通させない。
その為には、何を犠牲にしてもこの戦争で勲功をあげる必要があった。その為には、例え友に裏切り者だと言われようとも、勲功の取りやすい道を選ぶ必要があった。
「……大丈夫だよ、リツくん、イノリちゃん、君達はいつまでもこの国に居ていいんだ。そしてボクと一緒にこの国を盛り立て給え。大丈夫、ボクの臣下になれば、未来のことなんてどうとでも……」
どうしてだろうか、体だけじゃなく目頭が熱い。
僕は何を言ってるんだろうか。
「さあ、死んじゃいな」
何かが目の前に立っている。
それがもう何なのかすら、霞んで見えない。
「キヒヒッ、敵将討ち取ったあああ!」
何かが振り下ろされる。
それはゆっくりとボクに向かってきて………………途中で何かに遮られた。
「ああ!?」
誰かが立っている。
そして、その人物は剣を構えながら、こう口にした。
「待たせたな」と。




